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約束の地  作者: 黒瀬新吉
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1.序章「はじまり」バンアレン帯

大規模な地殻変動は陸地の沈没や、海洋の交代、新大陸の隆起を引き起こした。引き裂かれた大地の人々を次々と襲う災厄、ようやく復活する兆しが見え始めた地球に何故か「マスター・シード」を呼ぼうとしないラビアン・ラビリンス。彼女の本意は何か、そして新たな敵が現れる……。


「満月少女 亜矢」「なっぴの昆虫王国」に続く「近未来SF」の連載開始です。

バンアレン帯【バンアレンたい】


<放射線帯とも。赤道上空を中心に地球をドーナツ状にとりまく、高エネルギー粒子が多量に存在している領域。1958年エクスプローラー1号の観測結果から米国のバン・アレンVan Allenが発見した。内帯と外帯とがあり,前者は赤道上で高度2000~5000km,後者は高度1万~2万km。バンアレン帯の高エネルギー粒子はほとんど陽子と電子からなり,内帯には陽子が,外帯には電子が多い。成因は宇宙線によって大気分子からたたき出された粒子が地球磁場に捕捉されたものとされている。地球以外にも木星,土星などに存在することが認められている。>


地球内部に存在する高温のマグマは自転により回転をする。そのため自然の磁場が発生しバンアレン帯をはじめとして、まさに自己防衛のための「防護幕」「防御壁」を形成している。大気圏を地球側から短時間で突き破るには相応の推進力を持つエンジンが必要であった。だが逆説的に言うなら、地球の重力に捉えられれば簡単に大気圏外や宇宙から地球に侵入できるのだ。バンアレン帯の高エネルギーがそれを防いでいる。


「ようやく、地球の磁場が安定し始めた。きっと半年後には元通りになる……」

小型の宇宙船の中で男はそうひとりごとを言った。船内の次元モニターには、まだ紫色に輝く場所の残る太陽系三番惑星「地球」が映し出されている。紫色の部分に置き換えられているのは「ヘリウム3」の誘爆地域を示していた。「月」の表面に大量に存在する「ヘリウム3」を枯渇した資源の代わりに、地球へと移送するためのレーザー装置、それが「ジーザス・コア」だった。しかし、突如制御不能に陥り数トン分の「ヘリウム3」が一気に「核融合」を始めたのだった。全人類の消費する100年分のエネルギーをわずか1トンでまかなえる「ヘリウム3」が数トン分消失したことをその宇宙船の中の男はもちろん知っていた。その時の衝撃が地球に及ぼした影響も計り知れない、しかし「地球」は「復活」しようとしていた。何十億年の間に何度もくりかえしてきたように……。


 わずか数度の「地軸の移動」それは人間をのぞく自然界の生き物にとっては気にも留めない。しかし確実に「新しい極地」付近の氷は厚くなっていた。この地にそびえ立つ建物は熱い雪に埋もれたまま、既に動く人の気配すらない。その中を動くもの、その生き物は年老いたホッキョクグマだった。彼はこの村の奥にある、永久凍土層のクレパスを目指していた。本能が彼をここに呼びよせたのだ、長かった彼の寿命はそろそろ尽きようとしていた。


「ズシャーン、ズガガガーン……」

雪の重みに耐えきれず、遠くで建物が倒壊した。暖をとるための燃料のたぐいは、とっくに尽きているため爆発も起こらない。ただ、ただ雪につぶされていくだけだ。住人たちはとっくに家を捨て「南下」したか、あるいはそこで「蒸発」したかもしれない。しかしそのどちらであっても彼には全く関係のないことだった。


彼は女をひとり背中に乗せている、白い巨大なセイウチから預かったものだった。セイウチは彼に、女を一緒に連れて行ってほしいと言った。迷惑な話だ、しかし彼は引き受けた。

「長い旅だ、一人より二人の方が気もまぎれるかも知れないな……」

ところが女はほとんどしゃべらない、しかも羽のように軽いなんとも不思議な女だった。毎晩天空のオーロラを見上げ、祈りを終えると女は誰かの名を呼び、ただ泣くばかりだ。ある夜のこと彼は思いきって女に尋ねた。

「何がそんなに悲しい、もう少しで楽になるというのに?」

女はすぐには答えなかった。やがて彼は初めて女と会話を始めた。


「……二人の女神が消えたとたん、この星は理性を失ってしまった。遠い『約束』の通り、私はあのお方を呼ばなければならない。あの月から……」

「あのお方?」

「……」

女は寂しく笑い、こうつぶやいた。

「あなたは似ているわ、あの心優しいマンモスに……」

「マンモスだと、大昔の毛長ゾウのことか、一体君はいつから生きているんだ?」


「私の名はラビアン・ラビリンス。決して死なない、死ねない生き物」

「ハハハッ、今から死ににいく俺の連れが『死ねない生き物』か、こりゃあいい。俺はアルザス、ホッキョクグマだ、ラビアン」

彼女はそれからほんの一言しゃべると、アルザスの上で眠った。


「……シノ様、私にはどうしても人間を許せません……」


一回り小さく見えるようになった月が、アルザスの足下へ弱い光を放っていた。

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