第十二話 はじめましてはお仕事中
「見えてきましたわ。」
「お、おぅ…ようやくか…。」
荷馬車に揺られること二日半。
俺たちは目的の、霊峰の街"アッシズオーク"に辿り着いた。
俺たちは荷馬車から降りた。
もちろん、【既視の魔眼】で出した物は怪しまれないように全部回収してからな。
エリノアは荷馬車の主に礼をして、ここまでの運賃を渡していた。
「わー! すっごいよ、おねーちゃん!! おっきい山!!」
「すごいの! お空の上まで届いてるの!!」
アイリスとコロネは長旅の疲れなど感じさせない程元気だ。
あれが霊峰"ジフュー"か。
確かにでけぇ。
エリノアが言うにはこの大陸一の独立峰とのことだ。
……が、今の俺には絶景を楽しむ心的余裕は無かった。
「お嬢様、どうします?」
「と、とりあえず宿……。」
途中、あまりにも暇だったので【既視の魔眼】で"ライトノベル"を出して読もうとしたのが不味かった。
揺れる荷馬車で文字を読むのは自殺行為だ。
あ~……頭がグルんグルんするんじゃ~……。
***
「いらっしゃいませ! 霊峰の宿"フヨウ"へようこそ!」
街の入り口近くの宿に入ると、店員が迎えてくれた。
宿泊予定を聞かれたのでとりあえず五日と答えておいた。
部屋に入り、荷物を降ろす。
「あ~~。しんどいっ!……いてぇ!」
俺はベッドにダイブする。
が、スプリングの効きは思ったより悪かった。
「わーい! お泊り~!」
「ふぉぉ……! まどの外にさっきのお山が見えるの!」
アイリスとコロネは部屋に入るなりハイテンションだ。
「おねーちゃん! ちょっと宿の中を探検してきてもいい!?」
アイリスの提案に、コロネも目を輝かせる。
「……おぉ。外には出るなよ?」
「はーい! じゃあ行ってくるねー!」
「すごいもの見つけてくるの……!」
……元気だなぁ、ウチの子たちは。
なんか休日のお父さんの気分だわ。
まぁ宿の中なら危険はないだろう。
俺は……うん、とりあえずひと眠りしたい。
「ふあぁ~……。とりあえず"幹部の娘さん"探しは明日から……」
「あ! 居ましたわ!」
……はい?
「エリノア? 今なんて言った?」
俺はエリノアに顔を向ける。
「ですから! "幹部の娘さん"が居ましたわ!」
俺は窓の外を指差すエリノアに駆け寄り、視線の先を追う。
「あの方ですわ!」
見れば……シスターさんが着るような修道着を着た、小柄な女の子が街道を走っていた。
水色の髪で、綺麗な顔立ちなのはこの距離からでも分かる。
「どうしてあの子ってわかるんだ? 会ったことあんの?」
「"魂"が魔族のそれですもの。あれは"物質種"の魂の色ですわ。」
マジか。
このサキュバス、ポンコツに見えるが意外と有能だな。……ポンコツに見えるが。
俺たちは宿を出て"娘さん"を追いかけた。
目立つ格好だ。多少離れてもわかるだろう。
しばらく走ると、彼女は数百メートル離れた家の前に居た。
「おーい!」
俺は彼女に駆け寄り、声を掛ける。
……事案じゃないぞ?
「……?」
彼女が振り向く。
おぉう!
やっぱ遠目で見た通りの美人さん……というか美幼女だった! ひゃっほう!
頭を覆ったベールから伸びる水色のセミロングの綺麗な髪。
深い琥珀色の瞳が、俺とエリノアを見つめていた。
「……何か用ですか?」
……さて。何と説明しよう?
往来の多いこの街道で、「魔王軍幹部の娘さんだよね?」なんて切り出せない。
悩んだ末に、俺はこう口にした。
「俺たちは……君のお父さんを知ってる者だ。」
……うん、言ってから思ったよ。
これ誘拐犯御用達の誘い文句じゃん!!
やっべ、怪しまれたか!?
「……もうちょっとで休憩になる……待ってて。」
ほっ。セーフっぽい。
しかし休憩? と思い、俺は彼女を改めて見る。
彼女は肩から大きなカバンを下げていた。
カバンの中身は郵便物らしい。
あぁ。配達中なのか。
……ん? 修道着で配達?
俺が疑問に思っている間に、彼女は配達に戻っていった。
……まぁ後で聞けばいっか。




