第四十一話 たいへんよくできました
「まったく……呆れましたわ。まさか領主から居住権と建屋をせしめるだなんて……。」
馬車の中、エリノアが俺をジト目で見て言う。
冒険者ギルドでの交渉から一週間。
領主から「建屋の手配が出来た」との連絡を受けた俺らは、再びイナガウ・アッシュに向かっていた。
「せしめるだなんて人聞きが悪いぞ。"交渉"して"譲渡"してもらったんだ。」
俺が言うと、エリノアは更にジト目を強める。
「しかしレティーナよ。何故"イナガウ・アッシュ"なのじゃ?」
グリムが問う。
「以前、ティーパーティーの際に言っておった"堂々と生活できる環境"とやらと関係があるのか?」
お、良いところに気付いたなグリム。
そう。
何も俺は考え無しに領主からイナガウ・アッシュの居住権をぶん獲っ……譲り受けたワケじゃない。
よし。じゃあクイズ大会にしようか。
「じゃあロロに質問だ。イナガウ・アッシュは"関所の街"とも呼ばれてるよな? 関所ってのは通るのに通行税……お金を払わなきゃいけないワケだが……なんで皆、わざわざお金を払わなきゃいけない道を通ると思う?」
ロロは少し考えてから答える。
「それは……他の道を通るより、その道を通った方が楽だから……でありますか?」
「ん。正解だ。」
俺はロロの頭を撫でながら"飴玉"を出してロロに手渡す。
ロロは嬉しそうに飴玉を口の中で転がす。
シャルとグリムはそれを羨ましそうに見ている。
「そう。イナガウ・アッシュはオーハマ・ヨークと王都を結ぶ中継点。しかしこの街を通らずに王都に向かうとなると、険しい山を越える必要がある。労力も日数も、余計にかかっちまう。だから皆、通行税を払ってでもイナガウ・アッシュを通るんだ。」
俺が解説する。
実際、モンスター騒動でイナガウ・アッシュが封鎖されて、陸運業は大打撃だったらしいからな。
「じゃあ次はシャルに質問だ。関所の役割は"徴税"の他にもう一つある。何だと思う? 辞書引いてもいいぞ?」
俺の言葉にシャルは「……だいじょぶ。」と前置きしてから答える。
「……関所は、……交通の要所に設けられる施設。……目的は、……"徴税"とか、……"検問"。」
「ん。正解! よく覚えてるな!」
俺はシャルの頭を撫でながら再び"飴玉"を出してシャルに手渡す。
シャルは頬をほんのり染めながら飴玉を頬張る。
「シャルの言った通り。関所には"徴税"の他に"検問"を役割として持つ場合もある。ギルド長に呼ばれたときに確認したが、イナガウ・アッシュの関所にも"検問"は設けられているらしい。王都に危険なものを持ち込んだり、怪しい奴が入ったり出来ないようにな。」
俺は解説しながら、グリムに目を向ける。
グリムはわくわくした表情をしている。
あ、次の問題を期待して待ってるなこの子。可愛いわぁ。
「じゃあグリムに質問な。そんな関所の街"イナガウ・アッシュ"を越えた先には"王都"があるよな? それじゃあもし、イナガウ・アッシュに……"武装した集団"が押し掛けて来たらどうなる?」
グリムは「そんなもの決まっておろう!」と胸を張って答える。
「王国軍が黙っていないのじゃ!」
「大正解! よくできました!」
俺はグリムの頭を撫でながら再度"飴玉"を出す。
グリムは喜びながら飴玉を口に放り込む。
俺の前で嬉しそうに飴玉を舐める幼女三人。
あー、めっちゃ可愛い♪
「つーわけで、だ。イナガウ・アッシュに危ない奴らが押し掛けて来たら、王国軍が迎撃するのは必然。
例えそれが……"王都"じゃなく" 俺 ら に 用 が あ る 奴 ら "だったとしても、だ。」
俺の言葉に、幼女三人とエリノアが「あ!」という顔をする。
そう。
ここまで説明すればわかるだろう。
「俺らがイナガウ・アッシュに居を構えている限り、俺らを狙う連中も無茶は出来ねぇ。それが軍勢……例えば"魔族復権推進派"みたいな連中だったとしてもな。」
俺の解説を聞き終えた三人は、飴玉を舐めるのも忘れているようだった。
「……レティ、……すごい!」
「レティ殿は軍師でありますか!?」
「レティーナ! お主、そこまで考えておったのか!?」
幼女三人のきらきらした眼差しが俺に向けられる。
なぁに。悪だくみは俺の十八番だ。
追われる身でも堂々と生活したかったら、追ってる奴らが堂々と追えない状況を作ればいい。
不良に絡まれたら職員室へ。
ストーカーに追っかけられたら交番へ。
別に真正面からバカ正直に立ち向かう必要は無い。
己の幸福の為に、使えるモンは遠慮なく使うべし! だ。
俺が幼女三人を前にドヤっていると、横からクイクイッ、と袖を引っ張られた。
「あ、あの……! わたくしにも質問はありませんの?」
エリノアが期待の眼差しを向ける。
「……えー、以上でクイズ大会は終了です。」
「なんでですのぉー!?」
エリノアの嘆きを響かせながら、
俺たちを乗せた馬車は新たな拠点となるイナガウ・アッシュへと進むのだった。




