表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
第二章 みすりるごーれむ
24/126

章末閑話:いつかアナタのとなりで

 第二章完結。シャル視点の閑話です。

 鬱っぽいのはニガテなんですが、シャルのキャラクターを掘り下げる為に書きました。

 この子には幸せになって欲しい……。


 あ、ストーリーは進まないので読み飛ばして頂いてもだいじょぶです。

 わたしはシャル。

 シャルピー=ロックウェル。


 霊峰の街"アッシズオーク"の教会に従事するシスターで、魔族 物質種の【ミスリルゴーレム】で、そして……


 "捨てられた子"だ。


***


 一年前までは従者のクリープと一緒に暮らしていた。


 クリープはじじ様の従者だった人。

 じじ様が戦争で亡くなった後も、わたしのお世話をしてくれていた。


「ロックウェル様には生前、お世話になったっスからね! 当然スよ!」


 クリープはそう言ってくれてたけど、正直わたしは不安だった。


 幼いわたしは、何も出来ない。

 クリープにお給料も払えないし、役に立つ特技もない。

 いつか『おまえの面倒なんかみてられない』って、捨てられちゃうんじゃないか、って……。


***


 ある日、クリープは帰ってこなかった。

 夕方になっても、夜になっても……。


 わたしは夜中のアッシズオークの街を、クリープを探して走り周った。


 わたしの中にある小さな不安が、だんだんと大きな声となって私に告げる。


 捨てられた、捨てられた、捨てられた……。


 走り疲れた私は、夜中の街道に座りこんだ。

 心も身体も疲れ果てて、意識が朦朧としていた。


 手のひらを見ると、指の先が水晶のように変化していた。


 "魔族化"……。

 魔族の"力"を使ったり、生命の危機や感情の昂ぶりによって起こる"身体の変化"。


 あぁ……こんなところ"人間"に見られたら、捕まっちゃうな……。


「あー、君。こんな時間にどうしたんだね?」


 ビクッ!


 突然掛けられた声に、わたしは両手をさっ、と背中の後ろに隠す。

 声のした方を向くと、夜中の街道におじいさんが立っていた。


 見られて……ないよね?


「儂はこの先の教会で司祭をしておるバチェラーという者なんだが……もしかして"捨て子"かな?」


――ズキンッ


 バチェラーと名乗ったおじいさんの言葉に、わたしの胸が痛む。


「もしそうなら、儂のところへ来なさい。」


 おじいさんはそう言って、わたしを教会へと引き取った。


***


 それからは、司祭さまの元でシスターをしていた。

 ……いや、"シスター"なんて数ある仕事のうちのひとつでしかない。


 司祭さまがわたしに与える仕事は、シスター以外にもたくさんあった。

 清掃、配達、ゴミ処理……。

 それこそ、眠る暇もない程に……。


 それだけ働いても、わたしが貰えるお給料はほとんどない。

 正直に言えば辛かった。

 でも……仕事をしている時は、少しだけ気が楽だった。

 きちんと仕事をしている限り……『おまえなんか要らない』とは言われないハズだから……。


***


「おーい!」


 ある日、いつものように"仕事"をしていると、女の子がわたしに声を掛けてきた。

 ……誰だろう? この街の人ではないみたいだけど。


 仕事の休憩に入り話を聞く。

 彼女はレティ。

 どうやら魔族の……それも先代魔王さまの娘らしい。


 彼女が聞きたかったのは、"魔王の娘"について"特別な事情"を知らないか、ってことみたい。


「……確かに不自然。……でも、……心当たりはない。」


「ん。そうか。」


 わたしがクリープなら知ってるかもと言ったら会いたいと言われたが、わたしは無理だと答えた。


 ごめんね。

 わたしはやっぱり今回も、何の役にも立てなかったみたい。


「ん~。それならシャル。俺らと一緒に来ないか?」


「……?」


 レティはわたしを見て問う。

 事情が分かって安心できるまでは、一緒に居た方がいいと。


「俺らと来れば、とりあえず食うのに心配はいらないぞ?」


 レティは右手を握ると、手品みたいにパンを出してくれた。

 わたしにそれを手渡し、食べるよう促す。


「……! ……おいしい。」


 すごく……すごく美味しかった。

 そして……不思議だった。


 どうしてわたしなんかに、一緒に行こうって言ってくれるの?

 どうして優しくしてくれるの?

 わたしは役立たずなんだよ?


「……でもダメなの。……"司祭さま"の言いつけだから。……わたしは仕事しなくちゃ、……ダメなの。」


 ……わたしは逃げた。

 優しく差し伸べられた手を、取るのが怖くて……。

 それがいつか……離れていってしまうのが怖くて……。


 仲良くなってからの『サヨナラ』は……とっても"痛い"から……。

 それならわたしは……痛くない『サヨナラ』を選ぶ。


「……ありがとう。……すごく、……おいしかった。」


 そう言ってわたしはレティに背を向け、仕事に戻った。


 さよなら。きっともう会うことも無い、優しい子……。


***


「シャル。」


 二日後の朝。


 わたしが朝の新聞配達を終えた頃、聞き覚えのある声が、わたしの背に掛けられた。


 振り返ると……レティが居た。


 レティは驚くわたしの手を引き、裏路地に引っぱって行く。


「今から伝えることは、もしかしたらシャルにとってすごくショックなことかも知れない。でも聞いてくれ。」


 そう言って、レティは話してくれた。


 司祭さまが、わたしが魔族であることに気付いているコト。

 それを利用してお金を稼がせているコト。

 そのお金を、自分の為に使っているコト。


「……どうして?」


「そうだよな。あの司祭、どうしてこんなヒドイ事が出来んのか……」


「……そうじゃ、……ないの。」


「ん?」


 そう。


「どうして……わたしなんかに……ここまでしてくれるの?」


 少し考えただけでもわかる。

 これだけの証拠を集めるのに、どれだけ苦労してくれたか……。


「……わたし、……アナタに、……何もしてあげられないよ?」


 わたしの言葉に、レティはわたしを見る。

 そして少し考えてから、微笑んで告げる。


「笑ってくれりゃ、それでいい。」


「……え?」


「これでシャルがいつか、笑ってくれるならそれでいい。別に俺が見てる前じゃなくていい。シャルがいつか、辛かったコトを忘れて笑ってくれんだったら、報酬としちゃそれで十分だ。」


 !!


「……そんなコトの、……ために?」


「そんなコト? 幼女の笑顔は地球より重いんだぞ?」


 大真面目な顔でレティは告げる。


 わたしは泣きそうになるのを堪えるのに必死だった。

 本当に何なんだろう? この子は……。


 たぶんわたしはこのときもう、心に決めていたんだ。

 この子に……レティについて行こうと。


 このとびっきりお人好しで優しい女の子と、ずっとずっと一緒に居たいと。


 そしていつか……わたしの百点満点の笑顔を、すぐとなりで見せてあげようと。


 空っぽだったわたしの心の中に、火が灯ったような気がした。


 見ててね、レティ。

 きっとレティのとなりにいて恥にならない、立派な女の子になるからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ