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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第一章 はつゆきとともに
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第九話 目的地はキミのおうち

 "水の腕"の襲撃から逃れた俺たちは、橋から一キロ程進んだ街道沿いで馬車を停めた。


「みんな、ケガしてないか?」


 馬車の中の幼女たちに声を掛ける。


「大丈夫だよ、おねーちゃん!」


「ころねもだいじょうぶなの!」


「……だいじょぶ。」


「平気だよー。びっくりしたけど。」


「自分も問題無いであります!」


「妾もじゃ。」


「イタタ、おでこをぶつけましたわ~……。」


 よし。被害はゼロだな。


 さて、まずは……


「シュレム。」


「はっ、はいっ!?」


 急に声を掛けられたシュレムが驚く。


「まず先に謝っとく。ゴメンな。」


「ふ……ぇ?」


 何を謝られているかが分からず、シュレムがポカンとする。


「いや、あの"水の腕"が出てきた時な。俺、シュレムが犯人かもって思ったんだ。」


 俺の言葉に、シュレムが小さく「あっ……!」と声を漏らす。


 そう。

 余りにもタイミング良く現れた襲撃者に、俺は第一にシュレムを疑ったのだ。


 俺らの事情を知ってて、尚且つ"水の腕"の第一発見者だ。

 シュレムを疑うなんてしたくは無いが……それでも妹たちに危機を及ばせるわけにはいかなかった。

 もしシュレムが犯人なら、話し合いで解決出来るかもという期待もあったからな。


「で、ミリィに頼んだんだ。」


 エリノアの"魂を見て嘘を見抜く"の力――。


 それをミリィの"力"――"スキルリンク"で俺に繋いでもらった。


 イナガウ・アッシュで暮らしていた際にも、怪しい商人や不審者が出たときには何度か繋いでもらったからな。

 ミリィには『アレを頼む』ですぐに伝わったようだ。


 そして"力"を繋いでもらった俺が見た限り……シュレムは"白"だった。

 "水の腕"を前にして本気で焦っているシュレムに、"嘘の色"は見て取れなかった。


 ついでに言うと後ろから来てた農家のおじさんも見てみたのだが……おじさんも"白"だった。


 "水の腕"を操っていた奴は、もっと離れた場所から俺らを見ていたのだろう。

 初撃を外したのも、遠くから"力"を使っていたせいで動作に時間差(ラグ)があったのかも知れないな。


「つーわけだ。スマン! 悪く思わないでくれ!」


「い、いえいえっ!! 状況的にも、ボクが疑われるのは仕方の無いことですからっ!!」


 俺が詫びると、シュレムはブンブンと首を振った。


「それでシュレムの疑いは晴れたんだけど……それとは別にシュレムに聞いときたいことがあってな。」


「あ、はいっ。何でしょう?」


 俺は先程の襲撃を思い返しながら、シュレムに問う。


「さっきの"水の腕"を操ってた奴……シュレムには、心当たりがあるんじゃないか?」


 そう。

 俺が現れた"水の腕"に『モンスターか!?』と反応した際、シュレムは『魔族の"力"で作られたものです!』と"断定"した。


 モンスターでない事は知識として知っていたとしても、初めて見る"力"なら、『"力"で作られたものだと思われます。』程度の"推定"になるだろう。


 だがシュレムの言葉は"断定"だった。

 まるで――"知っている力"であるかのように。


 問われたシュレムはしばらく言い淀んでいたが、やがて呟くように口を開いた。


「あれは……魔王選定選挙の、現在の"筆頭候補"による襲撃の可能性が高いです。」


 シュレムの言葉に、俺は内心『あぁ、やっぱりな。』と納得する。


 魔族復権推進派が壊滅したってんなら、俺らを狙う奴に心当たりなんか無い。

 現にテノンを退けて以降、そうした危機は無かった。


 じゃあ今日の襲撃が俺らを狙ったものだったと仮定して、一番有り得る相手は――?


 直近で起こった"変化"――つまり"魔王選定選挙"の関係だ。


 その"筆頭候補"ってんなら、俺らを邪魔に思うのも頷ける。


「筆頭候補の名は"ガリオン"。元・魔王軍の魔族で、実力だけならば幹部クラスであったと噂される程の人物です。」


 ガリオン……ソイツが敵の親玉か。


「ガリオンは水棲種【クラーケン】の魔族で、"力"は"魔力を込めた水を自在に操る"というもの。先程の襲撃も、ガリオン本人によるものと思われます。」


 マジか……。


「親玉さん自ら妨害って……そんなんバレたらマズいんじゃねーの?」


 コッチの世界の選挙事情は知らんが、普通に違法だろ……。


「ボクたちが見たのはあくまで"力"だけですから……。ガリオン本人が"力"を使っているのを目撃出来ていれば、選挙管理委員会に訴えられたのですが……。」


 なるほど。姿を見せなかったのはそういう理由か。


「すみませんっ!!ボクもまさか、敵陣営がこんな強引な手段に出るなんて思わなくて……!」


 シュレムが申し訳なさそうに頭を下げる。


「シュレムのせいじゃないさ。悪いのはガリオンだ。」


 まぁともあれ、敵の正体とその意図は凡そ掴めた。


 後は……『これからどうするか』だな。


 普通に考えたら"帰る"のが一番だ。

 幼女たちを連れて、命の危険を伴う旅なんて出来ない。


 だが帰るにしても……


「馬車で引き返すのは……厳しいよな。」


 人間領と魔族領を繋ぐ唯一の陸路である橋は、先程の"水の腕"に壊されてしまった。


「海路はどうだ?」


 俺の提案に、しかしシュレムは首を横に振る。


「漁船程度の小さな船なら乗れるかも知れませんが……。」


「……そうだよな。あの"力"で海上で襲われたら、小さな船じゃひとたまりもねぇもんな。」


 "水を操る力"……海に出ちまったら逃げ場も無い。

 大型船ならともかく、漁船で帰るのは避けたいところだ。


「王都の西にある貿易の街……"オーベック"まで行けば、人間領行きの大型船もあるんですが……」


 俺らのいるこの大陸は、北東から南西に広がっている。

 人間領は北東側、魔族領は南西側――。


 "オーベック"とやらが魔族領王都の西っつーことは、結局王都まで行かなきゃダメ……か。


 ……うん。そんなら……


「とりあえずこのまま進むしかねぇな。襲撃を警戒しつつ大通りを避けて進んで……まずはどっかの街に入ろう。」


 俺はそう結論を出す。

 ここにいても追手が来る可能性はある。

 立ち止まるより、前に進もう。


「あ! それならば!」


 と、ここでロロが口を開く。


「この先に、自分の育った街があるであります! 大通りからも離れているので、ひとまず安心かと!」


 おぉ! マジか!


「じゃあロロ、悪いけどその街まで案内頼んでいいか?」


「おまかせであります!!」


 頼られたのが嬉しいのか、笑顔でそう答えたロロの案内に従い――


 俺たちを乗せた馬車は、また林道を進むのだった。

 お読み頂きありがとうございます♪


 ……既にお気付きかと思いますが、この"後日譚"、いわゆる"短編"では無いんです。


 "第二幕"って言った方が正解かもです。

 (なんか間が空いちゃって『新展開突入!』とか言い辛かったの。ゴメンね。)


 まだしばらく続きますので、気が向いたときにでもお読み頂ければ嬉しいです。


 そして……重ねてスミマセン! ちょっと投稿ペース落とします!

 なんとか一日置きくらいのペースは守っていこうと思いますので、今後ともどうかよろしくお願い致します。

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