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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第一章 はつゆきとともに
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第二話 わがまま言ってもいいですか?

「あ! おねーちゃん、おかえりー!」


「レティねぇ、おかえりなさいなの!」


 俺が自宅を兼ねて使っている宿の扉を潜ると、宿の従業員であり、俺の可愛い妹であるアイリスとコロネが元気な声で出迎えてくれる。


 金髪のショートカット。外側に跳ねた髪が特徴的なのが次女のアイリス。

 桃色の艶やかな前髪が、眉の上で綺麗に切りそろえられているのが三女のコロネだ。


「ただい……おぅっ!」


 小さな幼女二人が左右からの不意打ち同時ハグ……!

 くそぅ! 反則だろ!


「……ただいま。いい子にしてたか?」


 ぷにぷにとした四本の手に鳩尾をぎゅっとされたまま、俺は二人の頭を撫でる。


「うん! 今日はお客さん少なかったから、お掃除がんばってたの!」


「ころねはおせんたく! がんばったの!」


 ここ、イナガウ・アッシュの街は"関所の街"とも呼ばれる交通の要だ。

 が、今の時期はその交通量が激減している。


 不景気とかじゃなく、単にそういう時期なのだそうだ。

 もう半月もすれば、以前の活気を取り戻すらしい。 


 笑顔で答える二人を「そっかー! えらいぞー!」と褒めながら頭を撫でてやっていると、奥の部屋から長い黒髪の、外見二十歳前後の女性が姿を見せた。

 悪魔種【サキュバス】で、俺や妹たちの"従者"でもあるエリノアだ。


「あら! おかえりなさいませ、お嬢さま。……話し合いの件は上手くいったんですの?」


「あぁ、大丈夫だ。後でエリノアにも説明するよ。」


 領主の屋敷への呼び出しということで、心配してくれていたらしい。

 エリノアは安心したように一息つく。


 そして――


「さぁ。お嬢さまも帰ってきましたし、コロネさまはそろそろおやすみの時間ですわ。」


 と、コロネに就寝を促した。

 一足先に入浴済みらしく、コロネは既にピンクの可愛いパジャマに着替えている。


「それじゃ、レティねぇ、アイねぇ、おやすみなさいなの。」


「あぁ。おやすみ。」


「おやすみー、コロネ。」


 可愛い欠伸をしながら告げたコロネは、おやすみの挨拶をすると自室へと向かった。


「アイリスさまも、お風呂の時間ですわ。」


 続けてアイリスに入浴を促すエリノア。


 いつもならば「はぁい!」と素直に従うアイリスなのだが……

 この日はそうはならなかった。


「ね。おねーちゃん、今日は一緒に入ろ?」


 と、アイリスが俺の腕を抱く。


「え!? い、いや、俺は後でいいよ……。」


 突然のお誘いに動揺しつつも、やんわりと断る俺。


 妹たちとお風呂に入るのは初めてではない。

 これまでにも何度か入ったことはある。


 だが――


(やっぱ……ちょっと申し訳無い気持ちになるんだよなぁ……。)


 そりゃあ……見たいよ?


 アイリスは文句無しの美少女さんだ。

 一緒にお風呂に入ってなんて言われたら、喜んでオーケーしたいよ?

 一糸纏わぬ姿を脳内ブルーレイに高画質永久保存したいよ?


 でも……


(せめて本当の事を話せる時までは、な……。)


 アイリスとコロネには、俺が転生者であることは話していない。

 俺がこの身体に転生を果たすのと入れ替わりに、この子たちの本当の姉のレティは亡くなっている。


 エリノアからも頼まれたが、この子たちがもう少し大きくなって、その事を受け入れられるようになるまでは黙っておくつもりだ。


 とはいえ――結果的には嘘を吐いている事に変わりはない。

 姉としてこの子たちを守るのは俺の役目だが――その立場を利用するようなことをしてはいけないと思っている。


 だからこそ一緒にお風呂に入るのは極力避けているのだ。


「えー!! おねーちゃんと一緒がいいの!! お願いー!!」


 だがいつも素直なアイリスが、この日は妙に食い下がった。


 嬉しいけど……今日に限ってどうしたというのだろう?


「お嬢さま。たまにはいいんじゃないですの?」


 俺の事情を知っているエリノアは、だが今回はアイリスの味方のようだ。


「はぁ……。じゃあ今日は一緒に入るか。」


 観念した俺は、アイリスに手を引かれるまま浴場へと連行される。


「えっと……ごめんね? おねーちゃん。一人がよかった?」


 浴場へ向かう途中、アイリスが申し訳なさそうに詫びる。


「いや、まぁたまにはにいいさ。」


 俺はそう言ってアイリスの頭を撫でる。


「でもどうしたんだ? 今日は妙にわがままさんだったな。」


 いや、咎めるつもりは全然無い。

 むしろいつも素直なアイリスには、もっとわがままになってもいいと思っているくらいだ。


 だが先程のごねる姿が、いつものアイリスらしくないなと思ったのも事実。

 何か理由があるのだろうかと聞いてみたのだ。


 問われたアイリスは、俺たちを見送るエリノアに聞かれないようにする為か、俺の耳元に顔を近づけて耳打ちする。


「えっとね、おねーちゃんにね、……見てもらいたいモノがあるの。」


 可愛いウィスパーボイスで囁かれる。


「まだコロネにもエリノアにも見せたコトなくて……初めてはおねーちゃんがいいな、って。」


 アイリスは恥ずかしそうに少しだけ頬を紅潮させる。


 あぁ、なるほど。

 俺に見てもらいたいモノがあったから、少々強引だったのか。


 ……。


 ……。


 ……あれ?


(ん……? お風呂で……"見てもらいたいモノ"……???)


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