第四話 寝起きのお勉強会
「魔族?」
エリノアの口から出た言葉を、俺は復唱する形で問いかける。
「はい。魔族ですわ。アナタの世界には魔族はいませんでしたの?」
「あぁ。言葉を話す生き物って言ったら人間しかいない世界だった。……あ、この世界って人間はいるの?」
この世界の"人間"が元の世界と同じかは分からんが、俺はそうエリノアに問う。
「えぇ。この世界で知性のある生き物は、人間と魔族の二種族ですわ。」
おぉ! 人間いるんだ!
「魔族は人間から派生した種族……人間には無い"力"を生まれつき備えた種族ですわ。」
なるほど。元は人間なのね。
「そしてその"力"ゆえに……人間と魔族は相容れず、長年、戦争状態でしたわ……。」
……まぁそうだよな。
人間同士だってちょっとした人種や宗教の違いで戦争するわけだし。
ん? しかし戦争状態"でした"ってことは……?
「今は戦争してないのか?」
「えぇ。数年前、魔族の最大勢力である"魔王軍"が破れ、戦争は終結しましたわ。」
おぉ。魔王さん負けちゃったんだ。
まぁ戦時中の世界じゃなくて良かったと思っておこう。
「そしてその魔王軍の首領、故"魔王"さまこそが……お嬢さまのお父上でした。」
「マジで!?」
なんてこった!
ラスボス父ちゃんかよ!
そんで父ちゃんお亡くなりになってたよ!!
「敗北したとはいえ、魔王さまの最期はそれはそれは誇り高く……いえ、この話はまたにしましょう。」
ホロリと涙を滲ませそうになったエリノアは、話の脱線を回避すべく、オホンと咳払いする。
「じゃあ何? 今の魔族って人間に支配とかされちゃってんの?」
魔族の領地が植民地になったりしてんのか?とか俺の浅い歴史知識で考えてみる。
「いえ。魔族内での自治権は認められていますし、別段生活に変化はありませんわ。」
おーぅ、平和的。人間さんGJ。
「ただ……まだまだ人間と魔族の確執は深く、あまり大っぴらに魔族を名乗れる世の中ではありませんわ。」
……まぁそうだよね。
戦争終わったから今日から仲良しおともだちー!なんて流石に無理だわ。
「なので、人間と共に生活するのであれば、"力"は極力使わないことですわ。"力"を使わない限りはまず魔族だと知られる心配もありません。外見的には人間も魔族も変わりませんもの。」
「"力"ってのを使うと外見が変化する、ってこと?」
「えぇ。もっともわたくしやお嬢さまは、魔族の中でも外見的な変化が少ない種族ですけど。種族によっては尻尾が生えたり体毛が濃くなったりしますわ。」
なるほど。まさに人外の"力"なわけだ。
「実際、わたくしたちもそうして魔族であることを隠し、人間の街で生活しておりますの。」
「ん? ここって人間の街なん?」
「えぇ。人間領の中でも魔族領に近い街、湖の街"アマツハム"ですわ。」
なんでわざわざ魔族であることを隠してまで人間の街で生活してんだろ?
親日家ならぬ新人間家なのか?
「とりあえずこんなところでしょうか? それとも、何か質問があります?」
エリノアはひとまず説明を切る。
魔族のこと、魔王のこと、"力"のこと、そして……俺や妹たちのこと。
まだまだ聞きたいことは山ほどある。
……が、寝起きで大量の情報を頭に入れたせいで、少し疲れが出た。
ついでに腹もへってる。
「……とりあえずだいじょぶ。サンキューな、エリノア。」
「いえ、どういたしまして。」
エリノアも説明に疲れたのだろう。ふぅ、と息を吐く。
「にしてもエリノアもお人好しだな。初対面でこんだけ親切に説明してくれて。」
"血の盟約"で従わせたのは最初だけ。
あとはエリノアが自主的に説明してくれたので助かった。
「拒否したところで 命令されれば同じことですし、それに……」
エリノアは微かに微笑んで、
「アナタがわたくしたちに危害を加えるつもりが無いのは、"魂の色"を見ればわかりますもの。嘘や隠し事のある方は、魂の色が濁って見えるんですわ。」
そう告げた。
なるほど。
歩く嘘発見器ってことね。
「その"魂を見る"ってのも、魔族の"力"なんだよな?」
「そうですわ。」
俺は目を凝らして、エリノアを見る。
だが、どうやら俺には"魂"は見えないみたいだ。
「それって俺には出来ないの?」
「アナタは……いえ、お嬢さまとわたくしでは"種族"が違いますので、出来ませんわね。」
ほう。
魔族の中にも"種族"があって、"種族"によって持てる"力"にも違いがあるってことか。
「ちなみに、エリノアは何の"種族"なの?」
俺の問いに、エリノアは「あ、言ってませんでしたっけ?」という顔をした後、少し悪戯っぽく笑って、ウィンクしながら告げた。
「魔族 悪魔種の……【サキュバス】ですわ♪」