第五十一話 身体で払って下さい
――翌日の夕方。
俺らが幽閉されてる部屋の窓に、カツッと足を掛ける音が響いた。
誰なのかは顔を見なくてもわかる。
こんな塔の最上階に、窓から侵入できんのはコイツくらいだ。
「う~い。嬢ちゃん。調子はどうだ~?」
元・勇者。
俺をココに閉じ込めた張本人さまだ。
俺は元・勇者の顔を見て告げる。
「"答え"……聞きに来たんだろ?」
俺の言葉に、元・勇者は少々意外そうな顔をする。
「"ココから出して欲しけりゃ、人間にとって無害な証拠を見せろ"ってアレか~?あっはっは~~。出来んのか~?」
訝しげに問う元・勇者に、俺はニヤリと笑って告げる。
「アンタだけじゃ役者不足だ。もう一人、立ち会ってもらいたいんだが、頼めるか?」
俺の態度から、その自信の程を察したのだろう。
元・勇者は口調は変えず、しかし真剣な目で問う。
「随分自信満々じゃねぇか~。で、誰に立ち会って欲しいって~?」
俺は躊躇う事無く、その人物を指定した。
「"王さま"。」
***
玉座の間。
王城の最も高い位置にあるその部屋に、俺とミリィは通された。
……といっても、両手は後ろ手に縛られてはいるが。
朱色の絨毯の上を歩き、玉座に座る"ソイツ"と相対する。
――王。
人間国家の最高権力者だ。
その"王"を前にして、だが俺は特に物怖じせずに言う。
「どーも、王さま。結構若いんスね。」
ここに臣下が居れば、不敬だ冒涜だと騒ぎ立てただろう。
だが元・勇者の計らいで、今現在、玉座の間には四人しか居ない。
俺とミリィ、元・勇者と王さまだけだ。
「あぁ。よく言われるよ。」
俺の言葉を特に気にした様子も無く、王は答える。
実際、王はまだせいぜい十六、七歳といったところだろう。
童顔なことも相まって少年と言っても通りそうな外見だ。
「先代国王の父が、終戦とほぼ同時に病で無くなったからね。だが若いのはお互い様だろ?"魔王の娘"さん。」
そう言って王は微笑みを返す。
「まずはお詫びをさせてくれ。君たちを幽閉することになってしまった件、すまないと思っている。」
王はそう言いながら、俺とミリィに頭を下げる。
「……いいのか? 国王が魔族に謝罪なんて。」
俺が問うと、
「臣下が見たら卒倒するだろうね。まぁ今は居ないから関係ないでしょ。」
そう軽く笑って答えた。
思ったより気さくな王さまだな。
「君たちに危害を加える気は無いよ。だが魔族だと分かった以上、放置すれば国民に混乱を生む。結果、幽閉という方法になってしまったんだ。すまない。」
まぁそれはしょうがないだろーな。
だが……
「ソッチの元・勇者からは"無害だと証明できなきゃ出してやんねーぞ"って言われたんだけど……。」
俺がそう言うと、王は元・勇者を横目で見る。
「"レーヴス"……君はまたそんな嘘を……。」
「いや~……ははは。」
元・勇者は、笑って誤魔化している。
つか"レーヴス"って名前なんか。
「そんなつもりは無いよ。魔族側との外交によって引き渡すようになる手筈だった。ウチの部下が失礼したね。もう一度謝罪しよう。」
そう言って王は再度、頭を下げる。
まぁ俺としちゃ、茶番なのはわかってたんだが……。
「レーヴスさんよ……なんでそんな嘘付いたの?」
俺は元・勇者に問う。
嫌味ではなく、単に理由を知りたかった。
元・勇者はぽりぽりと頬をかきながら、バツが悪そうに答える。
「いや、まぁ~、なんだ……。必死になった嬢ちゃんたちが、どんな"答え"を用意すんのか聞きたかったっつー……スマンな! オジサンのワガママだ!」
元・勇者はそう言って、両手を顔の前で合わせて詫びる。
……やっぱそんなトコか。
うん。そんな気はしてた。
コイツはコイツで、人間と魔族の関係を真剣に考えてた。
人間と魔族の、今後の道を。
その為に、魔族側からの意見が欲しかったってことだ。
やり方が強引だったのは……まぁコイツの性格だろう。
そう考えれば許せなくもないんだが……
「俺の分は許す。でもミリィを恐がらせた分については"誠意"で返して貰いてぇな。」
貰えるモンは貰っとこう。
「"誠意"ねぇ……オジサンど~すりゃいい?」
……そうだなぁ。
「んじゃ、"身体で払って"くれ。」
コイツのデタラメな身体能力は、いろいろ使えそうだ。
……あ、ミリィ? 顔赤くしなくていいぞ?
そーゆー意味じゃないからな?




