第五話 好きのカタチは人それぞれ
「【サキュバス】って……あのサキュバスか?」
俺はエリノアの言葉を復唱する。
「ご存知ですの?」
「俺の知ってる【サキュバス】ってのは、"夢魔"とか"淫魔"とか呼ばれる悪魔なんだが……」
「そう! その【サキュバス】ですわ!」
エリノアが肯定する。
どうやら思った通りらしい。
「え? じゃあエリノアも眠ってる男に誰彼構わずえっちぃことして精気吸い取ったりすんの?」
「ちょ! そんなことしませんわ!」
エリノアが強く否定する。
え? 違うの?
「精気を吸うには相手の同意が必要ですし……そもそもわたくし達だって相手は選びますわ!」
なるほど。
「ちなみにエリノアはどんな相手を選んでるの?」
「……そんなコト、人に教えたりしませんわ。」
エリノアは目線を逸らして言う。
……が、俺には既に見当がついていた。
「えー。教えて?」
「……ダメですわ。」
俺はエリノアに可愛らしい声を作って問う。
エリノアは平静を装って拒否する。
「ねーぇ。えりのあー。」
「……ダメ……ですわ。」
俺は四つん這いでエリノアに詰め寄る。
エリノアは必死に耐える。
「えりのあー、おねがぁい♪」
「……ッ!!!」
顔を近づけ、エリノアを上目使いで覗き込む。
エリノアは顔を赤らめ、ぷるぷる震え出した。
俺は確信する。
コイツは……俺と"同じタイプの性癖"ッ!!
そう! つまり……!!
「……お前、小さい女の子好きだろ?」
「なっ!? なーんのことですのー? オホホー。」
チッ。とぼけやがって。
「正 直 に 答えろ。エリノアは小さい女の子が?」
「大好きですわぁー! ……ハッ!?」
俺が強く命じると、"血の盟約"の効果が働いたようだ。
エリノアはようやく白状した。
「……どうしてわかったんですの?」
エリノアは耳まで真っ赤にして、消えるような声で問う。
「目線。」
「……はい?」
「俺と話してる最中、目線が身体を探り過ぎ。胸とか尻とか。」
「なっ!?」
女になってみると意外とわかるもんだ。
エリノアの目線は、まさに男子中学生のそれだった。
世の男性諸君、女性と話す時は注意しような!
……まぁ分かっててもつい目線が行ってしまうのだから注意のしようもないけどな。
俺に性癖を見透かされ、白状させられたエリノアは目に見えて落ち込んでしまった。
……そうだよな。俺も同じことされたら凹むわ。
これはフォローしといた方がいいかな。
「ま、まぁなんだ。そう落ち込むな!」
「……(ずーん)」
「ほ、ほら! それもエリノアの個性っていうかさ!」
「…………(ずーん)」
「……たまになら精気吸わせてやっから」
「ホントですの!?」
一瞬で復活しやがった!?
「ちょ、たまに! たまにだからな!?」
「それで十分ですわぁ! フフ、ウフフ、ウフフフフ!!」
先ほどまでの凹み具合はどこへやら。
エリノアは頬に手をあて、至福の表情でニヤけている。
……あー、しくじった。
こいつマジでサキュバスだわ。