第二十一話 親ばかばかばっか
「おぉ!知ってんのか!?」
木箱の言葉に、俺は歓声を上げる。
俺らを襲った魔族復権推進派……その襲撃の理由がようやく分かる!……のか?
「じゃがこの話を魔王軍幹部以外で知る者がおるとは考え難いのじゃが……」
木箱は悩ましそうな顔をしている。
魔王軍幹部……エリノアによれば先の戦争で魔王を含む全員が戦死してるらしい。
まぁ目の前に生き残りの木箱がいるわけだが……。
「とりあえず教えてくれよ! その心当たりってのを!」
「う、うぅむ。そうじゃな……。いや、しかし……。」
木箱は尚も言い淀む。
なんだ? そんなに言いづらいことなのか?
木箱はそこからしばらく悩んだ後、ようやく話し始めた。
「……あれは、魔王軍幹部のみの宴会の席じゃった。」
木箱は遠い目をしている。
「久しぶりに幹部全員が揃っての宴……酒は大いに進んだ。なにせ幹部全員に娘が出来たことを祝しての宴じゃったからな。皆、競うように娘自慢をしとった。」
マジか。
魔王軍幹部……親バカ率百パーセントかよ。
「ふと、誰かが言った。"若い頃は戦で名を上げる事こそ生きる意味だと思ったものだが、 娘が出来た今は、娘が健やかに育ってくれる事だけが望みの全てだ"と。……皆、その言葉に深く頷いた。」
まぁ……わからんでも無いか。
俺も可愛い妹の為なら何だってするつもりだ。
「別の誰かが言った。"戦争で明日の命も知れぬ身じゃが、娘だけは立派に成人させてやりたいものよ"と。」
そうだろうな。
「そしてまた別の誰かが言った。"魔王よ。もし娘が殺されるようなことがあれば、オレは戦争なんぞほっぽり出して、娘の仇を世界の果てまで追うぞ"と。」
お、おぅ。
まぁ極端な話だが、それくらい娘を愛してるって言いたいのね。
「魔王は言った。"もちろんだ。お前らが死んだ後にそうなったのなら、俺が代わりに仇を討つと約束しよう"と。」
魔王ェ……。うちのとーちゃんも同じくらい親バカだわコレ。
「そこで誰かが言った。"じゃあオレら全員戦死しちまったら、誰が仇を討つんだ?"と。」
ん? 話の方向性が……
「皆黙りこんだ。十分あり得る話じゃ。戦火に真っ先に曝されるのは魔王軍たるワシらに他ならぬ。
ワシら全員が死んで、それでも戦火が収まらねば……守る者の居ない娘らはどうなる? 己の死以上の恐怖を、ワシらはその時初めて知ったのじゃ。」
……。
「黙り込むワシらに、魔王はある提案をした。"ならば今、幹部全員の力を束ね、娘達に"呪"を授けようぞ。娘に手を出す輩には、地獄の業火をくれてやる。それならば皆、安心して逝けるだろう"と。」
え、えー……?
「その言葉に全員が同調した。すぐに娘らを連れてきて、魔王軍幹部全員の力を最大まで使って"呪"を施した。その"呪"の名は【煉獄】。娘らにもしものことがあった時、その周囲の全てを業火で焼き尽くすという呪いじゃ。」
そこまで喋って、木箱はふぅ、と息を吐いた。
「……以上じゃ。」
「以上じゃ。じゃねぇよオイィ!! 何してんの!? バカなの!? 魔王軍幹部全員バカなの!?」
「ば、バカとはなんじゃ! ワシらは娘の為を思って……!!」
木箱は食い下がるが、俺は心からの叫びを思い切りぶつける。
「バカか! 死んだ後の心配してんのもバカだし、やってる事もバカ極まりないわ! "娘の仇を討つ"? "安心して逝ける"? バッッッカじゃねぇの!? だったら……!」
そうだ。バカ過ぎる。
「だったらなんで、戦争なんてさっさと降伏して、娘の幸せの為に力使わねぇんだよ!!」
戦争で何が得られる?
領土? 金? 魔族の矜持?
そんなモン幾ら積んだって、可愛い娘と釣り合う訳ねぇだろーが。
俺なら逃げる!
仮に敵前逃亡だ裏切者だと言われても!
それで娘が笑えるんなら、それこそ世界の果てまでだって逃げ切ってやる!
俺の言葉に木箱は何も言い返さない。
が、代わりにエリノアが答える。
「お嬢さま、人間との戦争は、本当に長い間続いていましたの。それこそ、何代も、何代も前から……。魔王様やロックウェル様が、ご自分達の意思でいくら拒んだところで、止められない状況だったんだと思いますわ……。」
エリノアの言葉に、俺も沈黙する。
まぁそうなのかもしれんが……。
「……ちなみに、その【煉獄】ってのは、俺やシャルが"死んだら"発動するんだよな?」
「……そうじゃ。正確には"成人を迎える前に死んだ場合"じゃな。」
爆弾抱えてんのと同じか。
しかし、これでいろいろ辻褄が合ってくる。
「魔族復権推進派の奴らが狙ってんのは、その【煉獄】ってことか……。雑な計画でも俺らを早急に確保したかったのは、俺らが何かの間違いで死んじまったら【煉獄】が発動しちまうからか……。」
そんな簡単に死んだら困るがな。
……ん?
……あれ?
俺は部屋の隅のクリープに問う。
「なぁクリープ、ロックウェルが人間の軍勢に囲まれた時にした"自爆"って凄い威力だったって言ったよな?」
「そうっス。周囲数百メートルは吹き飛んだっス。」
俺は次に木箱に問う。
「ロックウェル様よ。【煉獄】って、魔王軍幹部全員の力を最大まで使って施したって言ったよな?」
「そうじゃな。」
俺は嫌な予感を感じて続けて問う。
「なぁ、その【煉獄】って……どんくらいの威力になんの?」
「そうじゃな。ワシにもはっきりとはわからんが込めた魔力の感覚からして、おそらく……」
ごくり。
「……大陸の半分が焦土と化すくらいかの。」
「マジかぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」
悲報。
魔王軍幹部……やっぱりバカだったわ。




