表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第五章 せんりつとともに
112/126

第四十話 二つ並んだ足あとは

――ザッ、ザッ。


 襲撃者によって宿から連れ出された俺は、夜の山へと入った。

 春が近いとはいえ、山道にはまだちらほらと雪が残っている。


「なぁ……まだ歩くのか?」


 夜の山道を、ナイフを突き付けられたまま歩く俺は、襲撃者へと問い掛ける。


『……黙って歩け。』


 襲撃者は俺の問いを突っ撥ねる。


 もうだいぶ山の深くまで入って来ている。

 街明かりどころか、人の気配さえ全く無い。


 ここまで来れば……やはり狙いは俺の命なのだろう。


「もうこの辺なら大丈夫なんじゃないか?」


『……黙れ。』


 いい加減歩き疲れた俺は、重ねて襲撃者に問うが……やはり突っ撥ねられた。


 襲撃者の声はどんどん苛立ってきている。


「もういいだろ? ここで始末してくれよ?」


『黙れと言っているだろうッ!!』


 俺の再三の問い掛けに、襲撃者は激高する。


『お前に選択権は無いッ! 黙っていろッ!!』


 そんな襲撃者の態度を見て……俺は問う。


「なぁ、もしかして……怖いのか?」


 本来ならば有り得ない問い。

 襲撃を受けた側の俺が、襲撃者に「怖いのか?」などと問うなど筋が通らない。


『ふざけるなッ!! 私がお前を怖がる訳が無かろうッ!!』


 襲撃者の怒りは更に温度を増す。


 そんな襲撃者に――俺は訂正する。


「あぁ、違う違う。怖がってるってのは"俺を"じゃなくてさ……」


 俺は落ち着いた態度で、告げる。


「"殺すのを"だ。」


『なッ!?』


 その言葉に、襲撃者は隠しようもなく動揺する。

 恐らく図星なのだろう。


 人気の無い山奥まで入って、それでも尚俺を殺さないのは、俺を殺すことを躊躇っているのではないか?

 それが俺の推測だった。


 それこそ普通ならば有り得ない。

 ナイフを持って襲撃を仕掛けたくせに、殺すことを怖がる襲撃者――。


 だが――俺はそれが"有り得る"ことを知っている。


 俺は山道を歩く足を止め……"その名"を呼んだ。


「なぁ、そうなんだろ? …………"シュレム"。」


『!!?』


 襲撃者は……俺につられて足を止める。


 ――無言の時間が過ぎる。


 ……ふぅ。

 こりゃこっちから話さなきゃダメかな。


「その認識阻害の呪術さ……姿や声は誤魔化せても、"足あと"までは誤魔化せないんだな。」


『っ!?』


 俺の言葉に、襲撃者は後ろを振り向く。


 まだちらほらと雪の残る山道。


 その雪の上を歩いた俺たち二人分の足あとは……どちらも"子ども"のものだった。


 見覚えのある靴――。


 俺のものと、もう一つは――


『……っ。』


 襲撃者を纏っていたローブが風に吹き上げられたように靡く。


 靡いたローブが襲撃者の身体全体を一瞬だけ隠す。


 そしてローブが降りた後にそこに居たのは……悔しそうな顔をした黒髪の幼女――。


 ここまでの旅で、俺たちをガイドしてくれた――シュレムだった。


「……いつからですか?」


「ん?」


「いつから……気付いてたんですか?」


 苦虫を噛み潰したような表情のシュレム。


 そんなシュレムに、俺は答える。


「ずぅ~っと前。ミリィの故郷で、長老の家に泊めてもらったくらいから。」


「!? う、嘘だ!!」


 余りにも予想外だったのだろう。

 俺の答えを否定するシュレム。


「嘘じゃねぇって。実はな……ずーっと怪しいとは思ってたんだ。」


「そんな……! なんで……!?」


 俺は夜空を見上げて、その根拠を述べる。


「長老の家に泊まった翌日さ。馬車が溝に嵌まってたヤツ。あれって……シュレムが細工したんだろ?」


「!!」


 図星を突かれたのだろう。

 シュレムは大きく目を見開く。


「あの日さ。俺、早起きしちまって、玄関に脱いであったみんなの靴を掃除したんだ。」


 俺は思い出すように目を閉じる。


「俺とエリノア以外の靴が、全部(・・)泥だらけだったんだ。前日遊んでた幼女たちはともかく……新しくなった馬車の呪装を点検してた筈の、シュレムの靴までな。」


 そう。

 それが最初に俺が、シュレムを怪しんだ理由だ。


 あの泥汚れは、馬車を脱輪させる為の溝を夜中に掘っていた時に付いたのだろう。


「そんで二つ目。」


 俺は続けて告げる。


「流行の街【アーミセイジ】の宿に泊まった日……。朝、宿に警告の落書きをしたのもシュレムだよな?」


「!!!」


 シュレムは更に動揺する。


 宿の壁に描かれた落書き。

 『魔王の娘よ 今すぐ引き返せ』と書かれたあの警告文。


 それを、俺は"力"で出した"高圧洗浄機"で掃除したワケだが……


「あの時の落書き……全部"低い位置"に書かれてたよな? わざわざ俺たちの目線に合わせた? ……いや、"そこにしか書けなかった"って考えた方が自然だろ?」


 低い位置に書かれていた為、伸長用ノズルを使わず済んだからよく覚えている。


 あの落書きは、俺たちと同じくらいの身長の人物……つまり"子供"が書いたと考えた方が辻褄が合う。


「少なくともその二点は、シュレムがやったモンだと思ってた。だから……今日の襲撃も、もしかしたら、って思ってた。」


 最初、宿で襲撃を受けた時点では確証は無かった。

 橋で襲撃を掛けてきた連中……"ガリオン"どもの可能性もあったからな。


 だが、雪の上に残った足あとを見て俺は悟った。


 今夜の襲撃者が……シュレムである、と。


「なぁ、シュレム。理由を……話してくれないか?」


 俺が問うと……俯いていたシュレムは、ゆっくりと――告げた。


 悔しそうに、そして――


 悲しそうに――。


「レティーナさま……。アナタが……アナタが邪魔なんです……っ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ