第四十九話 楽しいことを考えよう
「あ~~~!!! も~~~~!!! あのクッッッソ酔っ払いがぁ~~~!!」
元・勇者が俺とミリィを残して去った後……
俺は、元・勇者に騙されたことをめちゃくちゃ悔しがった。
うな垂れる俺の隣で、ミリィは膝を抱えている。
「ごめんなさい! わ、わたしのせいだよね。わたしなんかを連れ出そうとしたせいで……レティちゃんまで……!」
ミリィが涙目で言う。
「……ちげーよ。俺がドジ踏んだんだ。」
ミリィの哀しげな顔を見て、少し冷静さを取り戻した俺は、そこで違和感に気付く。
(……あれ?)
なんで元・勇者は、こ ん な ま ど ろ っ こ し い ことをしたんだ?
アイツのデタラメな身体能力をもってすれば、わざわざ演技をして塔の最上階に連れて来てくる必要なんてないだろうに。
そんなことをせずとも、腹パン一発で俺を気絶させて担いでくりゃいい。
街中では目立つかもだけど、屋台で二人になったタイミングなら出来たはずだ。
(……そういや、最後のアレも違和感バリバリだったな。)
"どうしても出して欲しけりゃ、人間にとって無害な証拠を見せろ"。
捕らえた相手に、わざわざそんなこと言うか?
つまり……これって……
「……あ~、こっちが演技か。」
元・勇者の意図はわからねぇが、"俺らが必死になって自分たちが無害なことを証明する"ことを望んでる。
その為に悪役を演じて見せた、と。
うん。こっちの方がしっくりくる。
となれば、このまま二人で仲良く処刑、みたいな事は無いと思っていいかな?
「ミリィ。とりあえず大丈夫そうだから、泣かなくていいぞ?」
俺は膝を抱えたミリィに説明する。
ミリィは俺の説明にきょとんとしたが、それでも先ほどよりは明るい表情になった。
「でも……"無害なことの証明"はしなきゃダメなんだよね?」
「そうだな。それがネックだ。」
元・勇者によれば、魔族が居るってだけで人間に混乱を呼ぶのだという。
それは俺らに敵意や害意がなくとも、"有害"と為り得るって話だ。
「……無理ゲーじゃね?」
人間に"魔族"だとバレる可能性がある時点で、混乱を呼ぶ恐れがある。
つまり……俺らが"魔族"である以上、解放したらどうあっても"有害"になっちまう。
「やっぱり……無理なのかな?」
ミリィがまた泣きそうになる。
……えぇい! 幼女の泣き顔は見たくない!!
「ミリィ! 俺の今住んでる街にな! ミリィと同じくらいの歳の女の子がたくさんいるんだ!」
「……?」
突然話題を変えた俺に、ミリィが首を傾げる。
「シャルは口数は少ないけど賢くて、今は面白い本の翻訳をしてくれてる。ロロは面倒見の良いお姉ちゃんで、ご飯作るのがすっごい上手いんだ。グリムはお洒落さんで、可愛い服を並べた店を持つって夢を持ってる。それから俺の自慢の妹……アイリスとコロネは元気で優しくて、すげーお姉ちゃん思いなんだぞ。」
「れ、レティちゃん? なんの話?」
戸惑うミリィ。
そんなミリィに、俺は宣言する。
「ここから出たら、ミリィをみんなに紹介する! みんな良い子だから、きっとすぐに友だちになれるぞ! だから……さっさとここから出ようぜ!」
笑顔でそう告げた俺に、ミリィは、
「……プッ。アハハハハ!」
ようやく笑顔を見せてくれた。
ミリィは目尻に滲んでいた涙を拭いながら、
「うん! じゃあ早くここから出なくちゃね!」
そう言って笑ってくれた。




