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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第五章 せんりつとともに
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第三十九話 真夜中のお客さま

「もう大丈夫か?」


「……うん。……ありがと。」


 ようやく涙の止まったシャルと一緒に、俺は懺悔室の部屋を出た。


 ぎゅっと手を繋いで――。


 握った手に少し力を込めると、同じ強さで握り返される。


 うん。もう大丈夫そうだな。


 そうしてしばらく二人で歩く。

 ちょうど礼拝が終わったタイミングらしく、教会の出口付近にはまばらに人が集っていた。


「!! シャルちゃん!?」


 その内の一人が、廊下を歩いてきた俺たちに気付き、声を上げた。


「……! ……シスターさま。」


 どうやらシャルの知り合いらしい。


 修道服を纏った彼女はシャルに駆け寄ると、目線を合わせるように屈んでから、シャルを優しく抱き締めた。


「おかえりなさい。久しぶりね。元気そうでよかった……。」


 優しい表情に少しだけ涙を滲ませる彼女。

 そんな彼女の抱擁を、シャルは小さな手で抱き返しながら言う。


「……ただいま。……シスターさまも……元気そうでよかった。」


「ふふっ……。ありがと。」


 そうしてしばらくシャルを抱いていた彼女は、やがて隣に立つ俺に気付いた。


「……シスターさま。……紹介するね。……この子はレティ。……わたしの…………"恩人"。」


「お、恩人て……大げさだぞシャル。友だちでいいだろ?」


「……うん。……とっても大切な……友だち。」


 そのやり取りを見て、彼女は凡そ俺とシャルの関係を把握したらしい。

 俺の方に向き直ると、頭を下げた。


「初めまして。私はこの教会でシスターをしている"エルマ"と申します。」


 それからエルマさんは……ふわっと包み込むように俺を抱いた。


「シャルちゃんのこと、いっぱい助けてくれたみたいね……。私からもお礼を言わせて。ありがとう。」


 彼女の抱擁は……暖かかった。

 初対面だというのに、彼女が本当に心から感謝してくれていることが理解出来た。


 それからシャルとエルマさんは、しばらく話をしていた。


 エルマさんは以前、シャルがこの街に住んでいた時にお世話になった人らしい。

 戦災を逃れてこの街に預けられたシャルを、妹のように可愛がってくれたのだそうだ。


 シャルが本を好きなのも、エルマさんが寝る前に読んでくれた物語に惹かれたからだと聞いて納得した。


 楽しそうに話す二人の姿を見て、シャルがエルマさんを心底尊敬していることがわかった。


「あら、もうこんな時間……。」


 大いに盛り上がっていた二人は、俺たち以外の人がすっかり居なくなった頃ようやく時の経過に気付いた。


「ごめんなさいね、レティーナさん。久しぶりにシャルちゃんと話すのが楽しくって……。」


「あぁ、いや大丈夫だよ。……シャル、もういいのか?」


「……うん。……だいじょぶ。」


 シャルは頷く。


「暗くなってきたし、宿まで送りますね。」


 そう言って、エルマさんは俺たちと共に宿へと向かった。


***


「ただいまー。」


 俺が宿の扉を潜ると、ロビーに居た幼女たちが一斉に出迎えてくれた。


「おかえりなさいであります。レティ殿。その……結構遅かったでありますね?」


「あぁ、まぁな。……なんだ? 心配してくれたのか?」


「い、いえ! 別にそういうワケでは……!」


 代表してロロが聞いてきたが……どうやらミリィとグリムもそわそわしていたらしい。


 ……まぁ公然と『デートしてくる』なんて言ったんだからそれも仕方ないか。

 二人で何をしてきたのか気になっているのだろう。


「別に特別なことはしてないからな。教会に行って話をしただけだ。」


 シャルの悩みの件は伏せつつ、幼女たちにそう報告する。


 それを聞いた幼女たちは……目に見えてホッとした様子だ。


「レティ……。」


 後ろに居たシャルが、何か言いたそうに俺の服をクイクイと引っ張る。


 その視線の先には……俺たちを送ってくれたエルマさんが居た。


 あぁ、そっか。そうだよな。

 みんなにも紹介しとかなきゃな。


「みんなに紹介するよ。シャルの昔馴染みで、この街でシスターをやってるエルマさんだ。」


「エルマです。みなさん、こんばんは。シャルちゃんと仲良くしてくれてありがとね。」


 そう言って、エルマさんはペコリと頭を下げた。


「シスター・エルマ!?」


 突然、宿に大きな声が響く。


 声の主は……シュレムだった。


 え……?

 どうしたシュレム……?


「シュレム? エルマさんの事知ってんの?」


「し、知ってるもなにも……シスター・エルマと言えば、魔族領の国教"ロール教"の若きカリスマシスターさまですよ!」


 興奮ぎみに告げるシュレム。


 お、おぉ……。

 そんなすごい人だったのか。


「幼い頃から戦災を受けた人々の為に献身的に活動した彼女は、戦後に国からの表彰も受けている本物の"聖人"さまですよ! どうしてそんな方が……!!」


 驚愕しているシュレム。


 どうして、って言われても……シャルの昔馴染みってだけなんだけどぁ……。


「私はそんなに立派な者ではありませんよ。実の妹のように大切なシャルちゃんを、肝心な時に守れませんでした……。そちらのレティーナさんの方が、余程立派だと思います。」


 落ち着いた口調でそう告げるエルマさん。


 その様子を、シュレムはまだ驚いた表情で見ていた。


「ん。まぁ立ち話もなんだしさ! エルマさんもお茶くらい飲んでいってよ。」


 なんとなく褒められるのがむず痒くなったので、話題を反らすべく、俺はエルマさんを部屋に招こうとする。


「ありがとう。でもごめんなさいね。まだ教会でしなくてはいけない仕事があるんです。今日はこれで失礼させてもらいます。」


「ん、そっか……。じゃあ……ありがとな。わざわざ送ってくれて。」


 申し訳なさそうに詫びるエルマさんを、無理に引き留めるわけにもいかない。


 俺はエルマさんに礼を伝え、教会へと帰るエルマさんをシャルと共に見送った。


「じゃあね、シャルちゃん。おやすみなさい。」


「……シスターさまも……ありがと。……おやすみなさい。」


 エルマさんを見送った俺たちは、就寝に備えるべく、それぞれの部屋へと戻るのだった。



***


――深夜。


 俺はベッドの中で、眠らずに"待って"いた。


 ……そりゃ俺だって学習するさ。


 これまでこの旅の中で……


 幼女とデートした後は、決まってその幼女がベッドに忍び込んで来てくれる!


 ……理由は未だ不明だが。


 ロロ、ミリィ、グリムと三度も続いたのだ。

 となれば今夜は……シャルの番に違いない。


 実は既にドキドキしている。


 シャルは普段は大人しいが……

 "こーゆー事"に関しては、幼女たちの中で一番積極的だったりするのだ。


 だとすればシャルが"あの状態"――


 ロロたちがなったような、"酔っぱらったように理性を薄めた状態"になってくれたのなら……?


 一体何をしてくれるんだろう?


 そんなことを考えながら、俺はまるでサンタクロースを待つ子供のような気持ちで布団を被っていた。


(……!)


 俺に耳に、廊下を歩く足音が響く。


 その足音は俺の部屋の前でピタリと止まると、


――ガチャリ……。


 ノックもせず、部屋のドアを開けた。


 そしてそのまま……俺の居るベッドへと足音は近付いてきた。


 おぉぉ……!

 ついに……!


 ついに待ち焦がれた時が来た……!


 さぁおいでシャル……!

 朝までいっぱい可愛がってやろう……!


 頭の中をそんな期待でいっぱいにしていた俺は――


 直後響いたその声に、硬直した。


『動くな……。』


(えっ……?)


 シャルとは似ても似つかない低い声――。


 いや……シャルどころか、仲間の誰のものでも無いその声に、俺は背中に冷たいものが伝うのを感じる。


 え……誰……?


 恐る恐る瞼を開いた俺が目撃したのは……


 顔 の 無 い 男 と、自分の喉元を狙う 鋭 利 な ナ イ フ だった。


(ちょ!? マ!? えぇええぇぇ!?)


 フードを被ったその男の顔は、窓から差し込む月明かりをもってしても見通せない。


 完全な闇――。


 そこで俺はハッと思い出す。


 そういえば以前、エリノアから聞いたことがある。


 魔族の扱う呪術の中に、相手の認識を阻害し、顔の無い男に成り代わるものがあると――。

 その呪術を使うと、顔は認識出来なくなり、声も背格好も別人になってしまうと――。


 恐らくこの"襲撃者"はソイツを使っているのだろう。


『レティーナ=ランドルト……。』


 地獄の底から響くような声で、俺の名を呼ぶ襲撃者。


「なん……だよ?」


 抵抗の出来ない俺は、布団に横になったまま返事を返す。


『お前には今から私と一緒に来てもらう。逆らうようなら……分かるな?』


 月光を反射したナイフが、冷たく光る。


「あ、あぁ……。わかった……。」


 俺は両手を挙げながら、ベッドから立ち上がる。


 襲撃者は俺の背後から、背中にナイフを突きつける。


『妙な真似はするな。そのまま……私の言う通りに進め。』


 こうして俺は、深夜の訪問者に促されるまま、宿を出ることになるのだった。

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