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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第三章 みずおととともに
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第二十七話 この次はきっと笑顔で

「ごちそーさま。さて、そんじゃやるかー!」


 馬車の問題を解決した俺は、程なく起きてきた幼女たちとの朝ごはんを済ませた後、そう口にした。


 ん?

 何をやるか、って?


「みんな 道具は持ったな!! 行くぞォ!!」


 そう幼女たちに号令を掛け、俺たちが始めたのは……


 "お掃除"だった。


 いつもは宿に泊まってるから必要ないが、今回は長老(じーさん)の好意で離れを使わせてもらったわけだからな。


 借りる前よりキレイにして返す。


 幼女たちの教育の為にも、お掃除は必須だ。


 あ、ちなみに幼女たちはまた体操服に着替えている。


 それぞれに雑巾がけをしたり、箒を掃いたり、水回りを洗ったり……


 なんつーか……ホントに小学校の頃の掃除の時間みたいな気分になるな、コレ。


「ね、ねぇ。レティちゃん……。」


 俺が縁側の掃き掃除をしていると、箒を持ったミリィがおずおずと近づいてきた。


 あー……あの事かな?


「そのっ……昨日ってわたし……レティちゃんと一緒に寝ちゃったのかな?」


 小声で耳打ちするミリィ。


 やっぱその件か。


「あ、あぁ。……覚えてないのか?」


 俺が問うと、ミリィはこくんと頷く。


 ロロの時と同じだ。

 一体なんなんだろうな。


「あのっ……! わたし、レティちゃんに迷惑掛けてなかった!?」


 記憶が無い故に不安だったのだろう。

 ミリィはそう俺に問う。


「ん、全然だいじょーぶだ。」


「ホント!? よかったぁ!」


 俺が答えると、ミリィは見るからにホッとした表情をする。


 うん。

 迷惑なんてとんでもない。

 むしろお礼を言いたいくらいだ。


 俺の回答に安心したミリィは、また部屋の掃除へと戻っていった。


***


「さて。じゃあそろそろ行くか。」


 離れの掃除を終え、忘れ物の確認も済ませた俺たちは馬車の前に集合する。


 そこへ――


「あ! 長老さま!」


「お。じーさん、おはよ。」


 本宅の方からこの街の長老――"ザルツ"が現れた。


 色々あったが、この街で一番世話になったのは間違いなくこの爺さんだ。


「なんつーか……ありがとな。」


 俺が礼を言うと、長老は相変わらずの不機嫌顔で告げる。


「フン。礼を言われる筋合いは無いわ。」


「で、でも! こうして見送りにも来てくださって嬉しいです!」


 ミリィがそう返すと、長老はミリィに向き直る。


「別に見送りに来たわけではない。ミランダ。貴様に"忘れ物"を持ってきてやっただけじゃ。」


「わすれもの……?」


 きょとんとしているミリィに、長老は懐から一枚の書状を差し出す。


「全く……。成竜の儀を終えた者に与えられるモノぐらい、きちんと把握しておけ!」


 戸惑いながらも書状を開くミリィ。

 俺もミリィの後ろからそれを覗く。


「!! ……これって!!」


 その書状には、こう記されていた。



『ミランダ=ウィンチェスター


 此の者の成し遂げた大義を認め


 「リンクドラゴン」の名を授ける。』



 以前、俺もミリィから聞いていた。


 竜種の魔族は、生まれた時はただの『ドラゴン』なのだそうだ。


 "力"を身につけ、その"力"で何かを成し、認められた時に"種族名"をもらえる、と――。


「フン。そこの魔王の娘が付けた名を、そのまま使わせて貰った。文句は聞かんぞ。」


 不愛想にそう告げる長老とは対照的に、ミリィは瞳に涙を浮かべる程に感激していた。


 書状をぎゅっと抱きしめたミリィは、


「ありがとう……ございます……!!」


 呟くように、噛み締めるように――そう口にした。


 そんなミリィを前に、長老は、


「フン。まだ話は終わっておらぬわ。」


 と、またも不愛想に告げる。


 え?

 まだなんかあんのか?


 俺とミリィが揃って首を傾げると、長老はコホンと咳払いをしてから告げた。


「貴様らが昨日泊まった"離れ"じゃがな。成竜の祝いとしてくれてやる。」


「えっ!?」


 思いもよらぬ長老の言葉に、ミリィが驚きの声を上げる。


「い、いえ、そんなっ! 長老さまの離れなんて頂けないですっ!」


「む? なんじゃ? 儂の家の離れでは不服だと言うのか?」


「そ、そうじゃなくてっ!! あんな立派な離れを頂くなんてダメですっ!!」


「フン! あんな小汚い離れに、大切な客人なんぞ泊まらせられぬわ! 貴様らぐらいしか使わぬのならば、くれてやっても問題あるまい。」


「で、でも……!!」


 平行線な会話を繰り返す爺さんとミリィ。


 あーもー!

 この二人は!!


 二人のやりとりに痺れを切らした俺は、その問答に割って入る。


「じーさん! アンタの性格はわかってっけど!! もっと分かりやすく言ってやらねーと伝わるモンも伝わんねぇよ!!」


 そして俺はミリィに向き直る。


「ミリィも! このじーさんの言うこと、真正面から受け取っちゃダメだって!! いいか? このじーさんはな……!!」


 そして俺は一呼吸置き、ミリィに告げる。


「『いつでも帰ってきていいんだぞ』って……そう言ってくれてんだよ。」


 俺の言葉に、一瞬「えっ……?」と驚くミリィ。


 ミリィはその表情のまま、長老の方を向く。


 長老は俺の言葉を肯定せず――だが否定もしなかった。


 ミリィの視線を避けるようにそっぽを向いたその顔は……僅かに"照れ"に染まっていた。


「あっ……ありがとうございますっ……!! 長老さまっ!!」


 大きくお辞儀をしたミリィに、長老はまた「フン。」と不機嫌そうに呟く。


 いや、訂正しよう。


 長老は「フン。」と――この上無く嬉しそうに(・・・・・・・・・・)呟いた。


 全く、ツンデレジジイめ。

 ちったぁ素直になりやがれってんだ。


***


「長老さまー!! 行って参りますー!!」


 馬車へと乗り込んだ後、ミリィは手を振り続けた。


 その表情には、最初にこの街に来た時にあった不安げな色は微塵も無くなっていた。


 いつかまたこの街に来る時は、きっと今みたいな笑顔で訪れることが出来るだろう。


 そんな事を思っていると、御者席のシュレムから声が掛かった。


「レティーナさま。それで……この先はどうしましょう?」


「ん? どうって?」


「その……今朝の事もありますし、まだ大きな道に出るのは避けた方がいいんじゃないでしょうか……?」


 俺たちの今進んでいる道は、襲撃を避ける為のいわば"裏道"だ。

 交通量の多い道に比べれば遠回りをしている状態になる。


 襲撃を恐れるのならばこのまま裏道を進むべきなのだろうが……


「……いや、大丈夫だろ。大通りに出よう。」


「えっ!?」


 少しだけ考えた後、俺はシュレムにそう指示する。


「今朝のが敵陣営……ガリオンの妨害だったんなら、どの道こっちの場所がバレてる事になる。このまま裏道を行くのも大通りに出るのも一緒だ。だったら早く進める方がいいだろ?」


「そ、それはそうですけど……」


 心配そうな声を上げるシュレム。


 そんなシュレムとは真逆に、馬車の中から明るい声が上がる。


「なんじゃ!? 大通りに出るのか!?」


 声を発したのはグリムだった。


「ん? あぁ。なんだグリム。どっか行きたいトコでもあんの?」


 俺が問うと、グリムは目を輝かせて告げる。


「この先にな! おっきな街があるのじゃ! お洒落なお店もたーくさんある街で、妾も一度行ってみたかったのじゃ~!」


 いつもはちょっと背伸びして大人ぶっているグリムが、年相応にはしゃいでいる。


 ……かわいい。


 シュレムに問うと、このまま向かえば夕方には着ける場所のようだ。


 大きな街なら、留守番してくれてる従者のみんなにお土産も買えそうだし……よし!


「んじゃ、そこ行ってみっか!」


 こうして俺たちを乗せた馬車は、裏道を離れ、大通りを進むのだった。

 お読み頂きありがとうございます♪


 そして……ごめんなさい!

 ちょっとここで投稿に間を空けさせて頂きたく思います。


 今回は少し長くなりそうです。

 一ヵ月後くらいには帰ってこられるかと……


 楽しんで頂いている方には申し訳無いですが、出来るだけ早く帰ってこられるよう頑張ります。

 絶対にエタらせる事だけはしませんので……!


 どうぞ今後とも本作をよろしくお願い致します。

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