第五十六話 夕焼け空の再会
ミリィがイナガウ・アッシュに来てから三週間。
つまり"祭りの日"まで一週間に迫った今日。
俺らは例の"これから毎日練習"ってのを欠かさず続けていた。
「よっし! じゃあ今日はここまで!」
俺は右手を握り、人数分の"スポーツドリンク"を出す。
「お疲れー。水分とっとけよー。」
俺は幼女一同にドリンクを手渡していく。
「うへぇ~。しんどいのじゃ~。」
グリムがぺたんとお尻を床に付けて嘆く。
「でもみんな、いい感じになってきたね!」
ミリィも四つん這いで息を荒げながら、それでも笑顔で言う。
「……うん。……大変だけど、……楽しい。」
シャルは頬を染め、達成感を噛みしめるように告げる。
「そうでありますな! かなり上達したであります!」
ロロも汗をタオルで拭いながら、笑って言う。
「本番までに、もっと上手にならなきゃ!」
アイリスは強い意志を秘めた瞳で宣言する。
「ふぉー! たかみをめざすの!」
コロネは握り拳を作った両手で万歳しながら目を輝かせる。
俺の出した"Tシャツ"と"短パン"を汗だくにしてスポーツドリンクを飲む幼女たち。
なんか青春って感じだなー。
そして幼女の汗の匂いが……おっと、これ以上は言うまい。
「みんな……大変だと思うけど、頑張ろうな!」
「もちろんだよー!」
「がんばるの!」
「……負けない!」
「精一杯やるであります!」
「当然なのじゃ!」
「きっと成功させようね!」
俺の檄に、力強く応える一同。
まぁ何にせよあと一週間だ。
"その日"に笑えるように、今は練習あるのみだな!
***
――翌日、夕暮れ時。
今日も人で賑わったイナガウ・アッシュの街を、俺は歩いていた。
この街にもだいぶ住人が戻ってきたようだ。
これからさらに人は増えていくだろう。
各店舗の経営は順調。
そろそろ人を雇うことも考えた方がいいかもしれない。
宿屋の部屋も、今は二十部屋しかないが、
領主に許可を貰って増築しといた方がいいかな。
……あ、二十部屋じゃないか。
今は諸事情あって"一部屋は常に埋まってる"から、使えるのは十九部屋だけだっけ。
ま、それは追々考えよう。
さぁて今日も幼女たちと"練習"の時間だ。
俺に出来るのは、練習環境を整えることと、応援すること。
あとは当日の準備くらいしかない……。
ならせめて、出来ることを全力でやろう。
そんな思いで街を歩いていた俺の前方に――
夕暮れから夜へと、闇が深さを増すその裏路地に――
――"ソイツ"は立っていた。
「どうも。お久しぶりで御座います。レティーナ様。」
大柄な初老の男。
見た目には少しガタイの良い、普通の男にしか見えない"ソイツ"は――
「~~ッ!!?………"テノン"!!?」
魔族復権推進派の長。
俺らの持つ【煉獄】の呪いを狙う――
つまり俺らの"命"を狙う者たちの頭領。
――テノンが、そこに立っていた。




