第四十三話 お泊り、待ってます
「あ! おねーちゃん!」
「れてぃねぇ!」
三件目の建物で、アイリスとコロネが俺を出迎える。
ここが最も大きな建物だ。
「……レティ、……だいたい、……出来たよ。」
シャルもここの担当だ。
ここは"元宿屋"だった建物。
ならばやはり、再度"宿屋"として使うのがベストな選択だろう。
各部屋には"カーテン"が付けられ、テーブルには"花瓶"や"テーブルランプ"が置かれている。
壁には"鏡"や"ちょっとアートな絵画"も取り付け、ホテル感はバッチリだ。
しかしベッドだけは木製のベッド……このままではこの世界の普通の宿屋と同じだ。
故に!
「ほいっ! ……重っ!!」
俺は右手を握り、"マットレス"を出す。
"重量"の制限があるので、あまり厚いものは出せないが……それでも、この世界には絶対に無い"コイルマットレス"だ。
「よーし! アイリス! コロネ! 飛び込んでいいぞ!」
マットレスを取り付けた俺の言葉に、アイリスとコロネが我先にとベッドにダイブする。
「うひゃあ! すごーい! なにこれー!?」
「すっごいの! ぽわんぽわんなの!」
二人は弾むベッドに夢中だ。
「シャル……じゃなくて"お泊り大臣"。何か他にご要望は?」
「……だいじょぶ。……けど、……"お泊り大臣"は、……やめて。」
シャルはちょっと顔を赤らめて小声で呟く。
「……なんだか……えっちぃから。」
俺の中の何かが、このままシャルも一緒にベッドに押倒してしまえ! と告げた。
……が! いかんいかん! 妹たちが見てr……じゃなく! 仕事中だ!
「んじゃ"宿屋大臣"だな。掃除とか洗濯とか大変かもだけど、頼むな。」
「……だいじょぶ。……教会でいつも、……やってた。……それに、」
「わたしも手伝うよー!」
「ころねも! なの!」
ベッドの上からアイリスとコロネが元気に手を挙げる。
おーけー。
準備万端だな。
「……あ。……レティ、……ちょっといい?」
「ん?」
シャルが控えめに言う。
「……これ、……読み終わったの。……とっても、……面白かった。」
シャルが俺に見せたのは、以前俺が貸した"ライトノベル"だ。
……つかすげーな。マジで異世界文字の小説読破したのか。
「すごいな! それならもう何でも読めそうだな!」
俺はシャルの頭を撫でる。
「……うん。……だからね、……他の本も、……読んでみたいの。」
シャルが上目使いで言う。可愛い。
「そうだな……あ! こういうのはどうだ?」
俺はふと思い付いたので"本"を数冊出し、シャルに手渡す。
しかし今回のそれは"小説"ではない。
「……? ……これ、……絵本?」
「"漫画"って呼ばれてる本だ。小説と違って、絵がコマ割りで入ってるから読みやすいぞ。」
シャルは"漫画"のページを捲る。
「このコマの次がここ。で、下の段のこっち。ここまでいったら次のページだ。」
俺は簡単に漫画の読み方を教える。
シャルはその説明を真剣に聞いている。
「どうだ? 読めそうか?」
俺の問いに、しかしシャルはすぐには答えず、何か考えているようだった。
「……小説よりも、……ずっとわかりやすい。……これなら」
「ん?」
シャルは俺に向き直ると、輝いた目で俺を見る。
「……あのね! ……レティ! ……思いついたの!」
「お、おぅ。どうした?」
珍しくシャルが興奮ぎみだ。
ちょ! そんなに見つめられるとドキドキするから!
「……ここの白い丸の中が、……このキャラクターの、……喋ってる事なんだよね?」
「あ、あぁ。"吹き出し"っつって、セリフが書かれたとこだな。」
シャルは尚も高揚した声で問う。
「……じゃあもし、……ここだけ、……この世界の言葉に、……"翻訳"したら?」
「……お? ……おおぉ!!」
俺はようやくシャルの言いたいことを察した。
「そうだな! セリフさえ翻訳して書いてやれば、シャル以外の人も読めるよな!」
「……うん! ……みんなに、……読んでもらえる!」
シャルは嬉しそうに微笑む。
自分だけ文字が読めても、他の人にその良さを伝えられないのが引っかかっていたのだろう。
「すごいぞシャル! こんなのシャルにしか出来ないことだ!」
「……うん! ……わたし、……がんばって、……翻訳するね!」
そう言ったシャルの笑顔は、とても輝いて見えた。
お読み頂き、ありがとうございます♪
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ってもっと早く言うべきだったんですが……
ちょっと諸事情あって遅くなりました。
ゴメンなさい。
例の如く閑話書かせて頂きましたので、別館に置いときます。
ストーリーを純粋に楽しみたい方はお気になさらず♪
それでは今後ともよろしくお願いします♪




