第三十九話 乙女の秘密です♪
「グリムさま……!」
ティーパーティーに参加したグリムに、モワが駆け寄る。
「お久しぶりです……! お会いしたかったですよぅ……!」
モワは目に涙を浮かべていた。
「モワ……。」
半年ぶりの再開を泣いて喜ぶ従者に、グリムも思うところがあったのだろう。
「すまなかったのじゃ……。妾が臆病なばかりに……苦労をかけたの。」
「いいんです! こうしてまたお会い出来ましたから……!」
モワが涙を拭う。
「また妾と……おしゃべりしてくれるか?」
グリムの問いに、せっかく拭った涙を再度目に浮かべて、……だが笑顔で、モワが答える。
「はいっ! 喜んで!」
***
それから俺たちはお茶会を楽しみながら、グリムとモワに現状を説明した。
「……なるほどのぅ。"魔族復権推進派"に"【煉獄】の呪い"か……。」
グリムはティーカップを傾けならが俺の言葉を復唱する。
「そんな……! 嫌です! せっかくお嬢さまもお外に出られるようになったのに……。」
「モワ。仕方あるまいて。少なくとも妾たちが成人するまではひっそりと隠れて暮らすしか……。」
そう言ったグリムに、俺は訂正する。
「ん? 隠れて暮らす必要なんてないぞ?」
俺の言葉に、グリムもモワも驚いた表情を返す。
「え? でも……"魔族復権推進派"に狙われているんですよね?」
モワの言葉に、俺はニヤリと笑う。
「オイオイ。『狙われている』ってことと『隠れなきゃいけない』ってのはイコールじゃないぞ?」
そう。
こっちが悪い事したワケじゃねぇんだ。
どうしてそんな指名手配犯みたいな生活しなきゃいけない?
「堂々と生活してりゃいい。いや、堂々と"してなきゃいけない"、だな。」
妹たちの健全な成長の為にも、そんな日陰での生活なんてまっぴらだ。
「……何か考えがあるのじゃな?」
グリムの問いに、俺は頷いて再度笑う。
「まぁ、任せとけって。」
***
俺たちはその日のうちに交易の街"オーハマ・ヨーク"へと馬車を走らせた。
――翌日。
冒険者ギルド オーハマ・ヨーク支部の"ギルド長室"に、俺は報告に来ていた。
机を挟んだ向かいの席には、"王国軍 南方防衛部隊長" 兼 "オーハマ・ヨーク冒険者ギルドのギルド長"のアーレイが座る。
「では、調査の結果を聞こう。」
アーレイが問う。
元々冒険者ギルドからの依頼は、"イナガウ・アッシュにおけるモンスターの種類や数、街での生態調査"とのことだった。
だが……
「あー、結論から言います。今あの街にはモンスターは一匹もいません。」
「な、何だと!!?」
アーレイがガタッ! と椅子から立ち上がり、驚きの声を上げる。
うむ。予想通りのいい表情だ、と俺は内心笑う。
「ど、どういう事かね!? 虚偽の報告は罰則を科されることもあるのだぞ!?」
「いえ、マジなんすよ。」
信じられないといった顔をするアーレイ。
「……詳しく報告し給え。」
椅子に座り直し、机の上の茶を一口飲んで少し落ち着いたアーレイが問う。
「えーと。俺らがイナガウ・アッシュに着いて街を探索していると、"キマイラ"に遭遇しました。」
「き、"キマイラ"だとッ!? 危険度A級のモンスターじゃないか!」
再度ガタッ! と立ち上がるアーレイ。
せっかく座ったのに……。
つかモンスターに危険度のランクとかあんのね。初めて知ったわ。
「で、そのキマイラと交戦の末……これを撃破。」
「なッ!? はぁぁあ!??」
アーレイは口をあんぐり開けている。
「その後街を調査しましたが、キマイラ以外のモンスターは一匹も確認出来ませんでした。以上す。」
俺が坦々と報告を終わらせると、アーレイは「ちょ、ちょっと待ってくれ」と言って再度お茶に手を伸ばす。
カップの茶を飲み干し、額に手を当てて目を閉じている。
報告内容を整理しているようだ。
しばらくしてアーレイがようやく言葉を発する。
「……なるほど。キミたちが遭遇したキマイラは、モンスターの群れのボスだったのだろうな。それを撃破したことで、蜘蛛の子を散らすように他のモンスターも街から逃げ出した、と。」
自分の中で納得できる筋書きをなんとか描こうと、眉間に皺を寄せて話すアーレイ。
「しかし……キマイラを撃破など、王国軍が中隊を編成して当たる規模の作戦だぞ? 一体どうやって……?」
アーレイの問いに、しかし俺は可愛く笑って答える。
「……えへ、秘密だよ♪」
アーレイが頭を抱えて「Oh……」とか言ってる。
「残念だが……冒険者の"隠し玉"は詮索しないのがギルドのルールだ。これ以上は聞かん。」
個人的には非常に気になるが……とアーレイは言い残した後、
「報告内容の確認の為にすぐ"イナガウ・アッシュ"に調査隊を送る。報酬の受け渡しはその後になってしまうが構わないか?」
そう聞いてきた。
「ん。それでオッケーだ。それと……」
俺は答えた後、こう付け足した。
「その報酬の受け渡しの時に、同席して欲しい人がいるんだけどさ……」
俺はニヤリと笑いながら、アーレイに"ある人物"との面会を頼んだ。




