第二十七話 まずはご飯を食べてから
暗い部屋の中、ロープで縛られ、猿轡をされた少女に俺は近づく。
深緑色のミディアムヘアで、ちょっと癖っ毛の少女だ。
目立った外傷は無いが、だいぶ疲れているようでグッタリしている。
「もう大丈夫だからな。俺は味方だ。ここの山賊は全員縛り上げといた。」
まずは安心させてやろうとそう告げながら、
俺は少女を拘束するロープと猿轡を外す。
「……ぅう……ください……。」
「? なんだって?」
掠れるような声で何かを訴える少女。
俺は少女の口元に耳を寄せる。
「……ごはんを……ください。……おなかが空いて……死にそうであります。」
お、おぅ……。
腹減ってんのかい。
俺は少し考えた後、消化の良いものがいいだろうと"たまご粥"を出す。
ぐったりしていた少女は、たまご粥が現れた瞬間、鼻をヒクッとさせる。
俺は匙にすくった粥を何度かフーフーしてやった後、彼女の口元に持っていく。
「ほら、あーん。」
「あーん。」
素直にもぐもぐと食べる。
あー、なんか動物的な可愛さがあるなこの子。
そうして何度か粥を食べさせた。
お椀が空になる頃には、少女はだいぶ元気になっていた。
最後の一口を飲みこんだ少女は、俺に向き直り、土下座した。
「どなたかは存じませんが、助かったであります! このご恩は一生忘れません! あと、ごちそうさまでした! とても美味しかったであります!」
おう。ちゃんとお礼の言えるいい子だ。
こうして元気になった顔を見ると、紺色の瞳がくりっと大きくて可愛い。
「礼は街で待ってる弟くんたちに言ってやれ。アネキを助けてくださいー!って必死だったんだからな。」
「そう……でありましたか。あの子たちが……」
少女は申し訳無いような、嬉しいような、なんとも言えない表情を見せる。
「あの子たちの父上が亡くなったとき、自分が守ってあげなきゃ、って思ったんでありますが……逆に助けられてしまうなんて……いやはや、お恥ずかしい話であります。」
少女は目を伏せる。
……ったく。どいつもこいつも。
俺は少女の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でる。
「バッカ。いいんだよそれで。弟くん達は姉ちゃんが優しくしてくれたコトに感謝してっから助けようと必死だったんだろ? 恥じるくらいなら誇っとけ。ウチの子はみんなめちゃくちゃ良い子なんだぞー!って誇っとけばいいんだよ。」
俺の言葉に、少しは気が楽になったのか、少女は明るい表情を見せる。
「そうでありますな! ありがとうであります!」
うん。いい笑顔だ。
「それより、さっさとココから出ようぜ。えっと……名前教えてくれるか?」
「そうでありますな! 自分はロロ=フォン・リンネであります!ロロとお呼びください!」
「俺はレティ。レティーナ=ランドルトだ。」
「レティ殿でありますな! ……はて? ランドルト? どこかで……」
あ、やっべ! 魔王と同じ姓ってバレたらマズイのか!?
俺がどう誤魔化そうか焦っていると、部屋の外からクリープの悲鳴にも似た声が聞こてきた。
「レ、レ、レティさん! やば、やばいっス! 帰って来たっスよ!!」
俺はその言葉を聞き、ロロに部屋から出ないよう告げる。
「だ、大丈夫でありますか? 相手は魔法使いでありますよ?」
「らしいな。」
うん。ギルドのお姉さんからも聞いてる。
リーダーのマシューは、炎を操る魔法使いだと。
そしてエリノアが言うには、魔法は人間しか使えないらしい。
人間が、魔族の"力"に対抗する為に生み出した技術。
魔族の使う"呪術"と違い、直接的に"攻撃"を目的とした技術。
……魔族を殺す為の技術。
それが魔法だ、と。
「どこの糞野郎だゴラアァァァァァ!!!!!」
コテージに大声が響く。
おーおー。大変お怒りのようだ。
俺が部屋から出ると、入口からこちらを睨む男と目が会う。
赤髪赤髭……うん、コイツがマシューだ。
「テメェか……。」
床に転がってる中にエリノアは居ない。
クリープが背負ってどこかに隠れてくれたようだ。
さぁて。
んじゃ、魔法使いさんと対決といきますか。




