『物置』
––4月9日(月)
「……それ、何やってるの?」
麗華ちゃんが怪訝そうな表情で、ペットボトルのお茶を飲みながら、話しかけてまいりました。
それもそのはずで、わたくしは現在10円玉を15枚自動販売機にチャリン、チャリンと投入している真っ最中です。
「小銭って、余っちゃいませんか?」
「使うのが下手なんじゃない?」
「うっ……」
「どうせ、毎回小銭を出さないでお会計してるんでしょ」
その通りです。なので時々、こうして10円玉のみを使用してジュースを買っている次第です。
無事に10円玉を全て入れ終わり、アップルティーのボタンを押します。
ガタンという音と共にペットボトルが落ち、それを取り出すためにしゃがみ込みます。
右手で蓋を開きますが、左手にはお財布を持ったままです。
わたくしはそのお財布を自身の胸の上に置き、左手でジュースを取り出しました。
いつもは大きくて邪魔な胸ですが、こういう時には役に立ちます!
あとは、洗濯物を干す時なども、胸の上にタオルや、シャツを置けますので、毎回しゃがんで洗濯物カゴから衣服を取り出さないで済むので、とっても便利なんですよ! Iカップは伊達ではありません!
ですが、麗華ちゃんはそれがお気召さないようで、ムッとした表情をしておりました。
「どういたしましたの?」
「全く、便利な胸ね」
「麗華ちゃんも使ってもいいですわよ」
その言葉を聞くと、麗華ちゃんは悪戯っぽく笑いながら手をワサワサとし始めました。嫌な予感がします。
「あの、麗華ちゃん?」
「さっそく使わせてもらうわ」
「いや、その…………さっきのは冗談でして」
麗華ちゃんはわたくしの言葉など聞いていないようでして、ジリジリと迫り距離を詰めてまいりました。
後ろは自動販売機、逃げ場は何処にもありません。
「逃がさないわよ」
「麗華ちゃん! 目が怖いですわ!」
「覚悟!」
麗華ちゃんの「ていっ」と言う声と共に、ビックリして目を閉じてしまいました。
その直後に胸の上に少しの衝撃を感じます。
想像とは違う感触でしたのでおかしいなと思い、目を開き見下ろすと、そこにはペットボトルのお茶が置かれておりました。
「……何するんですか!」
「使わせてもらうって言ったじゃない」
「わたくしの胸は物置では、ありませんわ!」
「本当に置けて、わたしも少しビックリしてるわ」
「もう一本ぐらい置けますわよ」
「うそ!?」
驚く麗華ちゃんを他所に、わたくしは先程購入したアップルティーも自身の胸の上に乗せて、文字通り胸を張ります。
その光景を見た麗華ちゃんは「負けたわ……」と呟きながら、自宅へ向かって歩き始めました。
「ま……待ってくださいな!」
「どうしてかしら?」
「…………動けませんわ」
「まさに、"物置"ね」
そう言いながらクスクスと笑う麗華ちゃん。思わずわたくしも「ぷっ」と吹き出し、笑ってしまいました。
こうしてわたくしの大きな"物置"は、使うとわたくし自身が動けなくなる"物置"となってしまう事が発覚したのでした。
おわり!ですわ!
今日の百合SSは作者的に100点なので、明日と明後日はお休みです。春休みです。やったー!




