章末閑話:こんな日々をいつまでも
第五章完結ということでミリィ視点の閑話です。
ストーリーは進まないので読み飛ばして頂いてもだいじょぶです。
わたしはミリィ。
ミランダ=ウィンチェスターです。
竜種【ドラゴン】の魔族なんだけど……
魔族であることが人間さんにバレちゃって……ついこの間まで王都のお城に捕らわれてたの。
でもね!
レティちゃんっていう女の子が、わたしが捕らわれてた塔に突然現れて、わたしを連れ出してくれたの。
そのお陰で、今わたしはここ、"イナガウ・アッシュ"に住んでます。
レティちゃんももちろんだけど、シャルちゃん、ロロちゃん、グリムちゃんっていう年の近いお友だちもできて、毎日が楽しいんだぁ。
わたしはみんなのお店のお手伝いをして過ごしてるんだけど、みんなしっかりしててすごいんだよ?
「レティーナよ。そういえば今日は"例の日"であろう?」
お仕事と"練習"が終わって、みんなでお話していたとき、グリムちゃんがレティちゃんにそう言ったの。
「あーそっか。悪い。忘れてた。」
レティちゃんがグリムちゃんに謝る。
"例の日"?
なんのことだろ?
わたしが話に付いて来られてないのに気付いたレティちゃんが、わたしに説明してくれる。
「えっとな、ミリィ。俺の"力"は知ってるよな?」
「うん。不思議な道具を出せる"力"だよね?」
「お、おぅ。だいたい合ってるが……それだと青いタヌキみたいだな……。」
……? タヌキ?
シャルちゃんとロロちゃんが後ろで笑ってる。
二人には意味がわかるみたい。
……後で教えてもらおう。
「で、だな。みんなへの感謝を込めて、一週間に一度、みんなの"望むもの"を、俺が出してやるようにしてるんだ。」
仕事を頑張ったご褒美にな、とレティちゃんは続けた。
えー! そうなんだ!
そっかぁ。
そんなご褒美があればみんなお仕事がんばれるもんね!
「で! そろそろよいか? レティえもん。」
「……グリムは今週は無しでいいみたいだな。」
「う、嘘じゃ! ごめんなさいなのじゃ!」
グリムちゃんが焦ってる。
「はいはい……。で? 何がいいんだ?」
「妾は……コレがいいのじゃ!」
グリムちゃんがレティちゃんに本を見せる。
その本はお洋服がいっぱい載ってる本で、グリムちゃんはそのうちの一着をレティちゃんにお願いしたみたい。
「グリムこのブランド好きだよな。」
「むふふ。このセンスは妾の魂に響くのじゃ!」
レティちゃんが右手を握ると、ポン! とお洋服が現れる。
「ぬふぉー! 実物を見るとより一層素敵なのじゃー♪」
グリムちゃんは嬉しそうにお洋服を受け取った。
「レティーナ! ありがとなのじゃ!」
グリムちゃんはいつも大人びてるけど、お洋服のことになると子供みたいなの。
「じゃあ次はロロかな? 何がいい?」
「ふえっ!? そ、そうでありますな……」
ロロちゃんは悩んでるみたい。
「では……前にレティ殿が食べていた"タルタルたっぷりエビバーガー"をお願いできますでしょうか?」
「……そんなんでいいの?」
レティちゃんは右手を握ると、今度は紙袋がたくさん現れた。
「流石にグリムと金額差ありすぎだから、"グラタンコロッケバーガー"も出しといたぞ。五人前入ってるから弟くんたちにも分けてやれ。あと"ファミリーセット"も付けといた。」
「なんと!! きっと弟たちも喜ぶであります!!」
ロロちゃんは満面の笑顔を浮かべる。
「レティ殿! ありがとうであります!!」
ロロちゃんは深くお辞儀した。
「んじゃあシャルの番な。どうする?」
「……本がいい。」
シャルちゃんは本が大好きなの。
レティちゃんの出す本は読めない文字で書かれてるけど、シャルちゃんはがんばって読めるようになったんだって!
レティちゃんの出した"漫画"っていう本を、シャルちゃんが翻訳してくれてるって話も聞いた。
わたしはまだ読んだことないけど、今度読ませてもらおう。
「漫画? 小説?」
「……レティおすすめの……ライトノベルで。」
「ん~、おっけ。」
レティちゃんがまた右手を握ると、たくさんの本が現れる。
「一応このシリーズ全部な。」
「……これ、……えっちぃやつ?」
表紙を捲って挿絵を見たシャルちゃんが言う。
こっそり覗いてみたら……裸の女の子が描かれてた。
「いや! 確かにそーゆーシーンもあるけど! その作品の真の面白さはそこじゃないんだって! 読めばわかるから!!」
レティちゃんは必死に訴えてる。
「……ん。……わかった。……読んでみる。」
シャルちゃんは本を両手でぎゅっと抱く。
「……レティ。……ありがと。」
そう言ってシャルちゃんは頬を染めていた。
「じゃあ最後にミリィだな。何か欲しいものあるか?」
「ふえ!? わたし!?」
どうしよう!?
考えてなかったよ!
でも欲しいものって言われても……今のこの街での生活には満足してるし……
わたしが悩んでいると、レティちゃんが言った。
「ん~、じゃあ質問を変えようか。ミリィの好きなことって何だ?」
好きなこと……?
ん~と、
「……お歌を歌うのが好き、かな?」
「ほー。そうなのか。」
「う、うん。魔族領にいた頃は、よく歌ってたの。寂しいときとか、落ち込んだときでも、歌うとちょっと元気になれるから……。」
そう言った後、わたしは、
「……でも人間領に来てからは、あんまり歌ってなかったかな。目立っちゃダメって言われてたから。」
そう言うと、レティちゃんは右手を握った。
そして現れたのは……何だろう?
「レティちゃん……これなぁに?」
「"CDプレイヤー"だ。」
しーでぃーぷれいやー?
「"MP3プレイヤー"だと逆に面倒だからな。いいか? ここを開けて、ここにCDをセットして、で、再生ボタンを押すと……」
レティちゃんが説明してくれるけど、わたしにはちんぷんかんぷんだった。
わたしがわかっていないことを察して、レティちゃんが説明の仕方を変えてくれる。
「まぁ実際やってみようか。」
そう言って、もう一度右手を握る。
現れたのは四角いケース……かな?
レティちゃんがケースを開けると、中にはキラキラした円盤が入っていた。
それをさっきの"しーでぃーぷれいやー"にセットする。
「ミリィ。これ、耳に入れて?」
「?」
なんだろ? 耳栓かな?
そしてレティちゃんが"しーでぃーぷれいやー"のボタンを押す。
(!!!???)
びっくりした!!
耳元で突然音が鳴りだしたの!!
それもたくさんの楽器の音と歌声が!!
レティちゃんが何か言ってるけど聞こえない。
あ、そっか!
耳のこれを外さないと……
「どうだ? びっくりした?」
「びっくりしたよぉ……。」
レティちゃんが笑う。
「でもすごいね。こんな小さいのに、いろんな楽器の音が聞こえたよ?」
「あぁ。いろいろ出しといてやるから、ミリィの気に入った曲を教えてくれ。」
そう言ってレティちゃんは私に四角いケースをたくさん渡した。
「その耳に入れる"イヤホン"ってのしてれば、ミリィにしか音は聞こえないから、……もし夜に寂しい気持ちになったら聞くといい。」
レティちゃん……。
やっぱりレティちゃんは優しいよ……。
「うん。レティちゃん、ありがとう♪」
人間領に来て、寂しいことも、辛いこともいっぱいあったけど……
今は後悔なんてしてないよ?
たくさんの素敵な友だちと出会えたから。
レティちゃん、まだまだ未熟なわたしだけど……
どうかこれからも仲良くしてね♪




