第四十四話 みんながやりたいこと
――翌週。
"イナガウ・アッシュ"の交通封鎖が解除され、王都に向けた荷馬車の通行が可能となった。
午後四時を過ぎた頃、荷馬車の一団が到着する。
この街で一晩宿を取り、翌朝出発するのだろう。
「あー、腹減ったなぁ。……どっか飯食えるトコねぇかな?」
「まぁ先週まで封鎖されてた街だからな。飯屋がなけりゃ、また"パン"と"干し肉"の晩飯だな。」
「マジかぁ……たまには温けぇモンが食いt……あれ?」
男たちが街の中心へと歩いていくと、一件の建物に気づく。
……いや、気づいたのは建物から漂う"めちゃくちゃ美味そうな匂い"に、だ。
「お、おい! 飯屋あんじゃん!」
「マジか! ちっとぐらい高くてもいいや! 入ろうぜ!」
男たちが店に入ると、一人の少女と、四人の少年が出迎えた。
「いらっしゃいませ。『狼と兎亭』にようこそ!」
「「「「よ、ようこそっ!」」」」
男たちはそれを見て面食らい、小声で話し始める。
(お、おい。ガキばっかだぞ? 大丈夫か?)
(つっても良い匂いはするし、流石に料理は大人が作ってんだろ?)
躊躇しつつも、テーブルに座る二人。
「こちら、メニューであります! どうぞ!」
「あ、あぁ。」
男たちはメニューを見る。
値段は……手頃だ。ぼったくりってワケじゃない。
「この……店の外までいい匂いがしてるのは何の料理だ?」
「あ! これは"生姜焼き定食"の匂いでありますね! さっきレティd……オホン、賄いとして作ったものであります!」
"ショウガヤキ定食"? 聞いたコトの無い料理だ。
「じゃあ、それを頼む。」
「俺も同じで。」
「はい! かしこまりましたであります!」
少女は厨房に入ると、料理を始める。
(オイオイ、ホントにあの子が料理すんのか?)
(まぁ味は諦めよう。温かいモンが食えるんなら、干し肉よりはマシだろ?)
男たちが話している間にも、少女は手際よく調理を進める。
「お待たせいたしました! "生姜焼き定食"であります!」
男たちのテーブルに、皿に盛られたレタスとロース肉、別皿でライスが出される。
こんがりと焼き色が付いたそれは、食欲をこれでもかと刺激するほど香ばしい匂いを立てている。
((……ゴクリ))
二人の男は、直感する。
これは……間違いなく、美味い。
男たちがフォークでロース肉を取り、口に運ぶ。
――瞬間、ふたつの歓声が上がった。
「「うまぁあああああああああああああああああああああああい!!!!!」」
***
「おい! あっちの飯屋やべーぞ! 値段は手頃なのにめっちゃくちゃ美味い!」
「バカ! あっちの服屋行ってみろ! すっげー質の良い綺麗な布なのにアホみてぇに安いぞ! 品切れになる前に買っとけ!」
「なぁ! あの宿屋に昨日泊まったんだけど、ベッドの寝心地がハンパねぇんだわ! 疲れが吹っ飛んじまった!」
イナガウ・アッシュの往来が通常に戻って一週間。
俺らの準備した"店"は、荷運び人たちの間で話題となっていた。
服屋はグリムとモワで対応。
男物の服はもちろん、嫁や娘への土産として女性向けの洋服も大いに売れているらしい。
大量買いが相次ぎ品切れが連発したため、購買制限を設けなければならなかった程だ。
飯屋はロロと弟くん達……だけでは手が足りなかったのでクリープにも手伝わせている。
まだ街の住人はそれほど戻っていないはずなのに、飯時ともなると店に長蛇の列が形成される。
荷運び目的ではなく、飯の為だけに"オーハマ・ヨーク"や"王都"から人が来ることもあるらしい。
宿屋はシャル、アイリス、コロネが担当だ。
一度泊まればその寝心地の良さに虜になり、既にリピーターが出る始末。
中には、『このベッドを売ってくれ!』などと言い出す者もいたらしい。
この街の衣食住を独占する計画。
とりあえず今のところ順調だ。
別に金に困ってるワケじゃないし、俺の"力"があれば食いっぱぐれはねぇんだが……
この街を拠点にする以上、何かしらの"職"を持っていた方がいい。
"何でもいいから行動する"
必要かとか、目的がどうとかより、『生きる』ってのはまず『活動する』事だ。
別に成功とか失敗とか考えず、『何か』してれば『何か』見えてくるモンだ。
人生は詰め将棋じゃねぇからな。
実際、オシャレ好きのグリムは服屋の経営に夢中だ。
今の店を繁盛させて『女性客向けの二号店』の発足に向けて精を出している。
自分なりに見栄えのするレイアウトを研究したり、お客さんのニーズを調査したりしている。
ロロも同じく。
俺の出す食材に頼らず、『食材確保から自分で出来るようになりたい』との思いから日々料理研究に励んでいる。
聞くところによると、荷運び人から食材調達のルートや、珍しい食材の情報を聞いたりもしているらしい。
シャルは宿屋の管理をしながら、"漫画の翻訳"を頑張っているらしい。
俺の出した"修正ペン"でセリフをこの世界の文字に書き直して、『誰でも読める漫画』にしてくれている。
試しにロロやグリムに読ませたら大好評で、「続きはまだでありますか!?」「早く訳すのじゃ!」とせっつかれたとのことだ。
まぁ何にせよ、みんなが『やりたい事』を見つけられたみたいで喜ばしいことだ。
んで、俺とエリノアは……"ココ"だ。
「ねーちゃん! こっちにおかわり頼む! ジョッキで!」
「こっちもー! あと"カキノタネ"も!」
「儂は"ニホンシュ"を頼む!」
「おーい! "ぽてとちっぷす"追加してくれー!」
宿屋一階の受付横のスペースに設けられた小さめの"酒場"。
荷運び人どもの「あとは酒場があれば完璧なんだよなー……」という言葉をあちこちで聞いた為、急遽追加したのだ。
やはり男どもに"酒"は必須らしい。
「はいはーい。みなさーん。あまり大声を出すとご宿泊のお客様に迷惑になってしまいますわ。このお店ではなるべく静かにお願いいたしますねー。」
エリノアの注意に男どもは素直に「はぁーい。」と従う。
こいつホントに男を手玉に取るのが上手いな。さすサキュ。
まぁ冒険者ギルドが併設された大きな酒場が近く営業再開するって話だから、ここはそれまでの繋ぎ程度の経営なんだけどな。
俺がつまみをテーブルに運んでいると、荷運び人同士の会話がふと耳に入ってきた。
……いや、おそらく"あるワード"が含まれていたから自然と耳が向いたのだろう。
「なぁ、聞いたか? 王都で"魔族"が捕らえられたらしい。」
「ホントかよ!? 物騒な話だな。」
「つってもその"魔族"、まだ"小娘"って噂だけどな。今は王城の中にある塔に幽閉されてるんだとよ。」
なん……だと……ッ!?
「な、なぁアンタら! その話、詳しく頼む!!」
俺はつまみを運ぶのも忘れ、荷運び人に情報の詳細を求めた。
お読み頂きありがとうございます♪
今回の投稿で第四章完結となります。
明日章末閑話を上げて、明後日から第五章に入れたらいいな。
ちなみに本作ですが、そんなに長いお話にはならない予定です。
第六章で完結しようと考えてますので、このままのペースで行けば今月中に完結かな?
こういう小説らしき作品を書くのって初めてなので、いろいろ勉強になります。
本作が皆さんの、ちょっとした暇つぶしにでもなっているのであれば嬉しい限りです。
それでは今後とも、本作を宜しくお願い致します♪




