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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
第二章 みすりるごーれむ
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第十九話 探し物はどこですか?

「お嬢!すんませんっした!!」


 クリープと呼ばれた男を連れ、俺たちは連泊している宿へと戻っていた。

 アイリスとコロネはメロンパン販売で疲れたようで、宿に着くなり眠ってしまった。


 部屋に入り大きな荷物を下ろすと、クリープは開口一番シャルに謝罪し、全力で土下座した。

 おぉ。この世界に来て初めて見る土下座。

 つかこの世界にも土下座あんのね。


「従者でありながらお嬢を置いて一年も……ホント、申し訳ありませんっした!!」


 クリープは尚も謝罪を繰り返す。

 あ、ちなみに俺らが魔族だってことは、宿に来るまでに話してある。


 ……と、そこへエリノアがポットとティーカップを運んでくる。

 そうそう。お茶でも飲んで落ち着いて話を……


「ホ ン ト ! どういう神経してらっしゃるんでしょうねぇ!! 従者が主人を置いて遠出なんて! しかもこんなに! こんなに幼くて可愛いシャルさんを一人で置いていくなんて!! わたくしだったら絶対に致しません!! まったく! 魔族の風上にも置けませんわ!!」


 エリノアがティーカップを握りつぶす勢いでクリープを責める。

 ちょ、ティーカップにヒビ入ってっから! やめろって!!


「まぁ待てってエリノア。まずはコイツの言い分を聞いてからだ。」


 このままじゃ話が進まんと思い、俺が割って入る。

 俺はクリープを一瞥する。


 外見や喋り方はチャラそうに見えるが、部屋に入るなり謝罪を口にしたコイツは、そこまでのクズ野郎には見えない。

 それにもしコイツをぶん殴る権利があるとしても、それは俺やエリノアではなくシャルのはずだ。


「なぁクリープ。事情があったんだろ? 話してくれないか?」


 俺が促すと、クリープは苦い顔で話し始める。


「一年前のその日、オレはいつものように街に買い出しに出ていたっス。」


 まぁ従者だもんな。


「街を歩いていると、不意に頭の中に"声"が聞こえたんス。」


「声? ……って、もしかして"念話"ってやつか!?」


 エリノアが前に説明してくれた。

 確か……離れた場所にいる者と連絡を取る高位の呪術だっけ。


「はいっス。最初は呻き声みたいなモンだったんすけど……よく聞いてみるとそれは聞き覚えのある声だったんス。微かな声だったっスけど、それは間違いなく……"ロックウェル様"の声だったんス!」


 "ロックウェル様"……シャルと同じ姓で、クリープが"様"を付けて呼ぶってことは……


「まさか……! 魔王軍幹部の……【オリハルコンゴーレム】のロックウェル様ですの!?」


 エリノアが驚愕して問う。


「でもロックウェル様は、人間の軍勢に攻められた際にお亡くなりになったんじゃ……!?」


「オレもそう思ってたっス。でもその声は明らかにロックウェル様のものだったんス。」


 クリープは頷いて続ける。


***


(ロックウェル様!? ロックウェル様なんスか!?)


(クリープよ……聞こえるか……?)


(聞こえるっスよ! ご無事だったんスね!?)


(……返事は無いか。)


(え? 聞こえてるっスよ!)


(……何も見えぬ。……何も聞こえぬ。……クリープよ、すぐに来い。)


(え!? ちょ、お嬢どうするんスか!? 置いてっちゃマズいスよ!?)


(……すぐに来い! ……今すぐにだ!)


(ちょ! ロックウェル様!? ロックウェルさまぁーー!!?)


――ブツン。


***


「ロックウェル様の一方通行な念話に呼ばれて、オレはお嬢を置いて街を出たんス。オレも必死で抵抗したんスけど、"血の盟約"で命じられちゃ逆らえなかったんスよ。そんなワケで……お嬢、マジすんませんっした!!」


 クリープは再び土下座する。


 つってもこれ、完全な不可抗力だよね?

 むしろ悪いのロックウェル様じゃね?


「それで、ロックウェル様は見つかったんですの?」


「はいっス。一年掛かったスけど、なんとか見つけました!」


 クリープが答える。

 しかし生きてたんなら何でもっと早くに発見されなかったんだ?


 俺の納得いかない表情に気付いたらしく、クリープが付け足す。


「ロックウェル様は、人間の軍勢に攻められた際、最後に"自爆"したんス。」


 自爆!?


「周囲数百メートルを更地にする程の爆発だったんスけど……オレは思ったんス。もしロックウェル様が生きてる可能性があるとすれば、自爆の際に運良く"コア"だけがどこかに飛ばされたんじゃないかと。だからオレ、魔族領に戻ってロックウェル様を探したんス。」


 エリノアはその話に驚きながらも補足する。


「【物質種】はコアがあれば最低限の自己保存が可能らしいですわ。でも……コアだけでは活動は不可能。食事も移動も出来ず、通常は時間と共に消滅してしまうハズでは……?」


 クリープは頷く。


「そうっス。短期間ならともかく、数年を経て生存しているってのは普通じゃあり得ないコトなんス。だから残るのは……"何らかの方法で他の生物の体を借りて生存してる"って可能性だと思ったんスよ。」


「体を借りる!? そんなコト出来んの?」


 俺の言葉に、クリープは深く頷いて続けた。


「魔族の文献にある事例なんスけどね。強い力を持った物質種のコアを弱い魔物が取り込んだ場合、それを内側から乗っ取ることが稀にあるらしいス。」


 マジか……。

 つまりロックウェルは他の魔物に運良く取り込まれて、その体を乗っ取ってたのか。


「……クリープ……じじ様、……見つけ……たの?」


 シャルはクリープを見つめる。


「見つけてなきゃ、申し訳なくてお嬢の元に戻れなかったっスよ。ちゃんと見つけたっス! ご存命っスよ! 余りにも元と違う見た目なんで、見つけるのに時間が掛かったっスけどね。」


 クリープの言葉に、シャルは明るい表情を見せる。


「で? その"弱い魔物"って?」


 俺の問いに、クリープは視線を部屋の隅に向ける。


「"アレ"っス。」


 そこにはクリープが背負っていた大きな荷物が置かれていた。


 ……は?

 アレって……この荷物が?


 俺は荷物を包んでいる梱包を解いていく。

 厳重に包まれたその荷物の正体は……


「……箱?」


 箱だ。

 木で作られた大き目の箱……にしか見えない。


「そろそろ"起きる"と思うっスよ。」


 クリープがそう言ってしばらく待つ。

 すると……


「ふぁ~~~あ! ん? 着いたのか?」


 喋った!!?

 木箱が喋った!!?


 その場にいる全員が驚く中、クリープが告げる。


「ロックウェル様……【ミミック】に食われちゃってたんスよ。」

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