24.祈りの人魚
祈りの人魚
「私はね、マーラ。この星はやはり滅びに向かっていると思う」
「なんてことを、イーラ……」
「聞いて、人間たちによって先の大戦は起こった。化石燃料を使い果たした70億の人間、それでもまだこの星を痛めつけた。彼らは海底のアガルタにまでやってきて、この星の『地殻』まで削り取ろうとさえした」
「あの先の大戦に、もしマンジュリカーナ様がいらっしゃったならあんなことにはならなかったでしょうに……」
マーラがそう呟いた。
「……マンジュリカーナ様は、この星を見限られたのかもしれない。もちろんセイレ様はそれを信じなかった、でも戦いの後、ようやくこの星にたどり着いたあのカプセルには、すべての記憶を失くした少女ただ一人しか乗っていなかった」
「そのことは、七海の人魚はみんな知っているわ」
イーラの瞳が曇った。
「このアガルタに流れ着いたあの少女を石化したのは、エスメラーダの最後の力。私はその時のセイレ様の心を覗いた。あれほどの力がか弱い人間に向けられれば、その命などひとたまりもなかった。少女を石化させてしまったセイレ様はオロシアーナ様の氷結の呪文により凍らされ、そして砕かれてしまった……」
しかし、マーラは首を横に振り、力を込めてこう言った。
「エスメラーダとオロシアーナのお二人によって。この星の生き物は生き残っている。ゼロの言うようにはならない、いえ、させてはいけない。そのために私は……」
「マーラ、あなたはエスメラーダ人魚になるために何もかも失くしてしまった、本当のあなたは……」
「もういい、その先は言わないで。彼らがそれぞれの国に戻り、未来を変えることを祈りましょう」
そうイーラを制すると、飛び去った飛行艇をもう一度見上げ、マーラは指を組んだ。闘う人魚の姿から元の姿に戻ると、四人のために彼女は祈り始めた。その姿は闘いの人魚とはかけ離れた、妖艶な人魚の姿だった。
「オンネ、あれが七海の人魚の中で最も美しいとされるマーラの姿。
よく見ておくがいいわよ」
「……あれが、『七海伝説』の祈りの人魚……」
やがて祈りが終わった。二人の人魚がまた会話を始めた。
「少女像は無事なの?」
「迷宮が守っているわ。私たち人魚と『選ばれし者たち』しかその入り口は見つからない。それに人間たちからも身を隠さなければならないしね、さあ二人とも洞窟に戻るわよ」
「彼らは?」
「それはあなたたちが決めておあげなさい。すでにもう彼らはその気になっているようね、そうでしょうオンネ、それにアーケロス」
「さすがはマーラ様、俺は海上からあの人間たちを護衛しよう」
「マーラ殿、わしはこのアガルタで魚人に代わり洞窟の番人を務めよう。ゼロが再び現れるやもしれん」
「二人ともよく言ってくれました。私もそれをお願いしようとしていたのです。ただ私を呼ぶのに『様』も『殿』もいりません、私たちはすでに仲間ですからマーラで結構。、彼女らも同じでしょう」
二人の人魚が頷いた。
やがて海上に飛行艇が着水した。着岸用のボートがアガルタに着くや否や今度はその飛行艇へと戻っていった。もちろんパイロットはアガルタに着岸した際、帰りの人数が足りないことに気づいた。
「あの娘の調査はまだ済んでいないのだろう」
そう言って岩場で待っていた四人を乗せるとボートを飛行艇に向けた。間も無く双発の飛行艇はプロペラの回転数を上げ海面をゆっくりと滑り始めた。
「飛行艇を見失わないように、ちゃんと護衛頼むわよアーケロス」
その背にちゃっかり乗ったドーラがそう言って目配せ(ウインク)をした。
「もちろん、よろしくドーラ」
「しっかりやれよ、アーケロス」
「兄貴も早く尾の再生をしろよ、なんだか以前の威厳がないぞ」
そう言い残しアーケロスは海中に滑り込んだ。




