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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 最終章 はるかぜとともに
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第四十六話 キミとよく似た誰かさん

 祈りの街【ルディアム】を発った俺たちは、半日ほど馬車を走らせ――


 とうとう目的地に到着した。


「ここが……"王都"か。」


「はい。」


 魔族領王都【アイザック】――。


 多くの人々で賑わいを見せるこの街は、かつては貿易港として栄えた商業の街だという。


 今も大通りには店々が所狭しと立ち並び、この街の名物とも言える威勢の良い客引きの声が飛び交っている。


「よっ! 可愛いお嬢さん方! どうだい! ウチの商品、見ていかないかい? 土産に喜ばれるよ~!!」


 幼女にも遠慮無く声掛けしてくる店のオッサン達を苦笑いで躱しつつ……


 俺たちは、王都に着いたらまず行かねばならないと決めていた場所へと歩を進めた。


「ここか。」


「はい、そうです……。」


 王都の中央から少し離れた住宅地――。


 そこに建てられた、立派だが少々派手さに欠ける一軒家。


 それこそが……シュレムの"実家"だ。


「大丈夫か?」


 自分の家であるにも関わらず、シュレムはその玄関の扉を前に不安げな表情を見せる。


「……はい。大丈夫です。」


 だがしばらくすると、シュレムは意を決したように深く深呼吸を一回して――ドアノブを回した。


「たっ、ただいま戻りましたーっ!」


 シュレムが家の中へと呼びかけると、すぐに慌てたような足音がこちらに近づいてきた。


「シュレム……!!?」


 顔を出したのは、背の高い、眼鏡をかけた黒髪の男性。


「たっ、ただいま……"お父さん"。」


 おずおずとそう告げるシュレム。


 そう。

 彼がシュレムの"父ちゃん"だ。


 だが告げられた男は、返事を返すどころではないらしい。


「い、今まで何をしていたんだッ! 連絡も無く居なくなって……私がどれほど心配したと思っているんだッ!!」


 そう叱咤の声を上げる親父さん。


 ……いや、まぁそりゃそうなるよな。

 自分の娘が突然家出して、またふらっと帰ってきて……


 大切に思うからこそ、ここは怒って当然だ。


 だけど――


「なぁ、親父さん。 横から悪いんだけどさ。」


 俺はそんなシュレムと親父さんの間に入る。


 親父さんは怪訝そうな顔で俺を見る。


「……キミは?」


「俺はレティーナ=ランドルト。シュレムに連れられて、人間領から来た。」


「!! 魔王様の……!?」


 親父さんは俺の事もご存じのようだ。


 まぁそうだろうとは思った。

 シュレムの話じゃ、シュレムの親父さんは先代魔王に仕えてたって話だったし。


 だが、今はその事は関係無い。


「ここまでの詳しい経緯は、後でシュレムに聞いてもらうとして、だ。要点だけ話すわ。」


 言いながら俺は……少しだけ"悪い顔"を作る。


「俺はこのシュレムに騙されて魔族領に来ることになった。だがこの旅の最中、何度も何度も命の危機に晒された。俺だけじゃなく、俺の大事な仲間たちもだ。」


 ギロリ、と親父さんを下から睨む。


「アンタがシュレムの親父さんだっつーんなら、アンタにはシュレムがやらかした事の責任を取って貰いたいんだが……いいか?」


「……本当なのか? シュレム。」


 俺の要求に、親父さんはシュレムに確認する。


 シュレムは小さく「……はい。」と答えた。


 親父さんは……しばし考えた後に、口を開いた。


「そうか……。娘が申し訳ないことをしてしまった。私に出来ることなら、お詫びをさせて貰いたい……。」


 その言葉を聞いて、俺は思う。


 あぁ、やっぱり……シュレムの性格はこの親父さん譲りだな、と。


 俺は心の中で頷きつつ、だが表情は"悪い顔"を保ったまま、告げる。


「そんじゃ要求させてもらおう。俺の要求はたったひとつだ。」


 そして一呼吸置き、作っていた"悪い顔"を……元に戻して、告げた。


「シュレムの事……許してやってくれ。」


 言われた親父さんは、一瞬ぽかんとした表情を見せる。


「それが……要求かい?」


「あぁ。アンタが父親として、シュレムを叱らないといけないのは分かる。だけど……シュレムも望んでした事じゃない。この旅の間、ずっと苦しい思いをしてきた。だから……どうか許してやってくれないか?」


 シュレムはもう十分罰を受けた。

 これ以上叱られるのを見るのは、正直辛いんだ。


 俺の要求に、親父さんはまた少し考える。


 そして……シュレムの目を真っ直ぐに見て、問い掛けた。


「シュレム。自分のした事が、どれだけ沢山の人に迷惑を掛けたか、分かっているかい?」


「……はい。」


「ではそのことを自分の中で反省し、二度と繰り返さないと誓えるかい?」


「……はい。もう絶対に、こんな事はしません。」


 その言葉を聞いて、親父さんは小さく息を吐いた。


「そうか。じゃあもう私からは、何も言わないよ。」


 そして……そのままシュレムをぎゅっと抱き締めた。


「おかえり、シュレム。無事に帰って来てくれて、本当に良かった。」


 優しい声でそう告げられたシュレムは、それまで我慢していた感情を決壊させるように涙を流した。


「お父さぁん……! ごめんなさい……!! ごめんなさいぃ……!!」


***


 それから俺たちは互いに自己紹介を交わした。


 シュレムの親父さんの名前は"ログマー"さん。

 先代魔王……つまり(レティ)の父ちゃんの頃から、国政を担っていた政治屋さんらしい。


「しかし……やはりというべきか、キミは御父上に似ているね。」


 俺の顔を見ながら、懐かしむようにそう告げるログマーさん。


「ん? そう?」


 ぶっちゃけ俺は魔王の顔も見たことねぇんだけど……幼女に似てるって、魔王さま童顔だったのか?


 俺が顔をぺたぺた触っていたからだろう。

 ログマーさんは少し笑って訂正する。


「あはは! 違うよ。キミの言動が、御父上にそっくりなんだ。」


 そう言って、ログマーさんはまた懐かしむ顔をする。


「さっき、キミがシュレムを許して欲しいと"要求"しただろ? 魔王様もよくあんな風に屁理屈を並べて、私を困らせたものだよ。」


 屁理屈、か。

 転生してきた俺自体は、魔王と関係ねぇ筈だが……

 まぁたまたま俺と似た性格だったのかもな。


 そこまで話すと、ログマーさんは「さて。」と立ち上がる。


「キミが魔王様の娘さんだというのなら、私はキミを"ある場所"へと連れて行かなければならない。」


 ん?

 "ある場所"……?


「"ある場所"って?」


 俺が問うと、ログマーさんは答える。


「王城の地下……"宝物庫"だよ。」


 宝物庫……?

 なんで……?


「そこになんかあんの?」


 俺の問いに、ログマーさんは頷き、答えた。


「先代魔王様の……"遺言状"だよ。」

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