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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
第三章 へるはうんど
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第二十八話 お姉ちゃんへのごほうび

 赤髪赤髭の男…山賊の頭であるマシューは、コテージの出口を背にして立つ。

 その足元には、マシューの部下たる山賊どもが手足を縛られた状態で横たわっている。


「テメェ……よくも俺のファミリーに上等かましてくれたなァ……。」


「テメェらこそ、よくも俺の知り合いの姉さんを攫ってくれたなァ。」


 俺は啖呵を正面から受けつつ、言葉を返す。

 ……まぁ知り合ったのは攫われた後なんですけどね。


 激昂していたマシューは、俺の怯まない様子に一瞬冷静になったように見えた。


「とりあえず……」


 マシューは両手を肩の高さに上げ、指を蓮華の花のように開かせると、


「全身火傷してからほざきやがれェッ!!」


 その両手から激しい炎を上げながら、獣のように突進してきた。


 ……と、ここまではオール予定通り。

 俺は右手をグッと握り、出現させた"それ"を、マシューに向けて放った。


――ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!


「ぐっ……なっ……!?」


 突如、視界を覆った白煙に、マシューは驚愕して足を止める。

 ……いや、白煙なんて生易しいものじゃない。

 俺の手元から噴出した"それ"は、マシューの突進を押し止めるほどの勢いを有した"リン酸二水素アンモニウム"。

 ……詰まる所、"消火剤"だ。

 それは視界を覆うだけに留まらず、マシューの両手に宿った激しい炎すら鎮火させた。


「ゲホッ……! ゲホッ……! 糞ッ! 糞野郎……ッ!!」


 顔面にもモロに消火剤の粉末を受けたのだろう。

 咳込みながら怒るマシューは、しかし噴霧された消火剤によって、俺の姿を視認出来ない。


 しかし姿が見えないのはお互い様だ。


 マシューの炎魔法は、至近距離で受ければ鉄をも溶かす威力がある……とかギルドの受付のお姉さんが言ってたっけ。


 俺が下手に攻撃を仕掛けて空振れば、カウンターで幼女の身体は即大火傷だ。


 ……だからこーする。


『いやー! やっぱ"消火器"って便利だなー! 火も消せるし、視界も奪えるし! それに……』


「そこかァアア!!!」


 白煙の中から聞こえた俺の声に反応し、マシューは再度、炎魔法を展開する。

 今度は先程よりさらに威力を高めた、まさに一撃必殺の炎の槍だ。


 その業炎をモロに受け、声の主は無残な燃えカスとなった。


 声の主……"ICレコーダー"がな。


「なッ……!?」


 自らの炎が捉えた相手を確認し驚愕するマシューの背後から、俺はホース部分を掴んだ消火器を、モーニングスターの如く思いっきり振り下ろす。


――ゴガンッ!


「グハァッ!!」


 硬い衝撃を頭に受けたマシューは、その場に崩れ落ちる。


「それに……鈍器にもなるしな。」


 律儀に故"ICレコーダー"さんの言葉の続きを告げた俺は、倒れたマシューの身体を"耐熱チェーン"で縛り上げながら、視界が晴れるのを待った。


 いやー、中学の課外授業で製鉄所見学に行っといてホント良かったわ。


***


 視界が晴れたコテージでは、床に転がる山賊たちに消火剤が降り積っていた。

 一面真っ白。わー、雪みたーい♪


「レティさーん! 大丈夫っスかー!?」


 避難していたクリープが、二階のバルコニーから手を振る。

 背中にはエリノアを背負っていた。

 うん、二人とも無事だな。


「おー。片付いたぞー。」


 俺は手を振り返す。


「レティ殿ぉー!!」


 隠れていたロロが俺に駆け寄り、抱き着く。

 ちょ、いきなりのハグはやめて! ドキドキしちゃうから!


「お怪我は!? お怪我は無いでありますか!?」


「あぁ。傷ひとつ無ぇよ。」


 無傷で勝てたのはラッキーだった。

 まぁお嬢さまの身体に火傷なんて付けたらエリノアが号泣するからな。


「自分なんかの為に……こんな危険なことを……!」


 ロロは大きな瞳から、ぽろぽろと涙を流す。

 俺は先ほどと同じく、ロロの頭に手をやり、くしゃくしゃと撫でる。


「……"自分なんか"なんて言うなよ。そんな事言ったら、俺にも、ロロを必死で助けようとした弟くんたちにも失礼だぞ。ロロが"いいお姉ちゃん"だったから、みんな必死で助けようとした。そんだけだ。」


 顔を上げたロロは、俺の服に付いた消火剤で鼻頭を白くしていた。

 ……まぁそれが無くても、涙と鼻水でくしゃくしゃだったが。


 俺は右手で出した"タオル"でロロの顔を拭う。

 ロロはタオルに顔を埋めたまま、しばらく顔を上げなかったが、


「ほんとに……ほんとに、ありがとうであります……!」


 涙声で言ったその言葉に、俺はもう一度頭を撫でてやった。

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