46.新興宗教
新興宗教
今日の初実験で、アマネの発表した「ジーザス・システム」の理論もまたその具体的な設計・仕様について不安な箇所は全くなかった。これほどの男が「オブザーバー」として初めて会議に参加し、画期的な発言をしたのだ。今まで成し遂げれなかった代替エネルギーの理論、設計を初めて聞くアマネと言う男が発表した、それが日高には不自然に思えていた。会議の後にその男のことを雄馬から聞いた日高はすぐアマネの調査を哲生に依頼していたのだった。彼が日本に向かう前に哲生から届いた「アマネに関する報告書」には、調査依頼した項目は、全てがデータなしというものだった。
「待てよ、彼はもしかしたら科学学者ではないのかもしれない、哲生にもう一度頼んでみるか」
日高はアマネと一度も面識はない、財団の人名データバンクにも該当する科学者はいなかった。アマチュアも含め一つでも論文を発表した科学者、研究者は財団のデータバンクから漏れることはないはずだった。
「彼が科学者でないとしたら……」
日高は雄馬と握手をして別れると、オロスに戻るジェットに向かうため、待ち合わせをしていたホテルを出た。あらかじめ彼を待っていた黒塗りのセダンに乗り込むと、頭の中でもう一度つぶやいた。そして哲生のファイルに添付されたアドレスに向けて。こう手早くタイピングした。
「アマネ・ゼロの再調査を希望。検索条件、科学者を除く」
日高からの依頼を受けた駿河哲生はすぐに「旧国連」を引き継ぐ「地球連邦」 (A.A.A.)、通称「スリー・A」のデータバンクを開き「アマネ・ゼロ」を照会した。
「ヒットしないはずだ、アマネ・ゼロ。この男は科学者などではない、しかしなぜあんなシステムを考え付いたのだろう。それにしてもあいつの言うとおりドクター・マトバとの接点が不明だ……」
スリー・Aのデータ室に座る哲生は、目前の巨大なモニターを凝視しながら思った。アマネ・ゼロらしき人物のデータがモニターに次々と現れる。日高は正しかった、アマネは科学者ではなかった。検索ワードを「アマネ」に変えてヒットしたのは、世界宗教として近年信者が増加している新興宗教の後継者だった。
「アマネ」=「周 零 (シュウ レイ) 」中国東北部に突如として興った「ゾロアスター教」の流れをくむ宗教団体「ゾロニアン教団」の法王。同教団を世界宗教として布教させるため、周氏は訓読「アマネ」英訳「ゼロ」を組み合わせ「アマネ・ゼロ」という名をしばしば用いることもある。「拝火教」として有名な「ゾロアスター教」に似て、火を崇拝し、焦土から生まれるものこそが真実の神であるとする。地球においては、恐竜繁栄後の大絶滅により、人間は一歩神に近づいたとする。しかしまだ道は遠く、次に起こる「神の裁き」による「大絶滅」ののち、人間はようやく神になると説く。神への道を示すものとして「鳳凰=炎鳥」を崇拝する。周氏の出自は不明であり、年齢は200歳以上と公表されている。同教団の教祖が狂死、その後継者として周氏が法王として決定した。周氏は短期間で同教団の法王を退きその後は行方不明、現法王はxx氏……」
「アマネ・ゼロは科学者にあらず、新興宗教の法王だったとはな」
哲生は椅子に深く腰をかけ、ため息まじりにそう言った。
「しかし、ますますわからなくなった。アマネ・ゼロはドクター・マトバといつどこで会ったんだ……」
哲生がいくら考えても見当もつかない、そのまま時間が過ぎ、スリー・Aのコンピュータもセキュリティ・ロックの時が近づく。彼は手早くデスク上の資料を片付けるとついに腰を上げた。彼の後ろを追うように天井の間接照明が消えて行く。長い廊下を抜け地下の駐車場に出ると、哲生は埃まみれの古い二気筒のオートバイに跨った。爆音がセルフスターターの回転と同時に地下駐車場に轟いた。
「やはりアカデミアに行って調べるしかないか」
ゴーグルだけをかけた彼とそのオートバイは地上に勢いよく飛び出して行った。




