章末閑話:その行く先に期待を込めて
第四章完結ということでグリム視点の閑話です。
ストーリーは進まないので読み飛ばして頂いてもだいじょぶです。
妾はグリム。
グリム=メタモルフォーゼじゃ。
訳あって先日まで屋敷に引きこもっておったのじゃが、今ではこうして外の世界を堪能できておる。
イナガウ・アッシュに洋服店まで持たせて貰った。
大好きなお洋服に囲まれて過ごす日々は、引きこもっていた頃とは比べられぬ程充実しておる。
それもこれも……あの"お節介焼き"のお陰じゃ。
***
「のぅ。レティーナ。ひとつ聞いても良いか?」
店を閉めた後、妾は宿屋の方に顔を出していた。
この宿屋も身内の……というか、シャルやレティーナの妹たちの経営じゃ。
妾はその一階、酒場の隅のテーブルに腰掛けてジュースを御馳走になっておるところじゃ。
テーブルの向かいにはレティーナが座っておる。
「ん? どうしたグリム、改まって。」
レティーナが顔を向ける。
此奴こそが、妾を屋敷から連れ出した張本人……例の"お節介焼き"じゃ。
先代"魔王の娘"、レティーナ=ランドルト。
妾がこれまで出会った中でもとびきりの"切れ者"じゃ。
「その……今更と笑うかもしれぬが、疑問が浮かんでな。」
妾は口ごもりつつも、レティーナに問いかける。
「お主は"魔王軍幹部の娘"を集めて守りながら暮らすのが目的じゃろ?」
「ん? おぉ、ホントに今更だな。そーだよ?」
レティーナが返す。
「で、その"集める場所"として、この街、"イナガウ・アッシュ"を拠点にしたのであろう?」
「そーだな。それがどうかしたのか?」
質問の意図が掴めぬといった様子で、レティーナが先を促す。
「ならば……別に妾を連れ出す必要など無かったのではないか?」
そうなのじゃ。
同じ街の中で過ごしている以上、"集めて守る"という目的からは反れない。
ならば、ワガママで引きこもっていた妾を、面倒な手を使ってまで連れ出す必要など無い。
レティーナはしばし考えて、答えた。
「まぁ半分はモワに頼まれたからだな。"お嬢さまとまたお話したいです!"って涙目だったんだぞ? そりゃ連れ出してやらねーと寝覚めが悪いだろ?」
……モワめ。そんなこと一言も言っておらなんだのに。
「……して、もう半分とは?」
「そりゃ決まってんだろ。」
レティーナは胸を張って、
「恐がって引きこもってる幼女が同じ街にいるんだぞ?そりゃ連れ出してやんなきゃ!」
ドヤ顔でそう告げた。
……何を言っておるのじゃ此奴は?
「お主……これまでの旅路も、まさかそんな動機で動いておったのか?」
妾は呆れ顔でレティーナに問う。
レティーナはしばし考えてから、
「あー……うん、まぁだいたいそんな感じだ。」
そう答えた。
「フッ……フフフフ。」
妾はいつのまにか笑っておった。
「なっ! んだよーグリム。笑うなって!」
レティーナが拗ねたように言う。
そうじゃな。
此奴はそういう奴じゃ。
"切れ者"なんて評価は訂正しよう。
此奴は"うつけ者"じゃ。
それも頭に大が付く程の。
理知的なように見えて考え無しじゃ。
冷静なように見えて情に流されっぱなしじゃ。
じゃが……妾はそんな"大うつけ者"に救われたんじゃな……。
「妾はそろそろ帰る。明日も店は賑わうじゃろうからな。」
そう言って、妾は宿を出た。
レティーナはまだ何か言いたそうだったが、「お、おぅ。気をつけて帰れよ。」とだけ言って妾を見送った。
全く……"お節介焼き"の"お人よし"め。
「シャルやロロは苦労するのぅ……。」
一人街道を歩きながら呟く。
彼奴の性質は、どうやら周りを巻き込んで"大きな変化"をもたらすもののようじゃ。
それも"良い変化"を。
そんな者が常に傍に居るというのは、退屈はせぬが、振り回されそうで心休まらぬ。
「まぁ……妾も付いて行けるところまでは"見学"させてもらおうかの♪」
また誰にとも無く呟く。
もしかしたら彼奴なら、世界すら変えてしまうのではないだろうか?
そんな事を考えると、妙に胸が高鳴るのじゃ。
上機嫌に鼻歌を歌いながら、妾は月が照らす帰り道を歩いた。




