第三十話 告白はお月様の下で
逃がした山賊を返り討ちにしたシャルと合流した後……
俺たちはようやく荷馬車に乗ることが出来た。
リーダーのマシューは、あの後クリープに殴られて再度気絶させられていた。
ざまぁ。
さすがにもう大丈夫だろうとは思ったが、せっかくアドバイスを貰ったので
両手はチェーンでぐるぐる巻きにしてやった。
オーハマ・ヨークの街に着いたのは、日付が変わる直前だった。
憲兵の詰め所に山賊どもを捉えた報告をすると、驚かれたと同時にすっげぇ感謝された。
なんでも、この街の憲兵や冒険者だけでは到底対処できない連中だったらしく、他の街からAランク冒険者を高額で雇っての討伐作戦を検討中だったとのことだ。
上に報告した後に、改めて感謝させて頂きたいとの申し出だったので、冒険者登録しているエリノアの名前を伝えた。
……まぁ本人はまだ酔い潰れちゃってますけどね。
***
「うぅん……ハッ! ここはどこですの!?」
レンタルしていた荷馬車を返した後、
クリープに背負われたエリノアがようやく目を覚ました。
「おー酔っ払い。もう全部片付いたぞー。」
俺は"スポーツドリンク"を出してエリノアに渡しながら言う。
「皆さん、ケガはしてませんのね。よかったですわ。うぅ……。まだお酒が残ってますわぁ……。」
すっかり慣れた手付きでペットボトルのフタを空け、ドリンクを飲む。
「あぁ。俺もシャルもクリープも無事だ。で、こっちが助けたロロだ。腹ペコだったけど、ロロもケガは無かったぞ。」
「ロロであります! エリノア殿、この度はありがとうであります!」
「あらこれはご丁寧に……」
エリノアがロロに目線を向けた瞬間、
「ブフーーーッ!!?」
と、飲みかけていたスポーツドリンクを噴出した。
ちょ! きたねぇ!
「な、なに? どうしたのエリノア?」
可愛い幼女が増えてて感激したのか?
まぁ気持ちはわからんでもないが……。
ゲホッゲホッ、とむせるエリノア。
ちなみに噴出したドリンクは背負っていたクリープに直撃していた。
……クリープ、もうちょい嫌な顔しとけ。
なに『我々の業界ではご褒美っス!』みたいな顔してんだ。
「お、お嬢さま!? まさか、ご存じでしたの!?」
「……? 何が?」
驚きの表情のエリノア。
「その……ロロさん、"魔族"ですわよ?」
……え? えぇぇ!!?
「え!? ……ロロ!? マジで!?」
俺はロロを見る。
ロロはびっくりした表情だったが、観念したように目を伏せると、
「……あはは。バレてしまいましたな。エリノア殿の仰る通り、自分は"獣種"の魔族であります。」
少し寂しそうにそう言って立ち止まった。
「おそらく山賊に攫われたのも、"魔族"だとバレたからでありましょう。隠していて申し訳ないであります。騙すつもりは無かったのですが。でも……」
ロロは泣きそうな顔で呟く。
「でも……もう少しだけ、レティ殿やシャル殿と、"友だち"で居たかったんであります。」
"魔族"だと知られれば、友だちでは居られないと思ったのだろう。
「……あー、ロロ? すげー言いづらいんだけど、」
俺の言葉に、ロロは「?」と顔を上げる。
「俺のフルネーム、覚えてる?」
「レティ殿の? ……確か、レティーナ=ランドルト……ランドルト!?」
ロロはようやく、その答えに気づいたらしい。
「その……俺らも"魔族"なんだ。」
「……え? ……えぇえぇえええ!!?」
月下にロロの驚きの声が響いた。
「まさか!? 魔王さま……ランドルト王のご息女さまでありますか!?」
「お、おぅ。……で、シャルが」
「……ふるねーむ。……シャルピー=ロックウェル。」
「ふぉお!? 【オリハルコンゴーレム】のロックウェルさま!? その娘さんでありますか!?」
シャルがこくんと頷く。
急な展開に、ロロは混乱しているようだった。
頭を抱えて呻いている。状況の理解が追いつかないようだ。
しばらくあたふたした後……。
考えがまとまったのか、ロロは意思を宿した目を俺に向ける。
そして……俺の前に片膝を着いて頭を下げた。
え? 何これ?
「レティーナ=ランドルトさま。これまでのご無礼をお許し頂きたいであります。自分は、先代魔王軍幹部、【キングベヒーモス】のディエゴ=フォン・リンネが娘、【ヘルハウンド】のロロ=フォン・リンネであります。」
お、おぅ。父ちゃん【キングベヒーモス】とかパネェな……。
「魔王さまより父が受けたご恩は、父が戦で散ることで果たさせて頂きました。自分がレティーナさまから受けたご恩は、レティーナさまへと返させて頂きたいであります。先代と変わらぬ忠誠を、自分もレティーナさまに誓うであります。どうぞこの命が尽きるまで、如何様にもお使い下さい。」
ロロは深々と頭を下げる。
……あれ? これ俺が何か言わなきゃいけない流れか?
「あー……ロロ=フォン・リンネよ。」
「はっ!」
ロロが力強く返事を返す。
「その……そなたの忠誠を信じ、レティーナ=ランドルトが命じる。」
「はっ! なんなりと!」
ロロは顔を上げ、真剣な眼差しを向ける。
幼い瞳に宿った意思は、本当に命だって投げ出す覚悟を伺わせた。
俺は跪いたロロと同じ目線にしゃがんで、頭に手を置き、
「改めて俺とシャルの……友だちになってくれ。」
そう微笑んで告げた。
真剣な表情だったロロは、その言葉を聞いた途端、先ほどまでの作っていた固い表情を保てなくなり、顔を赤く染めてくしゃくしゃの泣き顔になった。
「レティーナさまぁ……。」
「レティーナさまじゃねぇよ。"レティ殿"……だろ?」
「レティどのぉ……!!!」
月明りの下、ロロは俺に抱き着いてワンワン泣いた。
幼女の泣き顔は好きじゃない俺だが……
うん、これは嬉し泣きだからノーカウントにしとこう。




