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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第二章 つきあかりとともに
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第十七話 今夜はいつもより甘えん坊

 ロロとの"お散歩"を終えた俺が宿に戻ったのは既に日付が変わった後だった。

 イベント頻度の高い一日だったが……流石にもう何も起こらないだろう。


 自室に戻った俺は布団に潜り込み、そのまま眠りに就いた。


***


(んぅ……?)


 眠っていた俺は、妙な感覚に目を覚ました。


(なんか……布団が重たい……?)


 旅先で寝ると金縛りに逢いやすいというが、それだろうか?


 掛け布団越しに、何かに圧し掛かられたような感触――

 といっても大人程の重さは無い。


 そう。

 まるで子供のような――


「ふふ……♪ レティどのぉ……。」


 微かに耳に届いたその声に、俺は目を見開く。

 そして掛け布団の上を見れば――


「ろ……ロロ……?」


 ロロが――馬乗りになっていた。


 ……って、え!?

 ちょ、どういう状況!?


「な、何してんの? ロロ……?」


 いや、何してんだも何も無い。

 否が応でもロロの姿を見れば、何をしているのか理解出来てしまう。


 何せロロは――はだけたパジャマに下着(ぱんつ)一枚という格好なのだ。


 そんな姿で俺の布団に馬乗りになる理由なんて――


(い、いやいやいや! ロロに限ってそんな……!!)


 今日の"告白"でも分かる通り、ロロは俺に過分に懐いてくれている。


 だから"こーゆー事"をしてもおかしくない……?


 否!

 俺の知ってるロロは、元気っ子だけどとっても照れ屋さんだ。


 そんなロロが自分から……、その……"夜這い"なんてするだろうか?


「あ、起きたでありまふかぁ?」


 混乱する俺に、馬乗りのロロは問う。


 よくよく見れば――頬は色っぽく染まっており、また呂律も回っていない。


 あれ?

 これって……?


「ろ、ロロ? もしかして……酒、飲んだ?」


 俺の周りには、飲んだくれなオトナどもが数名居る。

 だからこそ幼女たちには日頃から『お酒はオトナになってからだぞ』と忠告していた。


 真面目なロロがその言いつけを破ったとは思えないし――

 鼻の効く【ヘルハウンド】のロロが誤って酒を飲んでしまうのも考え難い。


 だが、素面のロロが自分から夜這いをしてくる事に比べれば、まだその方が有り得る気がした。

 実際、目の前のロロは完全に"酔っぱらった幼女"にしか見えない。


「お(しゃけ)でありまふかぁ? 飲んでないでありまふよぉ?」


 呂律が回らぬまま、ロロは俺に赤い顔を近づける。


 酒臭っ……くない?

 あれ? やっぱ飲んでねぇのか……?


「にゅふぅ~♪ レティどのぉ~~♪♪」


 だがロロは、いつもでは考えられないくらいに積極的に、俺にスキンシップしてくる。

 柔らかなほっぺを俺の胸元にすりすりしてきて――


(いや、マズい! マズい! このままじゃ! このままじゃ……あれ?)


 いつもと違うロロに混乱していた俺は……ふと気付く。


 あれ?

 何か困ることあるっけ?


 可愛いロロに夜這いされて、果たして何を困るというんだろう?


「レティどのぉ♪ レティどのぉぉ♪♪」


 俺の胸元で蕩けた笑みを浮かべるロロを――


「ロロ。」


「ふぁい……?」


「……そんな格好じゃ風邪ひくぞ。ほら。」


 掛け布団を持ち上げて、その中へと入るよう促す。


「えへへ~♪ 失礼するでありまふ~♪」


 促されるまま布団に潜り込むロロ。


 そのまま俺たちは――


***


(あー、もう朝か……。)


 カーテンの隙間から、朝日が差し込む。


 ベッドから身を起こした俺は、隣で眠るロロを確認する。

 うん、やっぱ夢じゃないよね。


 しかし……流れに身を任せてしまったが、あのロロの様子はなんだったのだろう?


 もしかして獣種の魔族には"発情期"でもあるんだろうか?


 だとしたら嬉し……いや、重大な問題だ。

 後でエリノアにそれとなく聞いてみよ。


 俺がそんな事を考えていると、何やら慌てた様子で廊下を走る足音が遠くから聞こえてきた。


 ドタドタと慌ただしく響いたその足音は、俺の部屋の前で止まる。

 そしてその勢いのまま、ドアをノックする音へと変わる。


――ドンドンドン!!


「レティーナさまぁっ!! たっ、大変ですっ!!!」


 ドア越しに響くシュレムの声に――俺は焦る。


 ちょっ!?

 待って!!

 流石にロロと一緒にベッドに入ってるトコ見られんのはアウトだ!!


「まっ、待ってくれシュレム!! 今出るからっ!!」


 大急ぎで着衣を整えた俺は、ベッドで気持ち良さそうに眠るロロをそのままにドアへと向かう。


「ど、どした?」


 若干パジャマのボタンを掛け違えつつ、それでもなんとか取り繕った格好でドアを開く。

 だがそこには、そんな些細な事など気にしている場合では無いといった様子のシュレムが、焦りMAXの表情で立っていた。


 ここまで全力で走ってきたのだろう。

 息が上がっている。


「あのっ! 馬車がっ! マズいことにっ!」


「ん? 馬車がどうした?」


 故障でもしたのだろうか?

 それにしては尋常じゃない焦り方に見えるが……。


「そのっ! とにかく来てくださいっ!」


「お、おぅ……。」


***


 シュレムに連れられて、俺は宿の外にある馬車の停留場であった。


「今日出発とのことでしたので、馬車の点検をしていたんです。」


 おぉ。有能なガイドさんだな。


「そしたら……えと、この下なんですけど……。」


 そう言ってシュレムは馬車の下へと潜る。

 可愛いお尻がフリフリと揺れるのに見惚れそうになりつつ、俺も同じく馬車の下へと身を潜らせる。


「これです。」


「お、おぉ!? なんだこりゃ?」


 馬車の底板――

 地面に向いた面に――得体の知れない"棘付きの黒い球体"が刺さっていた。


 ビジュアル的には小さいウニみたいな感じだ。


 ……って、ナニコレ?


「これは、位置を特定する"呪装"です。」


「位置を特定って……あ!」


 俺は橋での襲撃を思い起こす。


 ……マジか。

 あの時馬車に取り付けられたって事かよ……。


 位置を特定って事は、要は発信機だろ?


 それはつまり――


「このままにしとけば、また襲撃される恐れがあるって事か……。」


 俺が呟くと、シュレムが頷く。


 ガリオン、っつったっけ。

 どうやら敵さんは、俺らを諦めてはくれないみたいだな……。


「すぐに取り外しますね。」


 シュレムはそう言って、ウニ型発信機に手を伸ばそうとする。


「……いや、ストップ!」


「ふぇ!?」


 制止され、驚くシュレムが俺を見る。


 そんなシュレムに、俺はニヤリと笑って告げた。


「コイツは…… こ の ま ま に し と こ う 。」

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