第三十五話 匂いでわかるもん
ヤバい!
ヤバい! ヤバい! ヤバい!
ロロが居ない!?
つーことは……まさか!?
「~~~ッ!!」
「……! ……レティ!!」
街中に向かって再度走り出した俺を、シャルが後ろから呼び止める。
あぁ、俺だってこえーよ!
だが! ロロに何かあったら……!!
俺は先ほどライオンと遭遇した場所まで来た。
ライオンは……まだ居る! こちらを睨んでいる!
ロロは……いた!!
「……ってロロ!! なにやってんだ!!」
ロロはあろうことか、ライオンの目の前に突っ立っていた。
「あ、レティ殿……」
ロロが振り返り、俺に目を向ける。
と同時に、ライオンが鋭い爪を携えた前脚を振り上げた!
「ッ!! ロロぉーー!!」
俺はロロに庇うように飛びつき、ライオンに背を向けた。
ぐ~~!! あんな爪で抉られたらきっと痛いなんてレベルじゃねぇぞ!?
きっと一発で胴体まっぷたつだよちくしょう!!
でも! せめてロロだけは……!!
そう思いぎゅっと腕の中のロロを抱きしめる。
しかし……
(あ……あれ?)
いつまで経っても、背中が抉られたり身体がまっぷたつになったりはしなかった。
俺は恐る恐る振り向く。
と! そこへライオンの前脚が!!
「…………ほっ?」
ライオンの前脚は確かに振り下ろされた。
しかしその前脚は俺の身体を す り 抜 け て いた。
必死に何度も前脚を振るうライオン。
しかし全部すり抜ける。
……なんか逆に、必死なライオンが可愛く見えてきた。
「れ、レティどのぉ……。」
俺の腕の中、ぎゅっと抱きしめられたロロが顔を赤くしている。
「お、おぅ。悪ぃ。……じゃなくて! ケガはないのか!?」
強い力で抱きしめていたロロをぱっ、と解放する。
「……大丈夫であります!」
照れを隠すように敬礼してロロが言う。
「お嬢様ぁー!」
「……レティ!」
そこに、エリノアとシャルも合流した。
***
「これは……幻術ですの?」
エリノアがライオンの顔の前で手を振る。
ライオンはそれを払いのけるように前脚を振るうが……やはり前脚はエリノアをすり抜けた。
「そのようでありますな。」
ロロはわかっていたように平然と告げる。
「なんでわかったんだ?」
俺が問うと、ロロは少し誇らしげに、
「我々【ヘルハウンド】は鼻が利きますので! 最初にキマイラが出たとき、何の匂いもしなかったので妙だと思ったのであります。」
お、おぅ。そういうことね。
ロロの鼻はめっちゃイイ、と。
「しかしこれほど精巧な幻術ですと……冒険者の皆さんが逃げ帰ってくるのも納得ですわ。」
それな。
俺もめっちゃビビったもん。
これ相手に戦おうと思える奴は人間じゃねぇよ。
「幻術って……やっぱ魔族の"力"なんだよな?」
「えぇ。"霊種"の魔族が得意とする"力"ですわね。」
俺の確認に、エリノアが答える。
「……じゃあ、……この幻術を作ったひとが、……近くにいるね。」
シャルが呟く。
そう。
ライオンは明らかに、こちらの動きを把握して動いていた。
それはつまり……
俺は右手を握り、ポン!と"拡声器"を出す。
そして大きく息を吸い、上空に向けて思いっきり叫んだ。
「あー!! どこから覗いてるか知りませんけどー!! 俺らも魔族なんですよー!! よかったら話聞かせてくれませんかねー!!」
無人の街に、俺の大声が響いた。
――数秒の静寂。
その後に、街の奥の建物の影から、ひとつの人影が通りに顔を出した。
お読み頂き、ありがとうございます♪
あ、サブタイトル前に話数追記しました。




