第四十五話 中に入れてほしいの
「おー……やっぱ人多いな……。」
魔族の娘が、王都で捕らえられたらしい。
その情報を聞いた俺は一人、王都"キング・ヤード"に来ていた。
……そう、一人だ。
今回は幼女たちもエリノアも連れてきていない。
ぼっち旅だ。
拠点を置いた"イナガウ・アッシュ"での各店舗の経営……それが軌道に乗ってきたこのタイミングで、
店を休んでまで連れて来るべきではないと判断したからだ。
あ、ちなみに王都で魔族が捕らえられ云々の話は言ってない。
幼女たちには「せっかく王都が近くにあるんでちょっと観光してくる。」と伝えて出てきた。
いらん心配を掛けたくないからな。
だが……
「なんか……今すっげぇ寂しいんですけど!」
今まで当たり前のように賑やかだった俺の異世界生活。
幼女たちと離れて、その有難みが実感となって俺の胸に突き刺さる。
「……あー! もう! さっさと終わらせて帰ろう!」
そんで……帰ったら幼女たちとめちゃくちゃイチャイチャしてやる!
シャルを抱きしめて……
ロロをくしゃくしゃに撫でて……
グリムのスカートの中に潜り込んで……
妹たちとお風呂にも……
いやいっそみんなで入るか! そうしよう!
***
よっしモチベーション充電完了!
まずは……"魔族の少女"が幽閉されてるっつー"王城"を見てみようってコトで来てみたんだが……
「やっぱ……普通には入れそうにねぇな。」
王城の周囲は、二階建ての家屋ほどの高さの城壁がグルリと囲っている。
通用口の正門は大きく頑丈そうな鉄の扉。
もちろん門には門番が立ち、不審者や不審物の出入りは不可能だろう。
正面突破は不可。
忍び込むにも無理がある。
モワを連れてきていれば、"幻術"でモンスター騒動でも起こしてもらい、混乱に紛れて侵入!とか出来たかもしれんが……。
「あとは……関係者を抱き込むくらいしかないか?」
城内への出入りが許されている者。
王族かその使用人、王国軍騎士に、一部の業者……。
だが誰であれ、「ちょっと王城入らせてー?」「いいよー」とはいくまい。
私情で他人を城内へ入れたなどと知れたら、ソイツは犯罪ほう助……下手すりゃ共謀罪だ。
関係者の友達になったくらいじゃ、協力は求められないだろう。
あ、オーハマ・ヨーク冒険者ギルドのギルド長、アーレイが確か王国軍南方なんちゃらの隊長だったな。
……いや、無理だな。
流石に事情も聞かずに入れてくれるようなヤツじゃない。
そこまでの貸しも無い。
「う~ん……詰んだか?」
手も足も出ないとはこのことか。
俺は頭を抱えながら、夜になった城下町を一人歩く。
俺の歩くこの通りには酒場が多いらしく、さっきから顔を赤くした連中とよくすれ違う。
あーいいですねぇ! 気分良く酔えて!
こっちは幼女の身体だから飲みたくても飲めねぇっつーのに!
「お~? どうしたよ嬢ちゃん~? コワい顔して~? ……ヒック。」
げ。酔っ払いに絡まれた!
酔っ払いは俺の肩に寄りかかって酒臭い顔を近づける。
おま! 現代日本ならこの時点で事案モンだぞ!?
「なんでもないですー。急いでるんでスミマセンー。」
俺は塩対応で酔っ払いを振りほどき、さっさと宿へ向かおうとする。
……が、背後から肩をガシッ! と掴まれる。
「なぁに急いでんの~。ゆっくりしてきなよ~。」
コ イ ツ !!
マジでタチ悪いんですけど!!
「せっかく"魔族領"から来たんだろ~?」
「……え?」
え?
コイツ……今なんつった?
"魔族領"から来たんだろ……、って?
俺は振り返り、男の顔を見る。
白髪混じりの黒髪。無精ひげを生やすその男は……正直、フツーのオッサンにしか見えない。
「な……なんのコトですかぁ?」
俺が聞き間違いであることを信じて酔っ払いに問う。
しかし酔っ払いは、
「がっはっは! オジサンにはわかっちゃうんだよね~。」
そう赤ら顔で笑いながら、再度その言葉を告げた。
「嬢ちゃん、"魔族"だろ~? ……ヒック。」




