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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第五章 せんりつとともに
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第四十一話 あわてんぼうさんにブレーキを

「レティーナさま……。アナタが……アナタが邪魔なんです……っ!」


 襲撃者の正体がシュレムであることを看破した俺に、シュレムはそう告げた。


 ……うん。

 まぁそうなんだろう。


 シュレムが俺に個人的な恨みを抱く理由なんて思いつかない。


 だとすりゃ、理由はやっぱり今回の魔王選定選挙の絡みだ。


 普通に考えれば、シュレムが敵陣営のスパイだった、って話になるんだろうが……


 だが……


「シュレム。シュレムは……ガリオンの陣営じゃ無いんだよな?」


 ガリオンの襲撃は、一切の容赦が無かった。

 シュレムがガリオンの陣営なら、あんな攻撃はしない筈だ。


 俺の問い掛けに、シュレムは頷く。


「はい……。ボクは……ボクの父は、ガリオンの"対立候補"なんです。」


 その言葉を聞いて、俺はようやく合点がいった。


 なるほど。

 考えてみれば当たり前だ。


 魔王選定選挙――。

 ガリオンが筆頭候補なら、当然その対立候補がいる筈だ。


 シュレムの父ちゃんが、その対立候補――言ってみりゃ現状での"第二候補"なのだろう。


 そこまで思い至った俺は、しかしまだ納得出来ていない部分をシュレムに問う。


「シュレムさ。この旅の最初は、俺たちのこと"敵"として見てなかったよな?」


 そうなのだ。

 ガリオンからの襲撃の際、俺はエリノアの"嘘や隠し事を見抜く力"を借りて直にシュレムを見ている。


 その際にシュレムは"白"――つまり俺たちに敵意を持っていなかったのだ。


 ならば俺たちに敵意を持ったのはこの旅の途中から、ということになる。


 そこが納得出来ない。


 何が理由で、急に俺たちの敵に回ることになったんだ?


 いや……

 というよりもむしろ――


「シュレムの父ちゃんが出馬してんなら……なんで俺をこの旅に誘った?」


 そう。

 俺を"魔王選定選挙の候補の一人"としてこの旅に誘ったのはシュレム本人なのだ。


 父ちゃんが候補として出馬しているのなら、俺を誘っても敵を増やすだけじゃないのか?

 なら最初から迎えに来なきゃいい。


 その矛盾を問う俺に、シュレムは俯きながら答える。


「……賭けだったんです。」


「"賭け"?」


 シュレムは苦々しい表情で語る。


「魔王選定選挙において、現状の筆頭候補はガリオンです。ボクの父は対立候補とはいえ、ガリオンとの予想される獲得票数には大きな差があるんです……。」


 シュレムは拳をぎゅっと握りしめて続ける。


「でももしそこにレティーナさまが割り込んで……"ガリオンと同じ公約を掲げて出馬"したら……そしたら、父にも勝機が見えてくるんです。」


 その言葉を聞いて、俺は納得する。


 あぁ、そういうことか。


 つまりシュレムは、俺とガリオンに"票の食い合い"をさせたかったんだ。


 例えば今、ガリオンとシュレムの父ちゃんが獲得する票の間に、『六:四』の差があったとする。


 そこに俺が、ガリオンと同じマニフェストで出馬したら……


 ガリオン、シュレムの父ちゃん、俺で、『三:四:三』……みたいな票の割れ方をする可能性が出てくる。


 シュレムはそれを狙って、俺を選定選挙に参加させようとしたってワケだ。


「ガリオンが主張するのは『人間との敵対』。そして父の主張は『人間との和睦』……。だからレティーナさまには、ガリオンと同じ『人間との敵対』を掲げて出馬して欲しかったんです。ですが……」


「この旅の途中、俺にそんな気がないことがわかったってことか……。」


 俺が察して問うが……シュレムは首を横に振った。


「いえ。レティーナさまは……それ以上に優秀すぎるんです。」


 そう悔しそうに告げるシュレム。


 ん?

 優秀すぎる……?


 何が?


「このままでは、レティーナさまが"魔王"に選ばれることは確実……そう思って、ボクは妨害をしたんです。」


 ちょ!

 なんで俺が魔王になんの!?


「ま、待ってくれ、シュレム!? なんで俺が魔王になるんだよ!?」


 慌てて問う俺を、シュレムはキッ! と睨みつけて告げる。


「とぼけないでください!! アナタが……アナタが魔王の座を狙っていることは明らかなんです!!」


 涙目のシュレムに睨まれて、一瞬ひるむ俺。


 その間に、シュレムは言葉を続ける。


「先代魔王軍幹部の娘さんたちと共に魔族領入りしたのは、『自分こそが魔王を継ぐに相応しい』と民に知らしめる為でしょう!」


 ……ん?


「防衛の街【アナ・ゴーイ】では、最強のアナ・ゴーイ憲兵団の二大憲兵長、トーブさまとウェノーさまの二人を従え……」


 ……んん!?


「湖畔の街【イヴァラム】では、それまで政治への不干渉を掲げていた竜種の長を説き伏せ、浮動票を獲得し……」


 え!? えぇ!?


「流行の街【アーミセイジ】では、大商会であるトーヴァ商会の会長、ブランカさまとの強力なコネクションを作り……」


 ちょ、ちょっと!?


「そしてこの祈りの街【ルディアム】では! ロール教のカリスマシスターであるシスター・エルマまでも手中に収めたではありませんか!!」


 待て!

 待て待て待て!!


「軍事的、政治的、経済的、宗教的な地固めを、しかもまるで"旅のついで"とでもいうように成し遂げていったんです!! 歩む道すべてを覇道とするその姿は、まさに先代の魔王さまそのもの!! こんなの……こんなのどうやったって勝てるわけが……!!」


「ちょ、ちょぉーっとマテ! シュレム! 待て! 待ってくれ!!」


 悔し涙を滲ませながら告げるシュレムを、俺は必死に止める。


 いや……正直びっくりしたわ。

 そう思って見れば、確かにそう見えるだろうけど、でも……


「なぁ、シュレム。」


「なっ、なんですかっ!? 降伏なんてしませんっ! 例え敵わないとわかっていても……ボクは父の為に……!!」


 まだ冷静さを欠いたままのシュレムに、俺は少々言い辛くなりながらも告げる。


「……あのさ。最初にシュレムが、俺が魔王候補になってるって話してくれたとき……俺、なんて言ったか覚えてるか?」


「ふぇ……?」


 記憶を辿っているシュレムと共に、俺も思い出す。


 あの日――。


 シュレムからその話をされた俺は、開口一番こう返した。


『いやいやムリムリ! 無理だって! 断る!』


 ……うん、我ながら見事な全否定。


 その時のことを思い出したのだろう。

 シュレムも宙を見つめて「あ……」と口を開ける。


「な? 魔王になる気があるヤツが、あんな返事すると思うか?」


 そう告げてやると、シュレムは明らかに戸惑った表情を見せる。


「そんな……!? いや、でも……!! じゃあ【アナ・ゴーイ】で憲兵長二人を従えたのは……!?」


「ロロのお世話になった人が困ってたから助けた。あの二人はその人の後輩だ。」


「【イヴァラム】で長老を説き伏せたのは……!?」


「ミリィが村八分にされてたから爺さんと話をつけただけ。」


「【アーミセイジ】で商会長とコネクションを作ったのは……!?」


「グリムが人間領に生地を卸して貰いたいって話の交渉を手伝っただけ。」


「【ルディアム】でシスター・エルマを……」


「エルマさんはシャルの昔馴染みだ。宿まで送ってもらっただけで、それ以上の繋がりなんてねぇよ。」


 淀みなく答える俺。

 そんな俺の言葉を受けて、流石にシュレムも自身の認識の誤りに気付き始めたらしい。


「じゃあ……じゃあ!! そもそもなんで先代魔王軍幹部の娘さんたちを引き連れて魔族領に来たんですかっ!?」


 シュレムの渾身の問いに、俺は――少し恥じらいつつ答えた。


「そんなもん……俺がみんなと一緒じゃなきゃさみしいからに決まってんじゃん……。」


 ……ったく! 言わせるなよなこんな事!


 あー! ハズい!

 ハズい! ハズい! ハズい!!


 だがそんな俺の気持ちなど、シュレムには察する余裕も無いらしい。


「そんな……じゃあ全部……ボクの思い過ごし……!?」


 シュレムは茫然とした表情を浮かべる。


 俺はやれやれとため息をひとつ吐く。


「ウソだと思うんなら、後でエリノアの"力"を借りて俺を見てくれたっていいさ。今言ったことにウソは無ぇよ。」


 堂々とそう告げると、シュレムはガクッと膝から崩れた。

 その手に握っていたナイフが、カラン――。と音を立てて地面に落ちる。


「親父さんの為に必死だったのは分かるが……ちょっとあわてんぼうさんだったな。」


 そう言って肩を叩いてやると、シュレムは俺の顔を見る。


「レティーナさま……怒らないんですか……?」


「ん? なんで?」


「だって……ボクはレティーナさまを……」


「んー……、まぁでもほら。俺は別にケガとかしてないし、それに……」


 俺はシュレムの頭に手をやる。

 シュレムは一瞬ビクッ! と身体を強張らせる。


 そんなシュレムの頭を――俺はそっと撫でる。


「シュレムも怖かったんだろ?」


「えっ……?」


 意外そうな顔で俺を見るシュレム。


「親父さんの為に俺のこと始末しなきゃいけない。でもしたくない。その葛藤の中で、いっぱい苦しんでたんだろ? ……だったら、もう罰は受けたようなモンだ。これ以上責めるつもりはねぇよ。」


 そう言ってやると、シュレムは――


 まるで凍っていた雪が溶かされたように、顔をくしゃくしゃにして泣いた。


「ごめんなさい……! ボクは……ボクは……!」


 おーおー、泣くなって。


「大丈夫だ。大丈夫……。」


 そう言いながら、溶けかけの雪が残る山道で、俺はしばらくシュレムの頭を撫で続けていた。

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