第五十九話 臆病なキミへ
部下の精鋭部隊を元・勇者に瞬殺されたテノン。
元・勇者に降伏を勧められたテノンはしかし、
不敵に笑った。
「……お断り致します。」
元・勇者にそう告げるテノン。
その余裕ぶりは、とても演技とは思えない。
「……そんじゃ、仕方ねぇな。アンタも部下と一緒に捕らえさせてもらうぜ~。」
テノンの不穏な気配には、元・勇者も気付いているだろう。
だが、このまま対峙していても事は進まない。
下手をすれば、テノン側の増援が来る恐れもある。
元・勇者はテノンに歩み寄ると、鉄の棒をテノンの首元目掛け、豪快に振り下ろした。
……だが、
「なっ!? んだぁ~!?」
確かに首元に鉄棒の一撃を受けたテノン。
しかしその身体は、倒れるでも吹き飛ぶでもなく、
一 切 、 動 か な か っ た 。
そして、
「がは……ッ!?」
元・勇者は口から血を吐いて倒れた。
見れば元・勇者の腹には……一本のナイフが深々と刺さっていた。
……は!? おかしくねぇか!?
さっきまでいくら攻撃されても、一ミリもダメージを受けなかった元・勇者が……
あ ん な ナ イ フ 一 本 防げねぇワケねぇだろ……ッ!?
俺の混乱など構わず、テノンは俺に歩み寄る。
「……場所を変えます。付いて来て頂けますかな? もし抵抗なさるようでしたら……そこの男を殺させて頂きますが……?」
「くッ……!?」
そう告げて、俺の横を通り過ぎるテノン。
俺は後方の元・勇者が気になりながらも、テノンの背を追う他なかった。
***
――イナガウ・アッシュ近郊の荒地。
ゴツゴツした岩が並ぶその場所で、俺とテノンは対峙していた。
「さっき……何をした?」
俺はテノンに問う。
「何を……とは?」
冷めた目で俺を見るテノンが問い返す。
「とぼけんなよ! 元・勇者があんなモンでやられるワケねぇ!」
あの出鱈目な強さの元・勇者がやられた理由……。
何か秘密があるはずなんだ。
テノンはしばし考えた後、口を開いた。
「結構です。お教えしましょう。聞けばレティーナ様も……抵抗の意思を失うでしょう。」
そう言ってテノンは言葉を続ける。
「私の持って生まれた"力"は……他者の"力"を"喰らう力"で御座いました。」
"力"を"喰らう力"!?
「【暴食の魔眼(グラトニー・アイ)】と、名付けて呼んでおりました。もっとも、喰える"力"は生涯"三つ"まで。そして"喰った力"は……以後、自らの"力"として扱えるというもので御座います。」
マジかよ……。
しかし……そんな"力"持ったら……。
「……えぇ、悩みましたよ。どんな"力"を"喰う"のがいいのか。同年代の魔族が、"力"を身に付けてゆく中で、木偶の坊扱いされたこともありました。」
昔を思い出すような目で自嘲するテノン。
そして目をカッ! と開き、
「しかし! 私は耐えた! そして身に付けたのです! "最上の力"をッ!!!」
目を血走らせ、自らを誇るようにそう宣言するテノン。
「ある物質種の魔族から得た"力"……、あらゆる物理攻撃を防ぐ【絶対防御】!!
ある霊種の魔族から得た"力"……、この身に近づくあらゆる魔力を無効にする【魔滅の結界】!!
そしてある悪魔種の魔族から得た"力"……、熱や冷気等のエネルギーの全てを九割軽減する【減衰の魔眼】!!」
テノンは両手をバッ! と広げて天を仰ぐ。
「もはや私の存在は不死に等しい!! どんな戦場だろうと! どんな攻撃だろうと! 私を倒すことなど出来はしないのですッ!!」
声も高らかにそう強く宣言した。
なるほど。
そんなら元・勇者が倒されたのも納得だ。
【絶対防御】とやらで、攻撃を防がれ、
【魔滅の結界】とやらで、身体を覆う魔法を消されたら、
そりゃナイフの一本で倒れちまうのも仕方ない。
だが……
「……アンタ、随分恐がりだな。」
「……何……ですと?」
俺が呆れたように告げると、先ほどまで自身を誇っていたテノンの顔が、ひくっと歪む。
コイツの能力は確かにやべーけど、これだけは言っとかないとな。
さぁ……この"こじらせ過ぎた中年"に、一発かましてやるかね。




