第五十三話 おんなじ気持ち
王城での幽閉から無事解放された俺とミリィは、イナガウ・アッシュに向かう道中、宿に泊まっていた。
「わぁ! お泊りって初めて!」
宿の部屋を見回してミリィが言う。
王城に幽閉されてたのはお泊りにカウントされないらしい。
つか……まだ出会って間もないけど、この子はこの子でなんかズレてるんだよな。
世間知らずっつーか、常識が薄いっつーか……。
聞けば王城に囚われた時も、悪いことしてないからそのうち出られると思ってたらしい。
ふむ。
どんくらい常識が無いか試してみるか……。
「じゃあ、ミリィ。服を脱ごうか。」
「え!?」
唐突な俺の言葉に、ミリィは驚く。
「ん? 知らないのか? 宿で同じ部屋に二人で泊まるときは、ベッドで裸で抱き合うんだぞ?」
俺はミリィを試す為、デタラメを言ってみる。
……まぁ実際そうしてる人々も多数いるだろうけど。
「そ、そうなんだ……。知らなかった。」
ミリィはそう言って……服を脱ぎ始める。
幼女ながら意外と発育の良い身体が露わになる。
Oh……さすがドラゴンだ。
……あ、ヤバい。
このままだと俺のスイッチが入っちゃう。
「……スマン。ミリィ。嘘だ。服着てくれ。」
俺が目を逸らして告げる。
「嘘なの……?」
「あぁ、悪かった。ちょっとしたジョークだったんだ。」
「そうなんだ。」
ミリィは特に恥じる様子も無い。
「でも女の子が無闇に肌を晒すモンじゃないぞ?」
自分の言葉でそうなったのは棚上げして、俺はミリィに忠告する。
これ言っとかないと、他の奴の前でも同じことしかねん。
半裸のミリィはしばし考えた後、口を開く。
「でも……レティちゃんになら、見られてもいいよ?」
――パチンッ! と。
俺の頭の中でスイッチが入る音が聞こえた。
***
――翌日早朝。
俺らを乗せた馬車は、ようやくイナガウ・アッシュに到着した。
「ただいまー。」
俺はまず、シャルたちに任せている宿屋に顔を出す。
「……レティ!!」
受付カウンターに座っていたシャルが、俺を見るなり立ち合がる。
シャルはカウンターを出て俺に駆け寄り、
「……すっごく、……心配したんだよ?」
そう言って抱き付いた。
あー、久しぶりのシャルのハグ。
ヤバい。可愛い。
「おねーちゃーん!」
「れてぃねぇ!」
仕事中だったアイリスとコロネも、俺に気づき駆け寄る。
ぐおっ! 両サイドから衝撃が!
「もー! 一人でどっか行っちゃダメぇー!」
「れてぃねぇは心配かけすぎなの! 反省するの!」
ぽかぽかと俺を叩く二人。
あー……なんと愛しい我が妹たち……いとし……いた……痛いって!
「す、すまん! ちゃんと説明する! 説明するから!」
***
宿屋一階の酒場。
まだ営業時間前のそこに、俺は幼女たちを召集していた。
「エリノアー。みんなにジュース出してやってくれー。」
酒場のカウンターに呼びかけると、エリノアが顔を出す。
「んもう! わたくしだって心配してたんですのよ? もっと愛のある言葉を掛けて欲しいですわ!」
エリノアが拗ねたように頬を膨らませる。
「エリノア大好きー♪ ……これでいいか?」
「……。」
無言のまま……でもちょっと嬉しそうなエリノアは、手際良くジュースを注いでいく。
幼女一同にジュースが行き渡ったところで、俺は説明を始める。
「えー。みんなに報告があります。すいません。観光で王都に行ってたってのは嘘です。」
俺の言葉に、シャルもロロもグリムも驚……かなかった。
「……うん。……だと思った。」
「レティ殿の説明不足は毎度のことでありますからな!」
「どうせ"仕事が軌道にのってきた妾たちの邪魔をしたくない"とかそんな理由じゃろ?」
うぐぅ……完全に見抜かれてる。
「それで? 土産はあるんじゃろうな?」
グリムがからかうように言う。
「あぁ。……ミリィ! 入ってくれ!」
俺の言葉に、酒場におずおずと入ってくるミリィ。
あ、視界の端でエリノアが目を輝かせてるのが見えた。
「王都で"友だちになった"ミリィだ。」
「ミ、ミランダ=ウィンチェスターです。ミリィとお呼びください。」
俺に紹介され、俯きながら自己紹介するミリィ。
……なんか転校生をクラスに紹介してるような気分だな。
「えっと……その……わたし! レティちゃんにいっぱい助けてもらって! だから! ここでレティちゃんに恩返しがしたいの! えと、……なので……。」
しどろもどろに言葉を紡ぐミリィ。
そんなミリィを見て、幼女一同は状況を把握したようだ。
「……ミリィ。……だいじょぶ、……だよ?」
「ふえ?」
シャルの言葉に、ミリィは首を傾げる。
「たぶんここにいる子は、みんなミリィ殿と同じ気持ちでありますよ!」
ロロは優しい眼差しをミリィに向ける。
「レティーナのお節介は、趣味みたいなものじゃ。重く受け止めずとも良い。というわけで……」
グリムはぶっきらぼうに、だが優しく告げる。
「「「よろしくね」であります!」なのじゃ!」
三人から口々に言われ、ミリィは少し驚いた後、
「う、うん! よろしくね!」
そう言って微笑んだ。




