22.ラグナ・セカンド
ラグナ・セカンド
エドゥルが言った通り、地上の戦いは終息を迎えつつあった。しかしその地ひびきは、オンネに突進し投げ飛ばされたアーケロスのものだった。
「大丈夫、アーケロス」
「やはり兄貴には勝てない、イテテてっ」
アーケロスからラグナを抜き取ったドーラは器用にアーケロスを操っていた。
「馬鹿なやつ、お前ごときにわしが倒せると思っているのか」
アーケロスの棘もオンネには致命傷を与えることができない。
「ラグナに適合できないプテラ、その後の成長の止まったお前とは違い、俺のラグナはセカンドステージだ。愚かな兄弟たちよ、人魚の手先になってこの星とともに朽ち果てるつもりか?」
ドーラがアーケロスから抜き取った「ラグナ」はまだ発達途中のもの、一方オンネのラグナはかなり成長しているらしかった。
「なんのこれしき」
器用に長い首を使い、アーケロスが起き上がった。その首にしがみついているのは、再びアーケロスに飛び乗ったドーラの姿だった。
「あら、でもあなたの左手はもう使い物にならないみたいだけど」
ドーラの言う通りだ、マーラは一瞬の隙にオンネの左手の腱を槍で突いていた。だらりと垂れ下がった左手を目の当たりにしてオンネは目を見張った。
「なにっ、そんな馬鹿な!」
なんということか、オンネはその左手の痛みも不自由さも感じていなかった。
「これは一体、どうしたことだ。お前、俺の体に何をした?」
マーラの方を見据えてオンネが牙をむいた。
「やはり、かなり進行しているわね。おそらくあと数日であなたは動けなくなる。ラグナの成長が早いのはゼロのシードのせいかしら」
「お前、ラグナのことを知っているのか。このラグナが俺に恐るべき力を与えてくれることまで……」
「そう、その先は知らないのね。ラグナはあなたの体を食い破り、最後には羽化するということまでは」
「俺の体を食い破るだと、そんな馬鹿な。それじゃあ俺はラグナにとって単なる餌だというのか」
「ラグナはパラサイト生命体、太古の寄生虫なんだから当たり前でしょう」
「パラサイト生命体、まさかそんなことがあるものか」
だが体の痛みすら感じなくなった彼は、それを信じるしかなかった。
「私は嘘をつかない、かつてそれを操りエスメラーダたちを苦しめたものがいた。大戦の少し前のこと、私たち七海の人魚はその出来事を共有している。次のエスメラーダに伝えるために……」
「次のエスメラーダだと、やはりこの星にもうエスメラーダは生きてはいないのか」
ひどく落胆した様子のオンネにマーラがこう尋ねた。
「なぜ、エスメラーダを探している。ゼロの指示だけではないわね」
「お館様はこう言った。エスメラーダを探せ、ラグナの宿敵エスメラーダを殺せ、とな。ラグナが適合しなかったものは、やがて干からび死んでいく。俺たちの仲間は大勢ゼロの前で死んでいったのだ」
「私からここにエスメラーダの手がかりがあると聞くと、あなたは真っ先にアガルタにやってきた。その目的はエスメラーダにラグナを除去してもらうこと。ラグナが適合しないプテラとアーケロスはやがて死んでしまうことを知っていたのね」
沈黙の後、アーケロスが笑い出した。
「くくくっ、もしエスメラーダがそれを断れば、この人質を殺すと言ってな。はっはっは、お笑いだ。俺が真っ先に役目を終えるとはな」
それを聞き、マーラは得心したように槍を握り直した。
「エスメラーダ不在の間、エスメラーダの代理を務めるものがいる。その人魚をエスメラーダ人魚と呼ぶ。代々継がれるその名はルシナ、ダルナそしてマーラ。そう、今の私がその名を継いでいる」
「お前が、エスメラーダの代理だと……」
オンネはマーラの姿をじっと見据えた。マーラが長い槍を8の字に回す。それに呼応し、オンネの体内で結界に包まれたイーラが輝き始めた。それは今にも破裂しそうにまで、まばゆさを増していった。
「ウグゥ、何かが俺の中を這い回る、わかったぞこれがラグナか」
「ラグナは原始生命体としてこの星に生まれた。シードはおそらくゼロが宇宙からこの星に持ち込んだのに違いない。エスメラーダの光を嫌い、あなたの体の中を這い回り、苦しさにもがいているのがラグナに相違ありません」
導きの人魚、イーラがようやく言葉を発した。




