章末閑話:もしも願いが叶うなら
第三章完結のロロ視点の閑話です。
ちょい短め。
まぁこの子の胸の内はだいたい本編で書いたからね。
ストーリーは進まないので読み飛ばして頂いてもだいじょぶです。
自分はロロ。
ロロ=フォン・リンネであります!
いやはや。人生というのは驚きの連続でありますな!
特にここ最近は目が回るほどにいろいろな事がありまして……
今日はその一部をご報告するであります!
***
まず……事の始まりはある日の夜。
オーハマ・ヨークの街外れにひっそりとある我が家の扉が、突然蹴り破られたのであります!
普段はおっちょこちょいの自分でありますが、その時は意外にも冷静だったであります。
扉を蹴り破る……普通のお客では有り得ませぬ。
恐らく我々にとって、"招かざる客"でありましょう。
「シェーン、ヘンリー、チェスター、ルイス。しばらく押し入れに隠れてて欲しいであります。絶対に、声を出してはダメでありますよ?」
弟たちにそう言い聞かせて、自分は"来客"を迎えたであります。
来客は……知っている男でありました。
最近街で噂になっていた赤髪赤髭の魔法使い。
山賊"マシューファミリー"のリーダー"マシュー"でありました。
マシューは土足で我が家に押し入ったのであります。
「……"山賊"さんが何の御用でありますか?見ての通り、我が家に金目の物は無いでありますよ?」
自分は、胸から湧き上がる恐怖を、噛み殺すように押さえつけたであります。
弟たちを守る。今はそれさえ出来ればいい。
マシューは自分を睨みつけるように見下ろしたであります。
「……この家に"魔族のガキ"が居るって聞いたんだが……テメェか?」
はて? どこでバレたのでありましょう?
この街でボロを出した覚えは無いのでありますが……。
あ。そういえば昨日の夕方、弟たちが帰ってきたとき何やら慌てていたような……。
もしかして外で遊んでいて、"魔族化"してしまったのでありましょうか?
"魔族化"……。
魔族の"力"を使ったり、生命の危機や感情の昂ぶりによって起こる"身体の変化"。
弟たち……【アルミラージ】の魔族化は、額にツノが生えるという分かりやすいものであります。
どこかで目撃されて、この家に入っていったと噂になったのでありましょう。
ならば……もうこれしか手は無いでありますな。
「……ご明察。自分がその"魔族"でありあすよ。抵抗はしませんので、痛いのは勘弁して欲しいであります。」
自分は両手を上げて"降参"の意を伝えたであります。
弟たちを守るためには……もうこれしか方法は無さそうでありましたが故……。
「……魔族には"勇敢な馬鹿"が多いって聞いてたが……テメェは"賢い腑抜け"だ。」
マシューは拍子抜けしたように呟いたであります。
……何とでも言えばいいであります。
自分はそのまま頭からすっぽりと大きな麻袋を被せられ、物のように山賊のアジトまで運ばれたであります。
***
「お頭ァ。あの娘、どうするんで?」
アジトに運ばれた自分は、手足を縛られ、空き部屋に転がされたであります。
空き部屋の扉の外から聞こえる山賊たちの声が、自然と耳に入ってきました。
「……あぁ。今"見積もり"中だ。若い女の魔族っつーと、どこに売るのが一番値が付くか分からん。奴隷市場か、娼館か、見世物小屋か……。決まるまでキズは付けんじゃねーぞ。値が下がる。」
残酷な未来の選択肢を並べられて、それでも涙は出なかったであります。
ただ……街に残してきた弟たちが、これから生きていけるかどうかだけが心配で……。
暗い天井を見つめて祈ったであります。
どうか……どうかあの子たちの前に、"どなたか優しい方"が現れて、助けてくれますように、と。
……その一日後。
自分の"願い"が天に通じていたことを、自分は知ることになるのであります。
その方は、とても勇敢で、とても強く、そしてとても……優しい方でありました。
父が、魔王さまに命を掛けてお仕えしていた気持ちが、今の自分になら分かるであります。
自分も、この方のお傍に仕えたい!
自分と弟たちを救ってくれたこの方に、一生を通じて恩返しがしたい!
神様……何度も祈ってすみませんであります。
でももうひとつだけ、もうひとつだけ願いを叶えて下さるのなら……!
どうかこの方のお役に立てるような、そんな生き方をさせて欲しいであります。
それがきっと、自分の"幸せ"でありましょうから。




