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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第一章 はつゆきとともに
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第一話 子ども扱いしないでね♪

「で、アンタらの言い分を纏めるとだな……」


 関所の街 イナガウ・アッシュの居住地区――


 貴族や商人――言ってみりゃ"金持ち連中"が、自身の財を誇るように無駄にデカい居を構える高級住宅街。

 その中でも一際大きな屋敷の応接間で、その"話し合い"は行われていた。


「俺らがイナガウ・アッシュで得た利益……その一部を"寄越せ"って言ってんだよな?」


 応接間の大きなテーブルを挟んで行われるその話し合いは、知らぬ者が見れば『お受験の面接会場かな?』とでも思ってしまいそうな様相を呈していた。


 何せ主人側の席には壮年の紳士連中がビシッと整った服装で座っているのに対し――

 客側の席に座るのは、まだ幼い五名の"少女"――否、"幼女"と言って差し支えない子どもたちなのだ。


「い、いえ……"寄越せ"などと申しているのではありません。ただ、法に則り"納税"をお願いしたいと……」


 しかし妙な事に、主人側を代表して話す紳士の表情はまるで――蛇に睨まれた蛙のように怯えている。

 先程から額に滲む脂汗をハンカチで拭う仕草を繰り返している。


「え~? でもその納税先の"領主"さんから~、『税金払わなくていーよ』って約束してもらったんですけど~?」


 客側の代表の少女は、妙に可愛らしい声でそう突っ撥ねる。


「そ、それは……」


「いえ。そんな約束はありません。」


 ――と、ここで主人側を代表して話していた男の言葉を遮り、隣に座るガタイの良い男が割って入る。


「そのような約束が交わされたという証拠はどこにもありません。」


 先程の代表者とは対照的に、威圧的な態度で少女に対峙する男。


「え~、でも……」


「でもじゃねぇ!」


――ドンッ!!


 ガタイの良い男が拳をテーブルに叩き付ける。


「さっきから聞いてりゃ好き放題言いやがって……。大人をナメんじゃねェぞ! 証拠の残らない口約束なんざ、契約の内に入らねェンだよ!!」


 そう息巻く男の言葉を受け、少女はやれやれと肩を竦めた。


「証拠って……"コレ"の事ですか?」


 そう言って、ポケットから銀色の棒状の物を取り出して男に見せる。

 男はそれが何なのか理解出来ずにいたが――


 少女がピッ。とそれを操作した途端、顔色が変わった。


『……わかった。居住権と永久非課税、そして建屋数件……手配しよう。』


「なッ!? 録音の……"魔道具"か!?」


 その声は間違いなくこの街、イナガウ・アッシュを治める領主のものであった。

 そしてその言の中に確かに――"永久非課税"を約束するとの文言がある。


「証拠の残ってる口約束は……正式な契約ってことで良いですよね♪」


 そうニッコリと微笑む少女に、先程まで攻勢を示していた男はぐぬぬ……と言葉を紡げなくなる。

 それを見て脂汗を更に加速させた代表の男は――ガックリと肩を沈めた。


「……わかりました。納税の件は諦めます。どうぞお引き取り下さい。」


 証拠が残っている以上、もはや諦めるしかないと考えたのだろう。

 顔を伏せたまま、少女たちに帰るよう促した男だったが――


「あれ~? まだ話は終わってないですよ~?」


 対面に座る少女の予想外の言葉に、は?と顔を上げる。


「そこのオジサンが今したのって~、"暴力をちらつかせて、実際には有った契約を無かった事にしようとした"……犯罪ですよ?」


 言いながらポケットから"もう一本"――銀色の棒状の機械を取り出した少女に、ガタイの良い男の顔が青ざめる。


「しかも領民の模範であるべき領主さまの直属の部下が……これが広まったら大変なことになっちゃうかもですね~?」


「うっ……!?」


 子供相手なら脅せばなんとでもなると考えていた男は、まさか自分が脅される側に立つとは考えてもいなかったのだろう。

 今更ながらに、自身の浅はかな言動を思い知る。


 ――が、少女は尚も追撃を放つ。


「あ! そ~いえば~、もうすぐ貴族さんたちの会合があるんでしたっけ~? いや~、領主さまも大変だな~。悪い評判って、簡単に広まっちゃうんですよ~?」


「ま、待て! 待ってくれ!!」


 ガタイの良い男は焦って銀色の棒に手を伸ばすが――その手は空中で"見えない壁"に阻まれた。

 少女は銀色の棒を唇に当てながら――少女とは思えない、まるで"悪魔"のような表情で、嗤いながら告げる。


「ん~……でも幼女を脅すような人は、個人的に許せないんですよね~。」


「悪かった! 何でもする! 許してくれ!」


 そこまで男が言ったところで、少女は他の少女たちに告げる。


「……だ、そうだ。みんなー、このオジサンが雑用(おしごと)頼まれてくれるってさ。」


 言われて残り四人の少女がそれぞれに"雑用(おしごと)"を挙げていく。


「あ! では店の洗い物をお願いしたいであります!」


 黄緑色のミディアムヘアで、ちょっと癖っ毛。紺色の瞳がくりっと大きい少女。

 獣種【ヘルハウンド】の少女、ロロが元気に言う。


「……宿の……お掃除とお洗濯。……あとお庭の……草むしり。」


 水色のセミロングの綺麗な髪。深い琥珀色の瞳の物静かな少女。

 物質種【ミスリルゴーレム】の少女、シャルが呟くように言う。


「ちょうど棚卸しの手伝いに力仕事が出来る者が欲しかったところじゃ。」


 緋色の瞳で、腰まで伸びた菫色のウェーブロングの髪の少女。

 霊種【ヴァンパイアロード】の少女、グリムが楽しげに言う。


「わたしは……あ! じゃあ大浴場のお風呂掃除をお願いしたいな♪」


 橙色のセミロングヘア―。太陽を思わせる金色の瞳の少女。

 竜種【リンクドラゴン】の少女、ミリィが微笑んで言う。


 そう。皆、"魔族"の少女たちだ。

 それも全員"元・魔王軍幹部"の娘さんである。


 "とある事情"によって魔族領ではなくこの"人間の街"で生活している彼女たちは、今ではすっかり街に馴染んでいた。


「つーわけでヨロシクな!」


 山のような雑用(おしごと)を言い渡され意気消沈する男に、少女は笑顔で告げる。


 銀色の髪に、翡翠のような深い碧色の瞳。


 その少女こそ、悪魔種【アークデーモン】にして先代魔王ランドルトの長女――レティーナ=ランドルト。


 すなわち――俺である。

 お読み頂き、ありがとうございます♪


 そして本編連載時から読んで頂いていた方々、とってもお久しぶりです!


 一度完結した本作が更新されて何事かと思った方もいらっしゃるかと思いますが……

 本編投稿開始から一年ということで、後日談を書かせて頂きました。


 今日からしばらく連載させて頂こうと思いますので、もしお時間があればお読み頂ければ嬉しいです♪


 それでは、またしばらくの間、よろしくお願い致します♪

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