第六十一話 ただ、自分に出来ることを
ずっと、
ずっと考えてきた。
戦うのは好きじゃない。
だけど……
妹たちを守るために、
いつか戦わなくちゃならない時が来る。
そんとき、俺が出来ること。
俺の"力"で出来ることを……。
***
俺は右手を握り、出した"ソレ"をテノンへと投擲する。
「ハッ! 無駄な!」
テノンへと真っ直ぐ飛んだ"ソレ"は、しかしテノンの身体に触れる前に右手で掴まれてしまった。
「偉そうに説教したわりに、この程度の抵抗しか出来ませんか。こんなモノで、どうにか出来るとでも?」
掴まれたソレは、銅製の金属棒であった。
先端が尖っているが、仮にテノンの身体に当たっていたとしても、【絶対防御】の"力"でダメージは無かっただろう。
「レティーナ様の"力"。多様な道具を具現化出来るようですが……どうやら戦闘には不向きのようですな。」
テノンが嘲笑する。
……あぁ、その通りだ。
【既視の魔眼】は戦闘向きじゃない。
兵器は出せない。
重量物も出せない。
見たことのない物は出せない。
そもそも平和な日本で平和に育った俺が、しかも幼女の身体になっちまった俺が、道具ひとつで無敵に近い魔族と戦おうってのが無茶な話だ。
だが、それでも……
("コレ"なら……出せるはずだ。)
【既視の魔眼(デジャヴュ・アイ)】で具現化出来るのは"物"だけじゃない。
温かい料理を出せば、その料理の"熱"も一緒に具現化される。
だが"熱"じゃダメだ。
"必ず手元に現れる"という特性上、テノンより先に俺が焼け死ぬ。
必要なのは"指向性を持ったエネルギー"。
それも【減衰の魔眼】とやらで軽減されても十分にダメージの入るようなトンでもない高エネルギー。
俺が思いついたのは……ひとつだけだ。
平和な日本でも見られる、圧倒的な力。
避けることなど不可能な、人智を超えた現象。
曰く、神の怒りの具現。
曰く、裁きの象徴。
約九百メガジュールにも及ぶ、エネルギーの奔流。
【減衰の魔眼】とやらで、防げるモンなら防いでみやがれッ!!
「ムダに堅いテメェの頭を、これでちっとほぐしてやんよ!!」
―――"雷"!!!
閃光と、轟音が、周囲の全てを包み込んだ。
***
……。
…………。
……あれ?
気が付いたとき、俺は空を見上げて倒れていた。
あぁ、そうか。
"雷"を出した衝撃に吹っ飛ばされたのか。
俺は身体を起こそうとする。
が、
右半身に力が入らない。
なんとか左腕だけを使って身体を起こす。
テノンは……倒れていた。
無理もねぇ。
銅製の金属棒…俺の出した"避雷針"を手に握ってたんだ。
正真正銘の"直撃雷"。
いくら【減衰の魔眼】で九割軽減出来たとしても、無事で済むレベルの衝撃じゃねぇ。
そして俺の身体はというと……
右半身が、見事に黒コゲになっていた。
「お、おぅ……マジか……。」
痛みは無い、……というより感覚が無い。
服は肩口から破れ、肌は赤黒く変色している。
あーあ……、こんな姿……、
幼女たちに見られたら……泣かれちまうかな……?
それは……嫌だな……。
……………。
……。




