第二十九話 アナタのとなりにいたいから
俺は縛り上げた山賊たちを街まで運ぶべく、コテージの外に運び出していた。
ここまで積み荷を運んできたゴムタイヤ付きの荷車がまた役に立つな。
あ、ちなみにエリノアの使ってた"電動キャリア"な。
元の世界で田舎のばーちゃんちにあったモンなんだが……あれだけは重すぎて"本体"と"バッテリー"に分けて出した。
それでもギリギリだったが……。
「お疲れさまっス。荷馬車で待ってるお嬢の為にも、さっさと戻りましょう!」
二階から、まだ眠ったままのエリノアを背負って降りてきたクリープが言う。
「あー、大分待たせちまったからなー。」
シャルには後でご褒美に甘いものでも出してやろっかな。
「お嬢……というのはお連れの方でありますか?」
ロロが問う。
「はいっス。ロロさんと同じくらいの歳の女の子っス! お嬢、友達が少ないんで、良かったら仲良くしてあげて欲しいっス!」
クリープが答える。
と、その言葉を聞いた途端、気絶していたハズの山賊のリーダー、マシューがガバッ!と跳ね起きる。
コイツ!?
狸寝入りしてやがったのか!!
「があああああぁぁ!!」
マシューは耐熱チェーンで縛られた身体を捩り、手の平から小さい炎弾を飛ばす。
悪あがきか!? と一瞬思ったが、炎弾はあろうことか味方の山賊に着弾する。
「あぢィっ!!」
「ジャーディン!! 走れ!! コイツらの荷馬車に仲間がいる!! ソイツを人質にしろ!!」
着弾した炎弾は、部下の山賊を拘束していた縄を焼き切っていた。
マズい!!
ジャーディンと呼ばれた部下は、マシューの怒声に反射的に走り出していた。
くッ!!
俺は咄嗟に、右手を握って"スリングショット(パチンコ)"を出す。
すぐにゴムを引き、逃げた山賊の背に向けて鉛玉を放つ。
……が、生い茂る木々や枝葉に邪魔され、足を止めさせることは出来なかった。
クソッ!!
追おうにも幼女の身体で大人の全力疾走に敵うワケが無い!
「ククク……テメェ、魔法使いとやり合うのは初めてだろ? 魔法使いを縛るんなら、手の平まで封じなきゃ意味ねェんだよォ!!」
マシューは邪悪な顔で勝ち誇る。
なんとか……せめてシャルに危機を知らせないと!!
俺は頭をフル回転させて思考する。
……そうだ!!
「クリープ!」
「なんスか!? すぐ追わないと!!」
背にエリノアを担いでいた為、追うのが遅れたクリープが振り返る。
「念話だ! ロックウェルに念話で伝えろ!!」
「!! ……承知っス!!」
俺の考えを汲み取ったクリープは、すぐさまロックウェルに念話を送る。
「ロックウェル様! 起きてますか!」
『……なんじゃ? ……儂は今眠いんじゃ……後に……』
「お嬢が危ないんス! 起きてください!」
『ふがッ!? なんじゃと!? どういう事じゃ!?』
「取り逃がした山賊が一人、そっちに向かったっス! すぐにそこを離れるよう、お嬢にお伝えくださいっス!!」
『なんと!! わかった!! すぐ伝える!!』
頼む! 間に合え……!
***
「シャル!! クリープから念話が入った!! ここに山賊の残党が一人来るぞ! 逃げるんじゃ!!」
焦り告げる木箱に、しかしシャルは動じていなかった。
「……わかった。……だいじょぶ。」
「大丈夫じゃと!? 何を言っとるんじゃ!! 逃げるんじゃ!!」
混乱する木箱に、しかしやはり動じずにシャルは告げる。
「……ここで一人逃がしちゃったら、……後でレティが狙われるかもしれない。……それはダメ。……だから、……やっつける。」
その言葉に絶句し、さらに説得を続けようとする木箱だったが、しかしその時には既に茂みを駆ける山賊の足音がすぐそこまで迫っていた。
「……だいじょぶ。」
シャルは足音の迫る茂みを真っ直ぐ見つめる。
そして遂に、茂みを裂いて山賊が飛び出してきた。
「おらぁああああ!! おとなしく……!!」
少女に飛び掛かった山賊は、しかしその両腕が少女を捕らえることは無かった。
少女の眼前、その地面が 突 然 隆 起 し、壁になったのだ。
ゴン! と鈍い音が響く。
全力で飛び掛かった山賊は、その勢いのままに土壁に顔面を叩きつけ、目を回して倒れた。
***
「シャル!」
マシューをクリープに任せて山賊の後を追った俺が見たのは、気絶した山賊と、シャルの前に現れた土壁だった。
「ケガはないか!?」
「……ん。……だいじょぶ。」
シャルは平然としていた。
「……これ、シャルがやったのか?」
そそり立つ土壁に触れながら、俺は問う。
あ、結構固い。
「シャルの"力"じゃ。小範囲の大地の形状を変化させることが出来る。……但し、大地に魔力を浸透させるのに小一時間掛かるがの。」
シャルの代わりに、木箱が答える。
え? 小一時間?
じゃあ念話送ってからじゃ間に合わないはずだぞ?
「……レティが、……『荷馬車を頼む』って言ったから、……待ってる間、……なにがあってもいいように、……準備してたの。」
シャルが静かに告げる。
使うかどうかもわからない仕掛けを、小一時間も掛けて……。
それも"俺に頼まれたから"って……この子マジで健気なんですけど。
「そっか。ありがとな。でも……」
俺はシャルを抱きしめながら、
「これからは危ないと思ったら逃げるんだぞ?」
そう言って、自分のおでこをコツンと、シャルのおでこに当てた。
「……うん。……ごめんなさい。」
シャルは頬を赤らめながら、こくりと頷いた。
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というワケでまた閑話書きました! 別館に置いときます。
ストーリーを純粋に楽しみたい方はお気になさらず♪
それでは今後ともよろしくお願いします♪




