第六十三話 明日のために
――六日後。
俺たちは、王都へ向かう馬車に乗っていた。
「それにしても…あの時はホントにビックリしましたわ!」
エリノアが言う。
「半身が黒コゲのお嬢さまを見つけたときは、わたくし心臓が止まるかと思いましたのに……。それを一瞬で治してしまうんですもの!」
頬を膨らませるエリノア。
まぁそうだよな。
幼女たちにも心配掛けちまって、申し訳ないことをしたと、今は反省してる。
「……ミリィの……お陰だね。……ありがと。」
シャルがミリィに礼を告げると、
「う、ううん! 私じゃあんなこと、思いつかなかったもん! すごいのはクリープさんの"力"と……レティちゃんだよ!」
そう返すミリィ。
そう。
俺が使ったのは、物質種【スライム】であるクリープの【肉体再編成】の"力"だ。
肉体や器官を自由に"変形""形成"できる"力"。
それを使って、俺は黒コゲの半身を"修復"したのだが……
当然、この"力"はクリープのものだ。
それを俺が使えた秘密は……ミリィの"力"にある。
ミリィの"力"。
まだ名前の無かったその"力"に、俺は【スキルリンク】と名付けた。
読んで字の如く。
近くにいる誰かの"力"を、他の誰かに"繋ぐ"ことの出来る"力"。
ミリィは従者も無く人間領で暮らしていたから、この"力"を役立たずだと言っていたが……
そんなことは無い。
現に、俺はその"力"のお陰で助かったのだ。
「さんきゅーな! ミリィ!」
俺が笑顔で礼をすると、
「う、ううん! レティちゃんの役に立てて良かったよ!」
ミリィは顔を赤くした。
照れてる表情がまたなんとも可愛い。
「だけど!」
俺はミリィの両肩に手を置く。
ミリィが「ふぇ!?」と俺を見る。
「本番はこれからだからな!」
俺はミリィにそう告げた。
そう。
いよいよ明日だ。
***
王都に到着した俺は、幼女たちを宿に残し、王城へと出向いていた。
以前、侵入しようとしたときは邪魔だった門番に、今回の俺は堂々と正面から告げる。
「あのー、エドに……国王陛下に会いたいんですけどー。」
門番は虚を疲れたような顔をする。
「いや、お譲ちゃんね。陛下は忙しいんだ……。遊びなら向こうでしてくれないか?」
そう言われ、追い返された。
……エドめ。
ちゃんとホウレンソウしとけよな。
俺は数歩下がったところで、右手を握って"拡声器"を出すと、城門に向けて最大ボリュームで叫んだ。
『お~~い!!! エド~~!!!! レティーナが会いに来たぞ~~~!!! さっさと門開けやがれ~~~~~!!!』
俺の大声に一瞬怯んだ門番だったが、すぐに「ぶ、無礼者!」とか言って俺を取り押さえにかかる。
あ、別にこのまま捕まれば入れるかな?
とか俺が考えていたところに、
……空から"人影"が降って来た。
―――ズーーンッ!!!
土煙が晴れるより先に、俺は"ソイツ"に呼び掛ける。
「おっせぇぞー。危うく恐いおにーさんに押し倒されるとこだった。」
俺が言ってる間に晴れた土煙の中で、"ソイツ"が詫びる。
「わりぃわりぃ。オジサンまだ病み上がりなんでな~。勘弁してくれや~。」
そう言ったのは、白髪混じりの黒髪に無精髭を生やす男。
元・勇者だった。
「……病み上がりっつーんなら、酒は控えとけよ。」
「ん~? 酒が無かったらオジサン死んじゃうよ~?」
そんなやりとりをしつつ、俺は元・勇者を伴って堂々と正門から城内へ入る。
「あれか?」
「あれだな~。」
敷地内は、明日の"祭り"の準備に大忙しといった様子だった。
特に中央の広場には、人が慌ただしく行き来している。
明日、この場所は一万を越える人々で埋め尽くされるのだ。
そりゃ忙しくもなるわな。
「んじゃ、ちょっと"準備"させてもらうな。」
元・勇者にそう告げると、俺は広場の正面、祭りの際に"式典"を行うその舞台へと歩を進めたのだった。




