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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
第一章 あーくでーもん
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第六話 優しい嘘のつき方

――バンッ! ……パタパタパタパタ。


 俺とエリノアが話していると、ドアの外で慌てたような足音が近づいてくるのが聞こえた。

 足音はドアの前で急停止する。


――バンッ!


「エリノアー! 大変! おねーちゃんがいなく……あれ?」


 勢い良く開かれたドアの外に立っていたのは、先ほど俺と同じベッドで眠っていた金髪の幼女だった。

 随分慌てて駆けてきたのだろう。息があがっている。

 今にも泣きそうな顔でドアを開けた幼女は、俺の姿を確認するなり、ホッとしたように表情を緩めた。


「おねーちゃん、ここにいたの? もー! 心配したよー!」


 安心してペタンと座りこんだ幼女の後ろから、もう一人の桃色の髪の幼女が顔を出す。


「れてぃねぇ、みつかったの……?」


「見つかったよー。もー、わたしもコロネも心配したんだよー?」


「アイねぇは大げさなの。ころねはアイねぇの方が心配なの。」


「コロネひどいよー!」


 幼女二人のやりとりを眺めながら、俺は声を掛けるべきか悩んでいた。

 これ、迂闊なコト言ったら正体バレるよな……?


 そんな俺の心中を察したのだろう。エリノアが助け船を出す。


「お二人とも! お嬢さまは病み上がりなんですから、あまり大声を出してはダメですわ! 朝食まで少しお散歩でもしてきたらいかがですの?」


「んー。そうだね! おねーちゃん! あとでね!」


「れてぃねぇ、またあとでなの。」


 二人は俺に手を振ると、トテトテと階段を降りて行った。


「ふぅ~。助かった。さんきゅー、エリノア。」


「いえ、どういたしまして。」


 しかし気になるワードがあったな。


「エリノア。お嬢さまって病気だったのか?」


 病み上がり、とか言ってたが……。


 俺の言葉に、エリノアは少し躊躇ってから、話した。


「正確には"病気"ではなく"呪い"ですわ。」


 呪い!?


「誰かから恨まれてたのか?」


「いえ……先天性の呪いらしいですわ。もっとも、それがわかったのはごく最近……戦争終結後ですけど。」


 マジか……。


「魂だけを衰弱させる呪いでしたの。肉体に変化は無くとも、日に日に弱っていくお嬢さまを見るのは……心を抉られる思いでしたわ。」


 エリノアは表情を曇らせる。


「本当は昨日の晩、お嬢さまはお亡くなりになってるハズですの。それが今日の朝、平気な顔で『おはよう。』ですもの。ビックリしましたわ。」


 エリノアは自嘲気味に笑った。


 そっか……。

 だからお嬢さまの身体を借りてるって言ったとき、"気にしなくて大丈夫"って言ってたのか……。


「改めて、お願いがありますの。」


 エリノアは、俺に正対して正座すると、手を八の字に着き、深々と頭を下げる。


「どうか、しばらく"お嬢さま"を演じて下さいませんか? 妹さま方には、もうしばらくお嬢さまが必要なんですの……!」


 心からの頼みだったのだろう。

 指先が震えているのがわかった。


「エリノアは……それでいいのか?」


 いくら"魂"を見て悪意が無いことがわかっても、エリノアにとっては大切な"お嬢さま"の身体のはずだ。


「……もしこの場にお嬢さまがいたら、きっとそれを望まれますから。」


 エリノアは俺を見て、……いや、きっと俺の姿に、生前の"お嬢さま"を重ねて、そう告げた。


「……わかった。」


「ホントですの!?」


「あぁ……俺だって可愛い妹の泣き顔は見たくねぇからな。」


 まぁどこまでバレずに出来るかわかんねーけど。


 俺の言葉に、エリノアは目じりに涙を浮かべながら、


「ありがとうございます……!」


 そう告げて、もう一度深く頭を下げた。


***


「じゃあわたくしは朝食を準備しますわ。"お嬢さま"もお散歩でもしてらしたらいかがですの?」


 まだ少し潤んだ目を擦りながら、エリノアが提案する。


「朝食はいつもエリノアが作ってるのか?」


「えぇ。魔王さまがご存命の頃から侍女として仕えてましたので。」


 なるほど、侍女ね。

 魔王の死後も、娘たちの世話を焼いてくれてるわけだ。


 しかし魔族ってもっと自由っつーか、個の欲望に忠実なモンかと思ったけど、

 意外と忠義が厚いんだな……。


「魔王が死んだとき、辞めようとか思わなかったの?」


 俺が言うと、エリノアは笑って、


「可愛いお嬢さまたちのお世話が毎日出来る……これ以上の職場がありまして?」


 ドヤ顔でそう告げた。


 ……訂正。結構欲望に忠実だったわ。

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