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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
第四章 ばんぱいあろーど
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第四十話 搾りたてがおいしいの


――二日後。


 再び冒険者ギルドに呼ばれた俺は、例の如く"ギルド長室"へと通された。


「調査結果の報告が来た。キミの報告通り、イナガウ・アッシュはモンスターの支配から解放されている事が確認されたよ。」


 アーレイが報告書を片手に告げる。


「……未だに信じられんよ。まさか本当にキマイラを撃破するとは。」


 アーレイは驚きを通り越して呆れ顔だ。


「ギルド長として……そして王国軍 南方防衛部隊長としても深く感謝する。」


 そう言ってアーレイは頭を下げる。


「……だってさ、おじさん。良かったね!」


 俺はアーレイの隣に座る身なりの良い中年の男に笑い掛ける。


「おぉ! まさか本当に……! 有難う! 心から感謝するよ!」


 中年男も頭を下げる。


 そう。

 この男こそ、俺がアーレイに"同席して欲しい"と依頼した人物。

 関所の街"イナガウ・アッシュ"……その土地の権利を有する"領主"だ。


「あのモンスターどものせいで、住民は逃げるし、通行税も取れなくなるし、……いや、本当に助かった!」


 今回の一件で最も得をした人物だろう。

 そう。

 だ か ら こ そ 呼 ん だ の だ 。


「まずは……ギルドからの報酬を渡そう。」


 アーレイはそう言って、以前の山賊討伐の時の三倍はあろうかという金貨の入った麻袋を机にドン! と置く。


「そして……これも渡さねばな。」


 そう言って見覚えのある……しかし以前のものとは違う"金属製のピンバッジ"を机に置く。


「Aランク冒険者を認定するバッジだ。受け取ってくれ。」


 おーおー。ついにAランクか。

 スピード出世も甚だしいな。


「冒険者ギルドとしてはここまでなんだが……キミから何か、領主様に話があるんだろう?」


 アーレイはそう言って、俺に促す。


 俺は領主をちらっ、と見る。


 領主はわかっているとも、とでも言いたげに頷く。

 この場に呼ばれたことに意味があるのは、領主も承知しているらしい。


「報酬の上乗せだろう? ……いいとも。こちらも随分助かった。報酬は弾もうじゃないか。」


 そう言って、領主はカバンから麻袋を出す。


「心ばかりの礼だ。受け取ってくれ。」


 机にドン! と置かれた麻袋は、ギルドからの報酬よりも更に大きなものだった。

 だが……


「あれー? 何か勘違いしてませんかぁ?」


 俺は麻袋に手を伸ばす。そして……


「そ ん な の 、欲しいって言ってませんよー?」


 にっこり笑って領主の前に麻袋をずいっ! と突き返す。


「なッ!?」


 報酬を突き返された領主は、驚き顔だ。


「じゃあ……じゃあいくら欲しいんだ!?」


 これ以上出せと言うのか!? と、領主は焦り始める。


 さて。ここからが"交渉"だ。


「俺らが欲しいのは……イナガウ・アッシュの"街"だ。」


「「……は?」」


 俺の言葉に、領主も、ギルド長もぽかんとする。


「正確には"街の居住権"と"俺らへの永久非課税"。ついでに"大きめの建屋(ハコ)"もいくつか付けてくれ。」


「な、何を言い出すんだ!?」


 領主は意味が分からないといった風に問う。


「いやー、俺らもそろそろ旅の冒険者なんて根無し草を卒業したいなーと思ってましてね。どっかに拠点を置こうと思ってるんですわー。で! 今回の依頼で行ってみたら、まぁなんといい街だ! ってことで、イナガウ・アッシュに居を構えようと、こういうワケですわ。」


 俺はペラペラと適当なことを言う。


「で? どうです? 領主様。」


 俺の問いに、しかし領主は苦い顔をする。


「いや、居住権と非課税はいいにしても"大きめの建屋をいくつか"とは……。元々の家主の意向もあるからタダでとはいかんと思うが……。」


 そう言って俺をちらっ、と見る。

 あーやっぱコイツも商売人か。

 儲けられるとこからは儲けたいもんな。


「んー? でも半年も封鎖されてた街……もうとっくに所有権が手放された建物もあるんじゃない?」


 エリノアにも確認したが、建物の所有権を持ってる限りは、その街を治める領主に"税"を払わなきゃいかんらしい。

 だったら損切りの得意な商人連中が、いつまでもそんな不良物件を持ってるハズも無い。

 さっさと手放して"領主の所有"になった建物がいくつかあるハズだ。


 俺の問いかけにギクッとする領主。

 子供相手だと思ってカマ掛けやがって……。


「それにモンスターが居なくなったとは言っても、すぐに住民たちが戻るとは限らないでしょ?『またモンスターが戻ってきたらどうしよ~?』って思ってる人も少なくないと思いますよ。"Aランク冒険者が拠点を置く街"って宣伝すれば、そんな不安も無くなるんじゃないですか?」


 そう。

 領主を領主たらしめるのは自治領の住民だ。

 住民が居なけりゃ税も入らない。


「まぁこの条件が飲めないっつーんなら、俺らも無理にとは言いません。ただ……その後、街が ど う な ろ う と 知りませんけど……。」


「ま、待て! いや、待ってくれ!」


 俺に痛いところを突かれた領主は、ぐぬぬ……という顔をした後、


「……わかった。居住権と永久非課税、そして建屋数件……手配しよう。」


 遂に折れた。


 "交渉"成立だ♪

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