最終章末閑話:約束
――夢の中。
"コッチの世界"に転生することになったときの記憶。
俺はそれを、夢に見ていた。
***
「こちらでお待ち下さい。」
天使に案内されたそこは、駅のプラットホームのような場所だった。
霧が深く、遠くは見えないが……。
俺はそこにあったベンチに腰掛けて、ワクワクしながら"転生"を待っていた。
すると……
俺の背後のベンチに、誰かが腰掛けた。
顔は見えないが、背は低いようだ。
子供だろうか?
「アンタも転生か?」
俺はソイツに話しかける。
背後の気配は、俺の問いかけに、
「ん? いや、俺は……"反対行き"だ。」
そう答えた。
"俺"と言ったが、その声はどうやら少女のようだった。
反対行きってことは……あぁ、そっか。
「……若いのに災難だな。」
俺が言うと、少女は自嘲気味に答えた。
「ん~、まぁ俺はいいんだけどな。残してきた妹たちが泣いちまいそうで……それだけ心残りかな。」
……なんだよ。良い奴じゃん。
そんな会話をしているうちに、列車の汽笛が近づいてくるのが聞こえた。
どうやら俺の側のホームに停まる列車が来たようだ。
「……もし俺の転生先でアンタの妹に会ったら、泣かないよう俺が面倒見といてやるよ。」
少しでもこの少女の未練が残らないよう、俺はそんな言葉を掛ける。
「……会ったこともないのに、どの子が俺の妹かわかんの?」
少女が訝しげに問う。
「だったら俺が出会う幼女全部! 泣かないよう面倒見といてやる!」
俺がそう答えると、少女は笑った。
「……ありがとな。」
少女がそう言うのとほぼ同時に、ホームに列車が到着する。
俺が乗り込むと、すぐに列車は発車した。
遠ざかっていく銀髪の少女の後ろ姿を眺めながら、列車に揺られる俺の意識はゆっくりと薄れていった。
***
(あぁ……そっか。あん時の少女って……)
夢から目覚めた俺は、ぼーっとした頭で思い起こす。
……あれ?
どっからどこまで夢だ?
まさか異世界に転生したのも全部夢とかじゃねぇよな!?
俺は慌てて部屋を見回す。
すると……
左隣にアイリス。
右隣にコロネ。
転生したときと同じく、そこには妹たちの可愛い寝顔があった。
いや、妹たちだけじゃない。
シャルも、ロロも、グリムも、ミリィも……
俺を囲むように、安らかな寝顔を並べていた。
「あら? お目覚めですの?」
俺に気付いたエリノアが声を掛けてくる。
「昨日はご苦労さまでしたわね。」
エリノアが言う。
「俺は舞台を整えただけだ。頑張ったのは……この子たちだ。」
そう言って幼女たちを見る。
「……なぁ、エリノア。世界はさ……変わったかな?」
俺は問う。
昨日のステージは間違いなく大成功だ。
だが、"平和"ってのはそんなに簡単なモンじゃない。
一部の人間の意見だけで実現出来るほど甘くはないだろう。
「……わかりませんわ。」
エリノアはそう言って俯いた後、
「でもきっと! 変わっていけますわ! この子たちが証明してくれましたもの!」
顔を上げ、笑顔で言った。
「そうだな……。」
俺はもう一度、幼女たちを見回す。
今、
こうして安らかな寝顔を浮かべる幼女たち。
願わくば、この子たちがこんな表情をして眠れる日々が、
十年後も、二十年後も……。
永遠に続いて欲しい。
「……俺ももうちょい寝るわ。」
エリノアにそう告げ、俺は再度眠りについた。
安らかに眠る、"平和の欠片たち"に囲まれて……。
最後までお読み頂き、ありがとうございました♪
これにて本作『魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?』
全6章66話(+閑話)全て完結となります。
こうして無事エタらず完結出来たのも、応援して下さった皆さんのお陰です。
本当に心から感謝です。
それでは。
本当にありがとうございました!
(……まだ構想段階ですが、もし書ければ、次回作もよろしくお願い致します♪)




