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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第三章 みずおととともに
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第二十二話 お説教は二人並んで

「何をやっとるかぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


 広場に響いた怒声――。


 その声の主は、湖を囲うように盛り上がった土手の上から広場を見下ろしていた。


 白髪の長髪。

 老齢のその爺様は、しかし顔に刻まれた皺とは裏腹に、鋭い目つきをしていた。


 猛禽類を思わせるその攻撃的な眼差しが、まるで獲物を狙うかのように広場にいる者達へと注がれる。


 おそらく"この街の住人でない者"を見定めているのだろう。

 時折止まるその視線は、俺と目が合った際にも停止し、遠慮の無い眼力をぶつけてきた。


 やがてその視線が――ある一点で完全に止まる。


「ミランダ……!!」


 ミランダ――。


 ミリィの名を、唸るように口にする老人。


 その視線と声に、当のミリィは――震えていた。


「長老……さま……!!」


 怯えるミリィは、足を震わせながらも、その視線から目を逸らせずにいる。


「貴様……何故ここにいるッ……!?」


 長老と呼ばれた老人は、年齢を感じさせない健脚でズカズカと土手を降り、ミリィの目の前へと至る。


 ミリィの頭の遥か上方――長身のその老人は、まるで地獄の閻魔の如き怒りの形相で、ミリィを睨みつける。


「貴様がこの街に戻るということが、何を意味するか分かっておるのかッ……!?」


 視線に質量があれば、そのまま射殺されてしまいそうな程の眼力。


 その射線上に――


「……何じゃ、貴様は。」


「!! レティちゃん……!?」


 ミリィを庇うように、俺は立ち塞がる。


「……レティーナ=ランドルト。この子の友だちだ。」


 俺が名乗ると、老人は一瞬、眉をひそめる。


 が、


「フン! 貴様が噂の"魔王の娘"か……。だが部外者には変わりあるまい。無関係な者が口を挟むなッ! ……来い、ミランダッ!!」


 そう言って老人は、ミリィの腕を掴もうと手を伸ばす。


「い、イヤッ!」


――ガシッ!!


「……。」


 その老人の腕を――俺は掴む。


「爺さんよォ……聞こえなかったのか?」


 "魔王の娘"――?


 俺はそんな風に名乗ってねぇぞ?


 "部外者"――? "無関係"――?


 ハッ!

 歳で耳が遠くなってんのか?

 聞き取れなかったようだから、もう一遍言ってやる。


「俺はミリィの……"友だち"だ!!」


***


 湖畔の街"イヴァラム"の住宅街の更に奥――。


 竹林に囲まれた大きな屋敷に、俺とミリィは連れて来られていた。


 ……いや、連れて来られたのは正確にはミリィだけ。

 俺は無理やり同行してきただけだ。


 日本家屋を思わせるその大きな平屋建ての屋敷の客間に、俺とミリィは並んで正座している。


 そしてその正面には先ほどの爺さん――長老"ザルツ"が鎮座していた。


 ミリィによれば、この竜種の街で最も権力を持った人物らしい。


 未だに緊張に身体を強張らせているミリィ。

 そんなミリィを前に、長老は口を開いた。


「ミランダよ……。何時戻った……?」


「今日の……お昼過ぎです……。」


 高圧的なその声に、ミリィは震える声で返答する。


「貴様は人間領で暮らすよう命じたはずだ……。何用でこの街へと戻った……?」


「その……魔族領王都へと向かう旅の途中……宿を取らせて頂こうと……立ち寄りました……。」


 尚も長老の顔は険しい。


「旅の行き先は……?」


「えと……魔族領の、王都……です……。」


 痺れを切らした俺は、長老とミリィの会話に割って入る。


「明日の朝にはおとなしく出ていくつもりなんだ。もうこの街で何かするつもりも無い。それでいいだろ?」


 村八分になってたミリィを不憫に思ってした事だったが……こんなにミリィが怯えちまうんなら、これ以上事を荒立てるのは得策じゃない。

 ここはそれで手打ちにして貰おう。


 そう考えた俺だったのだが……


「……ならぬ。」


 長老は、それを否定した。


「ミランダよ。貴様は……この街に残れ。」


「えっ!?」


「はぁっ!?」


 長老の言葉に、俺とミリィが同時に驚きの声を上げる。


「いや、ふざっけんなよ!? ミリィを追い出して今まで一人ぼっちにさせてたくせに、いざ戻ったら今度は『この街に残れ』だと!?」


 あまりにも理不尽な長老の言葉に、俺は吠えるように抗議する。


「貴様は黙っておれッ……! 竜種の裏切り者を、王都になど向かわせられるものかッ……!!」


 長老は目を血走らせて拒否する。

 その目は、言葉では到底説き伏せられないであろう意思を感じさせた。


 だが当然、俺らだって譲れない。

 ミリィを一人で……しかもこんな四面楚歌な状況の街に残していけるワケねぇ。


「……俺らがそんなモン、聞くと思ってんのか? 力ずくでも出ていくぞ?」


「……やってみるか? 儂が命じれば、この街の民総がかりで貴様らを潰すぞ?」


 俺と長老は、互いに引かない意思を示すように、相手の顔を睨む。


 そんな一触即発の空気の中――


「やめてくださいっ!!」


 口を開いたのは、ミリィだった。


「長老さま……!! わっ、わたしたちはっ……!! 行かなきゃいけないんですっ……!! お願いですっ……!! 行かせてくださいっ……!!!」


 そう言って、ミリィは長老を前に土下座する。


 ……恐らく、ミリィは嫌なんだろう。


 このまま俺と長老が譲らず、マジで力ずくの展開になった時――


 俺らが傷つくのも、そして――この街の人たちが傷つくのも……。


 ホントに……優しい子だ。


「フン! 貴様が頭を下げた程度で、儂が意見を変えるとでも思っておるのか……?」


 だが長老の態度に変化は無い。


「もしどうしても譲れぬというのならば……"竜玉"を捨てるくらいの覚悟を見せてみよッ……!」


「……っ!!」


 長老の言葉に、ミリィの顔が青ざめる。


「ミランダ。持っておるのじゃろう……?」


 問われたミリィは、胸元を右手でぎゅっと握りしめる。


 僅かに震える手で服の下から取り出されたそれは――細い銀色のチェーンに、小さな琥珀色の宝石の付いた"ペンダント"だった。


「己の意思でこの街を出るというのならば、竜神様の元へと竜玉をお返しせよ……。それが条件だ……。」


 冷たく言い放つ長老と、震えるミリィ。


 だが俺には、それがどれ程の事なのかが理解出来ない。


 そんな俺の様子に気付いたのだろう。

 長老が忌々しげな顔で説明する。


「竜種の子は、生まれた時に親から"竜玉"を受け継ぐのだ……。竜神様の加護と共にな……。」


 その言葉で、俺はようやく理解した。


 それは、つまり――


「ミリィの……親父さんの形見じゃねぇか……!!」


 それを捨てろと言ってきたのだ。


「ふざけ……っ!!」


 再度長老に吠えようとした俺を――ミリィがすっ、と手で制した。


「わかり、ました……。」


 顔を伏せたままのミリィのその声は――悲しげな"覚悟"を帯びて、部屋に響いた。

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