第三十三話 かくれんぼのお誘い
――翌朝。
朝食を食べ終えた頃、アーレイが宿を訪ねてきた。
……朝早くからご苦労なこって。
アーレイに連れられ、俺とエリノアは酒場兼冒険者ギルドの二階、"ギルド長室"へと案内される。
"王国軍 南方防衛部隊長" 兼 "オーハマ・ヨーク冒険者ギルドのギルド長"と名乗ったのは嘘ではないらしい。
「さて、山賊討伐の件について、まずはギルド長として礼を伝えねばな。ありがとう。」
そう行ってアーレイは頭を下げた。
「……どうやって討伐したかとか、聞きませんの?」
エリノアがアーレイに問う。
一応、エリノアとは口裏合わせの"嘘報告"を用意しといたんだが……。
「なぁに。冒険者の隠し玉は詮索しないのがギルドのルールだ。」
そう言って顔を上げながら俺にウィンクする。
……有難いけど、オッサンのウィンクなんぞ欲しくないな。
幼女ならウェルカムだが。
「これは、この街の憲兵からの褒章だ。」
アーレイは机の上にドン! と布袋を置く。
袋の紐を解くと……中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。
この世界の貨幣価値はまだピンと来ないが、エリノアの驚きっぷりから大金だということがわかった。
「よ、よろしいんですの?」
「なぁに。A級冒険者を他支部から呼んでいたら、この三倍は必要だったからな。遠慮することはないさ。」
アーレイは笑って言う。
「そしてこれは、"冒険者ギルド"からだ。」
そう言って今度はコト、と机の上に金属製のピンバッジを置く。
「"Bランク"冒険者を示すものだ。受け取ってくれ。」
え? いきなりB?
「いくら山賊を討伐したからって、一発でBランクなのか?」
俺の問いに、アーレイは大きく笑って、
「フハハハハ! 登録初日に、それもたった半日で山賊を壊滅させたスーパールーキーだぞ? しかもその山賊のリーダーは魔法使いだ! そんな有能冒険者を低ランクで放っておくほど、冒険者ギルドは人材に溢れていないんでね。」
そう告げた。
「さて、ここからが本題なんだが……」
姿勢を正してそう話を切り出したアーレイの態度に、俺は身構える。
そうだよな。ただ褒章やバッジを渡すだけなら受付のおねーさんでいい。
"ギルド長"が直々に来たってことは……やっぱなんかあるんだよな。
「キミ達を有能な冒険者と見込んで、お願いしたい依頼がある。」
ほらきた。
「ここ、"オーハマ・ヨーク"は交易の街と呼ばれているのは知っているかな?」
「えぇ。港町だから物流が盛んだと……」
「そう。そして港から入ったものの行き先として最も多いのが……王都"キング・ヤード"だ。」
"王都"か。人がいっぱいいそうだな。
「王都はここから北に位置している。真っ直ぐ進めば、馬車で二日ほどの距離だ。」
だが、とアーレイは少し苦い顔をして、アゴ髭を撫でながら言う。
「ここ半年程は、王都まで"五日"掛けて輸送している。」
ふむ? それってつまり……
「真っ直ぐ進めば二日……つまり、"真っ直ぐ進めない"理由が出来てしまった、と?」
「その通りだ。」
俺の言葉を、アーレイが肯定する。
「"オーハマ・ヨーク"と"王都"の中間に、"イナガウ・アッシュ"という街がある。以前は王都へ向かう旅人や商人の宿、それに貨物の中継地点として栄えた街だったのだが……現在は"無人の街"となっている。その為、物資の輸送は大幅に遠回りをせざるを得ないという状況だ。陸運を生業とする者にとっては頭の痛い問題だよ。」
「無人の街?……なんで?」
魔族領からはかなり離れてるし、戦争のせいってわけでも無いよな?
……大きな災害でもあったのか?
「実は"イナガウ・アッシュ"に……モンスターの群れが棲み付いてしまったんだ。」
「マジで!?」
モンスターの群れに棲み付かれた街……そんな事あるのか。異世界こえー……。
「何度か冒険者を派遣し討伐を依頼したのだが……余りにもモンスターの数が多く、皆逃げ帰ってきてしまった。」
お、おぅ。まぁ街を占領するレベルの群れだもんな。
「本来なら王国軍を動かすべき事態なのだが……戦後の復興に兵の多くを割いている現状では後回しにされてしまっていてな。それに魔族側の一部に、魔族復権を目的とした集団の動きがあるとの噂もある。兵に損耗を出すような事態は避けたいのだそうだ。」
あ、それ知ってる奴らです。
「で、俺らにモンスターの討伐を依頼したいと?」
無茶振り過ぎんだろ。
「ハハハ。いや、そこまでは頼めんよ。君たちに頼みたいのは、あくまで"偵察"だ。現状、モンスターの群れが"イナガウ・アッシュ"から外に出たという報告は無い。だがもし王都や近隣の街にも被害が及ぶようであれば、早急に避難を指示せねばならん。」
モンスターの種類や数、街での生態調査が依頼だという。
さて……どうすっかな?
「一応聞くけど……こっちに拒否権はあんだよな?」
「……冒険者ギルドはあくまで冒険者に依頼を紹介する機関だ。強制力は無いよ。」
アーレイはアゴ髭を撫でながら言う。
無理強いはしない、と。
正直、冒険者になったのは冒険者ギルドの持つ"情報"が目当てだ。
Bランクになった今、特に冒険者ギルドに協力する理由も無い。
それにこちとら、身体に【煉獄】っつー爆弾抱えた身だ。
危険は極力避けるべき。
……うん、断ろう。
俺はほぼお断りする決意を固めた上で、一応アーレイに聞いてみる。
「街のモンスターについて、わかってる情報って全然無いのか?」
超安全そうなら行ってもいいけど……まぁ超安全だったら冒険者も逃げ帰って来ないよな。
「何組かの冒険者が逃げ帰ってきているのだが……不思議な事に、見た者によって証言が違うのだよ。巨大な蛇を見ただの、無数の狼を見ただの、ドラゴンを見ただの……。変わったところだと、"少女を見た"と報告してきた者もいたな。モンスターの群れの棲む街に少女が居たら、それこそモンスターだと笑われていたよ。」
「……!?」
……なん……だと!?
俺はエリノアと顔を見合わせる。
それ……魔族の"娘さん"じゃね?
「それで、どうかね? 強制は出来ないが……」
アーレイが問いかける。
……まぁ他に手がかりも無いし、確認する価値はあるだろう。
危なそうだったら俺らも逃げ帰ればいいしな!
「んじゃ、お受けします。」
「本当か!? おぉ! ありがとう! 助かるよ!」
アーレイに感謝されながら、俺らは冒険者ギルドを後にした。
さぁて、娘さんに会えるかな?
お読み頂きありがとうございます♪
今回の投稿で第三章完結となります。
そして……今日で連載開始からちょうどひと月です! 早っ!
明日は毎度お馴染みの章末閑話を上げて、明後日から第四章入ります!
あ、一応報告ですが、
投稿済み分にちょっと修正を加えました。
といっても改行とか誤字の修正程度ですので読み直しは必要ないかと。
それでは今後とも、本作を宜しくお願い致します♪




