第十三話 助けてあげたいんです
「あー……俺はレティ。レティーナ=ランドルト。先代魔王の娘で【アークデーモン】だ。で、こっちが侍女で【サキュバス】のエリノア。」
「……シャルピー=ロックウェル。……種族は【ミスリルゴーレム】。……シャルでいい。」
俺たちは人通りの少ない裏路地で話していた。
休憩に入ったシャルは、水筒から水を飲んでいる。
「……じじ様を知ってるの?」
シャルが問う。
ん? じじ様?? 父様じゃなくて??
「オリハルコンゴーレムさまは高齢でご息女をもうけ、家臣に育児をさせたと聞いてますわ。産みの親ではあっても、関係としては"孫"のようなものだったのでしょうね。」
エリノアが補足する。
なるほど。
「あー、知ってるっつっても俺は実際に会ったことは無いんだ。」
「……そう。」
シャルの反応は薄い。
「俺がシャルに会いに来たのは、聞きたいことがあったからだ。」
「……聞きたいこと?」
俺はシャルに、これまでの経緯を話す。
魔族復権推進派の勧誘と、その夜の襲撃。
そしてその裏に、何らかの"特別な事情"があるかも知れないということ。
シャルは一通りの話を聞いて、告げた。
「……わたしのところにも来た。」
「ん? 魔族復権推進派がか?」
「……そう。……魔族領にいた頃。」
なんてこった。
アイツら俺ら以外にも勧誘かけてんのか。
マジ今度会ったら容赦しねぇ。
「……でもその日のうちに魔族領を出てこの街に来た。」
「あー、じゃあ襲撃はされてないのか。よかったな。」
こくんと頷くシャル。
そして少し考えてから、
「……確かに不自然。……でも、……心当たりはない。」
そう答えた。
「ん。そうか。」
……残念ながら空振りだったようだ。
「……でも」
「ん?」
「……わたしの従者なら……何か聞いてるかも。」
おぉ! マジか!
そうだよな! 幹部の娘さんだもんな!
俺らにエリノアが付き添ってるように、従者がいるんだ!
「よし! 従者さんに聞いてみよう! 今どこにいる?」
「……今は……この街にはいない。……ずっと前に、……出て行った。」
え、えー……。
オイオイ、職務放棄か?
こんな可愛い子ほっぽって何処行ったんだよ従者。
「その従者とは連絡は取れないのか?」
「……どこに行ったかも分からないし、……わたしは"念話"、……使えないから。」
ん? "念話"?
「呪術の一つで、離れた場所にいる者と連絡を取る手段ですわ。高位の呪術ですから、使える者は限られますが……。」
エリノアが補足する。
なる。テレパシーみたいなモンか。
「……だから、……力にはなれない。」
マジかー……。
……まぁしょうがねぇか。
じゃあ最低限"やらなくちゃならない事"をしよう。
「ん~。それならシャル。俺らと一緒に来ないか?」
「……?」
俺の言葉に、シャルは?マークを浮かべる。
「さっきも言ったように、魔族復権推進派っつーメンドクセぇ奴らが追ってくるかもしれねぇんだ。俺らが狙われた事情が分かって安心できるまでは、一緒に居た方が安全だと思う。」
まぁ俺らと一緒に居ることで襲撃に合うかもしれないが、この街に一人でいるよりいいだろ。
……最悪、もし無関係ならシャルだけでも逃がしてやればいい。
「そうしましょう! それがいいですわ!」
エリノアがはしゃぐ。
お前、幼女が増えて嬉しいだけだろ。
……俺もだが。
だが、シャルはしばらく考えた後、俯いて答えた。
「……ありがとう。……でも、……仕事があるから、……無理。」
うーん、"仕事"ね。
「俺らと来れば、とりあえず食うのに心配はいらないぞ?」
俺は右手からポン!と"あんぱん"を出し、シャルに手渡して食べるよう促す。
あんぱんを齧るシャル。
「……!……おいしい。」
シャルは驚き、一瞬だけ年相応の可愛らしい表情を見せてくれた。
しかし、その表情はまたすぐに曇ってしまった。
「……でもダメなの。……"司祭さま"の言いつけだから。……わたしは仕事しなくちゃ、……ダメなの。」
そう言って、再度断る。
「……ありがとう。……すごく、……おいしかった。」
最後にそうお礼を言って、シャルは仕事に戻っていった。
「ふーむ。……"ダメ"に、"無理"ね。」
遠ざかるシャルの背中を見ながら、俺は考える。
「"行きたくない"ってわけじゃないんだよな。」
「……そうでしょうね。"仕事しなくちゃダメ"って言った彼女、とても辛そうでしたわ。」
"魂"を見て嘘を見抜くエリノアが同意する。
何か事情がありそうだ。
「どうせ次のアテもねぇんだ。ちょっと首突っ込んでみるかー。」
俺が棒読み調につぶやく。
「フフ、素直に"助けてあげたい"って言えばいいんですわよ。」
エリノアがクスクスと笑った。




