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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
最終章 まぞく
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第五十八話 ぼうふうけいほう

「つ~~ッ! 嬢ちゃん、人使いが荒いぜ~~。こっちゃまだ酒が抜けてねぇっつ~のによ~。」


 テノンの襲撃を受けた俺の前に"降って来た"元・勇者は、頭を押さえて悪態を付く。

 ……アンタから酒が抜けたトコ見たことないつーに。


 そう。

 元・勇者には王城での一件で"貸し"が出来た。

 その"貸し"を"身体で払え"と俺は頼んでいた。


 具体的には、俺らの"護衛"だ。

 俺らの経営する宿で寝泊まりさせてやる代わりに、何かあった際のボディガードを依頼していたのだ。


 さっきの"防犯ブザー"の音も事前に聞かせてあった。

 この音が聞こえたらすぐに駆けつけてくれ、と。


 もちろん、幼女一同にも防犯ブザーは配ってある。

 あ、敵が俺のトコに来てくれて良かったってのは、幼女たちに恐い思いさせなくて済んだ、って意味な。


「で~? コイツラが悪者ってコトでオーケーか~?」


 俺に問う元・勇者に、声の出せない俺はこくりと頷く。


「んじゃ~働かせてもらうとするかね~。寝心地のいい宿に美味い飯、オマケに可愛い女の子まで付けてもらったんだ~。恩はきっちり返さなきゃな~。」


 そう言うと元・勇者は、道端に落ちていた二メートル程の鉄の棒をひょい、と拾い……そのまま魔族の集団に突撃した。


「……!! 相手は一人だ! 袋叩きにしろ!」


 テノンの合図で、後方にいた精鋭部隊とやらが前に出る。


 ある者は呪術の鎖で元・勇者を捕縛にかかり、

 ある者は"力"で出現させたであろう大岩を元・勇者の頭上に降らせ、

 ある者は肉体を三メートルを越えるほどに肥大化させてのしかかった。


 他にも、俺の目では何が起きているかすらわからないような攻撃が、元・勇者に嵐の如く降り注いだ。


 ……だがその全てを、元・勇者は鉄棒の一振りで跳ね除けた。


 『無双』。

 その言葉がこれほどしっくりくる光景も無いだろう。

 暴風の如き力が、寄るもの全てを弾き返した。


 以前、元・勇者に聞いた話では、これも"魔法"なのだという。


 人間の使う"魔法"は本来、"魔力を以て自身の望む現象を疑似的に再現するもの"らしい。


 山賊のリーダー、マシューの使った"炎"の魔法も、実際の炎ではなく、魔力によって疑似的に再現された現象だという。


 普通の魔法使いは、魔力を一定の方程式に則って展開する。

 故に汎用性は低い。

 "魔力"を用いて"炎"を再現。……そこまでしか出来ない。


 だが元・勇者のそれは……"望むままに"魔力を変質させるのだという。


 故に、ただの跳躍で数メートルを跳び、

 故に、相手の攻撃を布の服で受け止め、

 故に、鉄の棒ですら無双の"聖剣"へと変えることが出来る。


 まさしく出鱈目(チート)である。


「……っと! 雑魚は片付いたかな~~?」


 見れば元・勇者の足元には、テノン以外の精鋭部隊が全て倒されていた。


「……ぁ、あー。あー。あー……やっと声出せた。」


 どうやら俺に"沈黙の呪術"を掛けたヤツが倒れたことで呪いも解けたらしい。


「ったく……マジ助かった。サンキューな。」


「お~。借りは返さねーとな~。」


 元・勇者が笑う。


 ところで、この元・勇者……さっき気になることを言ってたな。


「……ちなみに聞いとくけど、さっき言ってた"可愛い女の子"って誰?」


 コイツが幼女好きだとは思わないが……もしそうなら手ぇ出さねぇように釘刺さなきゃ。


「あ~? 決まってんだろ~? 酒場のエリノアちゃんだよ~! 胸もでかいし、ありゃイイ女だぜ~!」


 元・勇者は酔っ払いらしい品の無い顔で言う。


 あ、なんだそっちか。

 ならいいや。


「で~? 大将さんよ~? あとはアンタだけだぜ~? どうする~? この嬢ちゃんに謝れば、許してくれっかもよ~?」


 元・勇者がテノンに降伏勧告する。


 ご自慢の精鋭部隊を瞬殺されたテノン。

 あとはコイツ一人だけだ。


 しかしテノンはその絶望的な状況下で……


 不敵に笑った。

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