第十五話 きっかけはキミだから
「ロロちゃん、レティーナちゃん、エリノアさん。今日はホントにありがとう。」
店を出たミサキさんは、そう言って俺たちに深く頭を下げた。
その感謝の意を受け、俺の隣に立つロロは少し困ったような表情をする。
「ミサキ殿……お礼の相手が違うでありますよ。自分は結局何もしていませんので、レティ殿とエリノア殿だけで……」
そう言おうとしたロロの言葉を、俺は遮って告げる。
「そうだよミサキさん。お礼なら……ロロにだけ言えばいい。」
俺がそう言うと、ロロが困惑した顔をする。
そんなロロを他所に、俺は続ける。
「俺らはロロがミサキさんの事、泣くほど心配してたから動いただけだ。だから……礼ならロロに言ってくれればいい。」
実際そうなのだ。
もしミサキさんが今日たまたま知り合っただけの人だったら、例え事情を知っても俺は動かなかっただろう。
だから感謝される謂れは無い。
ロロが居なきゃ、そもそも助けなかったのだから。
俺の言葉に、ロロはまだ何か言おうとしていたが、
「そうね……。ありがとう、ロロちゃん。」
そう言ってロロの身体をぎゅっと抱きしめたミサキさんに、それ以上は何も言わなかった。
すると、ミサキさんの後ろに居たトーブとウェノーが、俺の元へと歩み寄った。
ロロに聞こえないようにという配慮だろう。
しゃがんで小さな声で、二人は俺に言った。
「レティーナ様、この度の件、心から感謝致します。」
「もし何か困った事があればご相談下さい。我ら"アナ・ゴーイ憲兵団"一丸となってご助力致します。」
そう言って二人は傅く。
お、おぅ……。
そりゃありがてぇけど……大男二人に傅かれるってすげぇ迫力あんな……。
……あ!
「あ、じゃあさ。さっそくなんだけど一つ……いや、"二つ"、お願い出来るか?」
***
「んじゃ、二人ともミサキさんの事よろしくな!」
「お任せ下さい! ミサキ先輩は無事に送り届けます故!」
「"先程の件"もお任せ下さい! 明日の朝にはご用意出来ましょう!」
「おー! よろしくー!」
トーブとウェノーにミサキさんを送るのを任せ、俺らは宿への帰路に着いた。
「レティ殿。"先程の件"ってなんでありますか?」
歩きながらロロが問う。
「ん~。ちょっと二人に頼み事があってな。まぁ明日の朝には分かるさ。」
特に隠す意味は無いが……まぁ内緒にしとこう。
「それにしてもミサキさん、すげぇよな。レゴルから診療費を取り立てるだけじゃなく、強烈な仕返しまで……。」
俺がそう言うと、ロロがハッとする。
「れ、レティ殿! ミサキ殿は大丈夫でありましょうか!? もしあの貴族が憲兵さんに訴えでもしたら……!」
遅れながら気付いたロロが不安な表情を見せる。
そう。確かにあれはグレーゾーンだ。
暴力を振るった事に違いは無い。
だが……
「大丈夫だ。」
「ほぇ……?」
俺の言葉に、ロロがぽかんとする。
「考えてみろ。憲兵さんに訴えるにしたって、何て言うんだ? 『フった女にビンタされました!』って? そんな事言ったところで、鼻で笑われて取り合っちゃ貰えないさ。」
気絶する程の威力とはいってもただの"ビンタ"だ。
そんな事でミサキさんを捕らえに来る程、憲兵も暇じゃない。
むしろ訴えればレゴル自身の名を貶める行為になる。
『フった女にビンタされて失神した貴族』なんて永久に笑い者だ。
「逆にあの一発で、レゴルは完全にミサキさんを諦めるだろうさ。」
そう言ってやると、ロロは安心してくれたようだ。
ほっとしたような表情で、少し俯き気味に呟く。
「やっぱり……レティ殿はすごいであります……。」
「ん? 凄いのはミサキさんだろ?」
そんなやりとりをしつつ、宿への道を歩く俺とロロ。
と……
「うぇっぷ……。飲み過ぎましたわぁ……。」
……酔っ払いサキュバス。
「お前なぁ……。作戦じゃ"二、三杯飲んだらミサキさんの件を聞く"だったろ?」
エリノアが何杯もおかわりするもんだから、本当に酔いつぶれるんじゃないかとヒヤヒヤしていたというのに……。
「そ、それは……その方がレゴルさんを油断させられるかと……」
「……"血の盟約"で命じる。本音は?」
「うわ~ん!! あのカクテルが美味しかったんですもの~~!! ごめんなさいですわ~~!!」
全くこの従者は……。
うん、後でお仕置きしとこう。
***
部屋へとエリノアを送り届けた俺は、自室に戻るべく廊下を歩く。
長い一日だったが……これでロロも安心出来るだろう。
ロロの笑顔に比べりゃ、大した事じゃない。
そんな風に考えていた俺は――
「? ロロ?」
自室の前に、俺を待つようにしゃがんでいたロロに遭遇する。
ロロは俺に気付くと、立ち上がって何かを伝えようとする。
「レティ殿……その……。」
何やら思い詰めたような表情で言い淀むロロ。
どうしたのだろう?
ミサキさんの件ならもう心配は無いと思うが……
それからしばらく悩んでいたロロだったが、やがて意を決したように口を開いた。
「そのっ……今から少しだけ、一緒に"お散歩"して頂けませんでしょうかっ……!!」




