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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 最終章 はるかぜとともに
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最終話 春風と共に……

 魔王選定選挙は、シュレムの親父さん……ログマーさんの勝利に終わった。


 シュレムと約束した"親父さんの選挙を手伝う"という俺たちの目的も、これで無事完了というわけだ。


 となれば絶賛右腕負傷中の俺は、少しでも早く王都を発って、拠点である人間領に戻りたいところだ。

 ……予定よりかなり長い旅になっちまって、お留守番中のみんなも心配してるだろうしな。


 有難いことに、帰りの手段はログマーさんが用意してくれることになっている。


 ログマーさんに「朝一で出発も出来るけどどうする?」と問われた俺は……


「いや、少しだけ待ってもらってもいい?」


 と返した。


 実はまだ、この魔族領王都で"しなければならない事"があるのだ。


 ……いや、その言い方も正確じゃないな。


 この旅の、"本当の目的"――。


 シュレムから魔族領に来て欲しいと頼まれ、一度は拒否した俺が心変わりをした理由――。


 それは……


***


 魔族領王都中心部――王城。


 かつては"魔王城"と呼ばれたその荘厳な城郭に抱きかかえられるように――その広場はあった。


 王城前広場――。


 日当たりのいい場所に設けられたその広場は、通常の広場と同じく、休日には子供たちや家族連れの憩いの場になっていたりもする。


 だがこの場所には、寂しさや口惜しさ、やりきれない想いを抱えて訪れる者も多くいる。


 広場中央――噴水に囲われたその場所にあるのは……"慰霊碑"だ。


 先の戦争で命を落とした者たちを慰める為に建立された、鎮魂の為の石碑。


 その中にある一際大きな五つの石碑の前で……俺と幼女たちは、手を合わせていた。


 そう。

 これが俺の、この旅の"本当の目的"――。


 "墓参り"――。


 幼女たちは、戦争終結とほぼ同時に人間領で暮らすことになっちまった。


 亡くなった親父さんたちの墓参りもろくに出来ずに……。


 だから、前から考えてたんだ。

 いつか魔族領に行く機会があったら、みんなで一緒にお墓参りに行こう、って。


 今回のシュレムからの申し出のお陰で、それがようやく叶ったのだ。


「……。」


 石碑の前で、無言で手を合わせる幼女たち――。


 五つの石碑に刻まれているのは、幼女たちの親父さんの名――つまり、魔王軍幹部の名だ。


 物質種【オリハルコンゴーレム】 アイゾット=ロックウェル


 獣種【キングベヒーモス】 ディエゴ=フォン・リンネ


 霊種【タナトス】 ブライト=メタモルフォーゼ


 竜種【ティアマト】 ハイデルベルク=ウィンチェスター


 魔王の石碑を囲うように建つ、四つの石碑――。


 その石碑を前に目を閉じる幼女たちは、きっと心の中でたくさん話をしていることだろう。


「……さて、そろそろ行こうか。」


 頃合いを見て俺が声を掛けると、幼女たちは目を開く。


「みんな、どんなこと話してたんだ?」


 俺が問うと、幼女たちは順番に口を開いた。


「自分は……父上にご報告をしていたであります。自分も父上と同じように、生涯を捧げて仕えたいと思える方に出会えましたと。」


 少し恥ずかしそうに、ロロが告げる。


「わたしもね……パパに教えてあげたよ。心から信頼できるお友達が出来たよって。だから安心してね、って。」


 微笑んでミリィが告げる。


「妾は……お父様にお願いしたのじゃ。絶対に追いつきたい好敵手(ライバル)が出来たから、その者に追いつくまで見守っておってくれとな。」


 キリッと顔を上げてグリムが告げる。


「……わたしも……じじ様に伝えたよ。……とっても大切な人が出来たから……その人のためにがんばる、って。」


 頬を染めてシャルが告げる。


「ん。そっか。」


 ……あれ? なんか忘れてる気もするけど……まぁいいか。


「おねーちゃん! わたしもね! おとーさんに元気にしてるって言ったよ!」


「ころねも! れてぃねぇとアイねぇのいうこときいて、いいこにしてるっていったの!」


「おぉ、そっか! 二人ともえらいぞー!」


 アイリスとコロネの頭を撫でていた俺に、グリムが聞いてきた。


「そう言うレティーナは、何をお話ししたのじゃ?」


 そう問われて、だが俺は、


「いや、俺は特に話してねぇよ?」


 と答えた。


「よかったんでありますか?」


 ロロが心配そうに聞いてくるが、俺は笑って答える。


「あぁ。その代わりに……実は俺、一足先に"お供え"しといたんだ。……ほら。みんなの親父さんの石碑の前にもあったろ?」


 そう言って俺が指したのは……石碑の前に供えられたガラスの瓶だ。


 中にはオイルと一緒に、ドライフラワーやプリザーブドフラワーが詰められている。

 所謂"ハーバリウム"だ。


「あ! これレティちゃんがお供えしてくれたの!?」


 ミリィがびっくりした顔を見せる。


「あぁ。ピクニックに行った日の夕方にな。……で、これにちょっと"仕掛け"をしといた。」


 俺はガラス瓶にリボンで括りつけられた、その"カード"を見せる。


「……! ……これ……シュレムの"呪印"!」


 シャルが驚く。


 そう。

 それはあの日、魔族領に降らせたものと同じ"呪印"だ。


 シュレムの"眠った相手の夢に入る力"が、永眠してる相手にまで及ぶとは思ってねぇけど、でも……


「みんな元気でやってるって伝えるには……これを見てもらうのが一番だと思ってな。」


 この子たちは、一生懸命がんばってる。

 問題が起きても、ちゃんとそれを乗り越えていける。


 どうしても越えられない壁があったら、俺がちゃんとサポートするから……


 だから……安心して眠ってくれりゃいい。


 その呪印には、そんな想いを込めておいた。


 何の根拠もねぇけど……死んだ親父さんたちにも、きっと伝わってると思う。


「さて、じゃあそろそろ行こう。シュレムが待ってるぞ。」


***


「あっ! みなさーん!」


 王城の裏手――。

 普段は兵士の訓練場として使われているその場所で、シュレムとログマーさんは待っていた。


「もう用事は済んだんですか?」


「あぁ。大丈夫だ。」


 荷物を持って集合した俺たち。

 これで、この魔族領ともお別れになる。


「本当にありがとう。君たちには、感謝してもしきれないよ。」


 そう言って、ログマーさんは深く頭を下げた。


「おいおい! 魔王が簡単に頭なんか下げんなよ!」


「いや。戴冠式はまだ明日だ。今はまだ一人の魔族だよ。」


 そう言って、ログマーさんは笑った。


「それに……これは魔族を代表しての"感謝"だからね。」


 その言葉に、俺は、


「……あぁ。じゃあもらっとく。」


 と返した。


「魔族の長なんて大変だろーけど……まぁアンタなら大丈夫だろう。シュレムも、これからは親父さんの事、支えてやってくれ。」


「!……はい!!」


 シュレムは明るい顔で返事を返した。


 ……ん?


「あ、そっか! これからはシュレムが"魔王の娘"になるんだよな!」


 と、今更ながら気付く。


 だが俺の言葉を受け、ログマーさんは首を横に振った。


「実はね……"魔王"の称号は廃止しようと思うんだ。」


「えっ、そうなん!?」


 意外な言葉に、俺は驚く。


「"魔王"は元々、軍事的な意味合いの強い役職だからね。これからは"魔族領統領"として、魔族領を治めていくつもりだよ。」


 そう告げるログマーさん。


 まぁ政治的な話は知らんけど……そっか。

 じゃあこれからも俺は"魔王の娘"を名乗れるってワケか。


 ……別に名乗りたくはねぇんだけどな。


「さて、そんじゃそろそろ出発しようと思うんだけど……」


 俺は周囲を見回す。

 が、ログマーさんが手配しておくと言っていた"帰りの手段"が見当たらない。


 てっきりこの集合場所に、馬車でも用意してくれているものだと思っていたのだが……


 あ、でも陸路はガリオンの野郎が橋を壊したせいで通れないんだっけ。


 となると海路か?

 それにしたってここから港まで行く為の手段が欲しくなると思うんだけど……


 そんなことを考えていた俺は、突如、周囲の景色が暗くなるのを感じた。


 あれ?

 太陽に厚めの雲でも掛かったかな?


 そんな感じで上空を見上げた俺は、


「!? な、ななっ……!?」


 空からゆっくりと降りてきた"ソレ"を見て、口をあんぐりと開けてしまった。


「ド、"ドラゴン"!?」


 大きな翼を広げた巨大な飛竜が、空から降りてきた。


 異世界転生しといてなんだけど、マジのドラゴンを見たのはこれが初めてだ。

 つかスゲェ迫力……。

 こんなのが空飛んでるなんて……今さらだけど異世界パねぇな。


「"飛竜艇"だよ。帰るのにはこれを使うといい。これなら君たちの住む"イナガウ・アッシュ"まで一日もあれば着くからね。」


「使うといい、って……。」


 マジかよ……。

 陸路でも海路でもなく……まさかの"空路"かい……。


「こんなのマジで使わせてもらっていいのか?」


 俺が問うと、ログマーさんは頷いた。


「これも、君が受け継いだ魔王様の"遺産"のひとつだよ。好きに使ってくれ。」


 え?

 でも魔王の遺産って……


「だって魔王の遺産は全部、国に寄付しちまっただろ?」


 国有財産の私的利用なんてしたら、統領就任前からスキャンダルだのなんだの言われるんじゃねぇのか?


 そんな心配をしていた俺の前で、ログマーさんとシュレムは……


 明らかに"事前に打ち合わせをしてある"ことが分かるような会話を始める。


「そういえばシュレム。レティーナさんが魔王様の遺産を受け継いだ書類は、ちゃんと提出したのかい?」


「あ、はい! きちんと提出しました!」


「ではそれを、国に寄付するという書類は提出したのかい?」


「あ! ごめんなさい! 忘れてました!」


「ダメじゃないか! きちんと"来週までに"提出しておくんだぞ!」


「はい! "来週までに"は提出しておきます!」


 ……え?

 なにこの茶番。


「というわけだ。この"飛竜艇"は、今週中は君の自由に使って大丈夫だよ。」


 そう笑顔で告げるログマーさんとシュレム。


「……ったく。屁理屈はどっちだよ。」


 俺もそう言って笑う。


「これも魔王様から教わった"やり方"だよ。……不誠実だと思うかい?」


 そう問われ、俺は首を横に振った。


「……いや。むしろ安心したよ。曲者揃いの魔族を束ねてくんなら、そんくらいでちょうどいい。」


 そうして、俺たちは"飛竜艇"に乗り込むこととなる。

 飛竜の背に取り付けられた"客室"は、これも"呪装"の一種らしい。


 気圧差や気温差を緩和してくれたり、慣性力を軽減したりとか……まぁ要するに快適な空の旅を楽しめる代物だそうだ。


「じゃあな、シュレム。楽しかったぞ。」


 そう言って最後にシュレムの頭を撫でると、シュレムは少しだけ涙目になった。


 だが……ぐしぐしと涙を拭うと、笑顔で告げた。


「はいっ! ボクも……楽しかったですっ!」


 ……うん。

 いい笑顔だ。


「あ、レティーナさま!」


 背を向けようとした俺に、シュレムが告げる。


「これを……受け取ってください。」


 そう言ってシュレムが差し出してきたのは……一枚の金属製らしき"カード"だった。


「これって……"呪印"?」


 金属の表面には、シュレムお手製の"呪印"と同じような魔法陣が描かれていた。


「特殊な金属ですので、作るのはすごく大変なんですけど……その特性の"呪印"なら、何度でも使えるんです。」


 え?

 それって……


「じゃあこれを"見て"眠れば、夢の中でシュレムに会えるってこと?」


「はいっ!」


 なんと!

 それなら俺だけじゃなく幼女たちも、いつでもシュレムと遊べるな。


「ありがとな、シュレム!」


 礼を言うと、シュレムもニッコリと微笑んだ。


***


「レティーナさま~~!!みなさ~~ん!!! お元気で~~!!」


「おぉ~~!! シュレムもな~~!!」


 手を振るシュレムとログマーさん。

 そんな二人を地上に残し、飛竜はゆっくりと高度を上げていく。


「これでこの魔族領ともお別れか……。」


「そうですわね……。」


 少ししんみりと呟くと、隣に居たエリノアがそれに応じた。


「でもお嬢さま? よかったんですの?」


「ん? 何が?」


「お嬢さま、一度もわたくしにログマーさんのことを"見てくれ"って仰いませんでしたけど。」


 エリノアの"力"は嘘や隠し事を見抜く力だ。

 人間領に居たときも、相手を見極める必要があるような時は頼んでいた。


 その流れでいけば、魔族の今後を担うログマーさんを"見て"おくのは必要だというのも頷ける。


 だが……


「必要ねぇよ。」


 俺はそう断言する。


「この間話しただろ? ログマーさんが魔王の遺言状を管理してて、俺がそれを受け取った時の話。」


 俺はその時のことを思い出す。


 魔王のサインのみが入った遺言状――。

 白紙だった遺言状は、俺の魔力を通すことで文字を浮かび上がらせた。


「それってさ。どういうことだか分かるか?」


 俺に言われても、ピンときてない様子のエリノアに、俺は告げる。


「ログマーさんさ。あの遺言状を……好きなように"捏造"出来たんだぜ?」


「あっ!?」


 理解が及んだエリノアが、驚きの声を上げる。


 そう。

 魔王のサイン入りの、白紙の遺言状――。


 そんなモンがあれば、ログマーさんは何でも出来た。


 莫大な遺産の受け取り人を自分にすることも出来たし……


 なんなら今回の魔王選定選挙だって、遺言状に『魔王の後任にログマーを推薦する。』とでも書いてやれば、どうだ?

 魔王のカリスマで、ログマーさんは簡単に当選することも出来た筈なんだ。


「それをしなかったってことは……ログマーさんが欲しいのは、そんなちっぽけなモンじゃねぇってことだ。」


 魔族の平和――。


 それも、自身が魔王になって、無理やり作る平和などではなく――


 魔族の民衆が、自分たちで選んだ"平和への道"――。


 それがログマーさんの、本当に作りたかったモノだ。


「あの人は信頼出来るよ。実力もある。それに……ちょっとあわてんぼうだけど、"優秀な秘書"も付いてることだしな。」


「……そうですわね。」


 俺とエリノアは、そう言って微笑んだ。


「おねーちゃん!!」


「れてぃねぇ!!」


 突然、アイリスとコロネが大きな声を上げた。


「え!? ど、どした!?」


 俺は慌てて二人に駆け寄る。


 二人は高度を上げていく飛竜の後方に、身を乗り出していた。


「お、おい! 危ないからあんまり乗り出しちゃ……!」


 そう言って二人を支えようとした俺は……二人の目線の先を見て、息を飲んだ。


――フワァッ!!


 そこには……薄桜色の風が、視界を埋め尽くしていた。


 地上を見下ろすと、魔族領王都周辺がこの風と同じ色に染まっている。


 "花吹雪"――。


 見れば、俺たちが先日訪れた"ロッカ山"も、満開の花を咲かせていた。


「すっ……げぇ……!!」


 まるで本当に春を運んでいるようなその光景――。


 あぁ、そうか……。

 この風がこれから、魔族領に春を告げてゆくのだろう。


「おねーちゃん! この花びら、わたしたちのおうちまで届くかなぁ?」


 キラキラとした目でそう問うアイリス。


 いや、流石にそこまでは……、と言おうとした俺は、だが……


「そうだな……。」


 と、左手を伸ばして……握った。


「きっと届くさ。だけどもし届かなかったとしても……大丈夫だ。」


 胸元に引き寄せたその手を開くと……その中には花びらが握られていた。


「俺たちが……届けてやればいい。」


 そう言って、俺は微笑んだ。


 そうだ。

 もう冬は終わる。


 凍てついた大地も、降り積もった雪も――


 春風がきっと溶かしてくれる。


 その先に待っているのは……温かな芽吹きの季節だ。


「さ。帰ろう。みんなが待ってる。」


 暖かい春風に背を押されながら――


 俺たちを乗せた飛竜艇は、どこまでも青く広がる空を、ゆっくりと加速していくのだった。

 お読み頂き、ありがとうございました!

 これにて『魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか? ~花降り編~』完結となります。


 第一幕からかなり間が空いてしまって、しかも投稿ペースも遅くなってしまって……

 それでも読んでくれる皆さんのお陰で、完結させることが出来ました。

 もし宜しければ、感想貰えると嬉しいです。

 (良い点でも悪い点でも、なんでも励みになります!)


 それでは!


 (次回作は……どうでしょう? 構想はいろいろありますが……まだ未定ということにしておきます♪)

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