第三十七話 北風よりも太陽を
人間に正体がバレて以来、屋敷に引きこもってしまった魔族の"お嬢さま"。
その"お嬢さま"を連れ出すべく、俺たちは屋敷へと歩を進めた。
門をくぐり、広い庭を挟んで玄関から屋敷の中へ。
階段を上り、部屋のドアの前に立つ。
俺がドアをノックしようとすると……
――キィン。
「お、おぉ!?」
……弾かれた。
ノックしようとした手が、ドアを叩く寸前で"見えない何か"に当たって……跳ね返された。
「"お嬢さま"の"力"です……。狭い範囲に"見えない障壁"を張ることが出来るんです……。」
おぉう。マジか……。
なんという引きこもり向けの"力"……。
「お嬢さまー。ドアを開けてくださいませんかー?」
モワがドア越しに呼びかける。
反応は……無い。
「お客さまが見えてますよー。皆さま"魔族"なので安心ですよー?」
再度の呼びかけ。
……が、いくら待っても反応は無かった。
***
「さて、どうすっかな?」
俺たちは一旦、屋敷の外に出て対策を練ることにした。
「"障壁"はドアに張られてるんですわよね? なら……隣の部屋から壁を壊して入ればよろしいのでは!?」
エリノアが名案だと言いたげに提案する。
……それなんてグレートティーチャー?
「ダメだ。怖がって引きこもってるお嬢さまを、余計怖がらせてどうすんだ。」
俺が否定すると、エリノアはしゅんとして俯いた。
「……ごはんを、……運ぶのをやめる。……兵糧攻め、……とか?」
今度はシャルが提案する。
「いえ。お食事をお運びするのも、"血の盟約"で命じられていますので……。」
モワが答える。
まぁモワを動けないよう縛り付ければ可能かもだが……別の方法を考えよう。
「ならいっそ! 庭から一日中騒音を立て続ければどうでありますか!? 睡眠不足になって出て来てくれるかもしれないであります!」
ロロが提案する。
「……いや、ダメだ。あくまで"平和的に"解決しよう。別にお嬢さまと敵対してるわけじゃないんだ。」
そう。
お嬢さまを悪者扱いするべきではない。
まぁ街の元住人にしてみれば、迷惑な話だろうが……それでも、"怖がって引きこもってる幼女"を
"無理やり外に引きずり出す"ってのは……俺の信念に反する。
何か……
お嬢さまが"自分から外に出たくなる"ような方法がベストだ。
「モワ。"お嬢さま"について、何でもいい。知ってることを教えてくれないか?」
行き詰ったときは現状把握が基本だ。
俺の問いに、モワは少し考えて答える。
「そうですね……。えっと。名前は"グリム"さまです。"グリム=メタモルフォーゼ"さま……。種族は"霊種"の【ヴァンパイアロード】です。緋色の瞳で、菫色のウェーブロングの髪が腰まで伸びていて、すっごく可愛いです。自分のことを"妾"って言って、語尾に"のじゃ"って付けて話します。」
のじゃロリか。おk。把握。
「あとは……そうですね。オシャレな物が大好きです。可愛いお人形とか、ティーセットとか……。」
ふむ。
そうか……それだったら……
あれを……あれして……
……あ! それいいな!
え!? 何それ俺得なんだけど!?
「ふ……フフフ。」
「シャル殿! レティ殿の顔が! なんだか怖いでありますよ!」
「……ロロ、……だいじょぶ。……レティがあの顔するときは……いいこと思いついたとき。」
おっと。
悪だくみしてたらゲス顔になっていたようだ。
が! おかげでプランは出来上がった!
「モワ!」
「は、ひゃい!」
俺に呼ばれてモワがビクッと反応する。
「大事なことだ……答えてくれ。」
「な、なんでしょう……?」
俺はモワの目を、真剣な表情で真っ直ぐ見つめて、言った。
「お嬢さまの……ス リ ー サ イ ズ を教えてくれ!」




